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草原にて

広大な草原に2つの掛け声が交差する。


「とりゃーっ!!」


「せいっ!!」



鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡る。

掛け声と鉄音が繰り返される度に辺りの空気が目に見えぬ振動となって草を揺らす。


武器を構える少女が2人、そこにはいた。

年齢は15〜18歳くらいだろうか。


一人は短いブランドアッシュの髪をピンで止め、細身のショートソードをを両手に持ち、背中には並ぶように鞘を2つ背負っていた。


対峙する少女は剣の少女より少し小柄だが、物静かな雰囲気に似合わない大きな槍剣を握り、毛先に青みを帯びたくすんだ銀色の長いストレートヘアーを風に靡かせていた。


響き渡る鉄音は剣と槍剣のぶつかり合う音だった。

それを生み出す少女2人は呼吸を整えながらお互いに間合いを図っている。


剣を持つ少女が先に仕掛けた。


「てやっ!」


その踏み込みは少しばかり地を抉り、風の如き速度を生み出す。間合いを一気に詰め、対峙する少女へ迫り突きを放った。


槍剣の少女は得物を軽く回転させ難なく一撃をいなす。

その円動作から流れるように数歩下がりつつ突きを放った少女の肩めがけ上から槍刀を振り下ろす。



剣の少女は予想していたかのように半身を引きそれを躱すと、左手に剣を抜き振り下ろした直後の槍を右手の剣で抑えつつ槍を持つ少女の胴にもう一本の剣を横薙ぎで繰り出す。


「...てっ!」


しかし、相手の少女は剣先を地に下ろし、薙刀を軸に真上に飛んでおり、そのまま落ちる勢いと共に剣の少女の頭へ蹴りを繰り出した。


「あぶなっ!!」


慌てて剣の少女はその蹴りを衝撃を殺しながら小手で受け止め、後方へ飛ぶと両手の剣を逆手に持ち替え、すぐに間合いを詰め、連撃を放つ。


しかし、それに対して槍刀の少女はすべての攻撃を見切り、受けることなく交わしていく。



「なんでよ!?当たってよ!」



「...イタイのはヤダ...」



そんなやり取りをしながらも銀髪の少女は一瞬の攻撃の隙を見て、身体を反転させながら迫る相手の胸元に柄の先を振り上げる。


その一撃を剣の少女はギリギリに躱し、距離を開き剣を構え直した。


槍の少女も同じように構え直し、お互いに睨み合う。


辺りの空気が今まで以上に震えだした。


「...ハッ!」


槍刀の少女が一瞬にして双剣の少女の懐まで迫り振り上げた槍を振り下ろす。


双剣の少女の姿が消える。


一瞬にして相手の後ろに回り込み剣を振るが、槍刀の柄ですかさず防御され攻撃は届かない。

地面からは冷気が立ち込め、足元を氷が包み込み、凍らせる。


(魔法まで出してきた...!ならばこっちも!)


双剣の少女は迫る槍を片手で防ぎ、足に気を込めた。


すると足を包んでいた氷が砕かれ、爆発的な速度で槍刀の少女に迫る。


「ー風花四式ー」


双剣の少女の姿が4つに分身し、槍の少女に迫り、前方4方向から2振りの剣で8つの剣撃を放つ。


槍の少女は左手を地面に着け、短く詠唱する。


「冷たき精霊たちよ、其の堅牢を現さん」


氷の壁が槍の少女の前に出現した。

剣撃が氷を破壊した。


「しまった!」


双剣の少女が叫んだ時には槍の少女は低い位置から槍を突き上げるところであった。


しかしそれでも双剣の少女は後ろに無理やり飛ぶことによってそれを回避した。


「...いまのでトドメかと思ったのに...」


「そう簡単にはやられないよ!」


再びお互いに武器を構えなおす。


そして、双剣の少女が仕掛けようとしたその時



1人の男が少女達の方へ近づいてきた。


すると、槍刀を持つ少女が構えを崩し

「...師匠が来た...」

と呟くと


「いいところだったのに...!」

と剣を持つ少女が同じく構えを崩し、頬を膨らまして不満げに声を出した。


すると1人の壮年の男が姿を見せ、少女達に声を掛けた。

「それ以上やったらいけないよ、さぁ今日はここまでにしなないか」


「えーっ!」

剣を持つ少女からは不満の声が。


「ふぅ」

と槍刀を持つ少女は涼しげな様子で汗を拭う。


「これからが良いところだったのに!まだまだ技を試したかったのにぃ!」


「...前から毎晩練習してたやつとか...?」


「なんでアスハがそれ知ってるの!?ししょー!もしかしてアスハに教えたの!?」


「そんなことしないよフィリス、でも君が毎日夜中に外に出て練習しているのはみんな気付いてたけどね」


師匠と呼ばれた男は笑いながら言った。


「たしかに...アスハ気付いてたの?」


「フィリスが夜中こっそりベッドから抜け出して練習してるの見てたから...」


「うっ...バレてた...」



師匠と呼ばれる男はそんなやりとりを見ていたが、ここに来た目的を思い出し少女達に言った。


「さぁ、帰って夕飯にしようじゃないか。今日はリンゴパイもあるよ」


「リンゴパイ!?アスハ、早く行こう!」


フィリスはアスハの手を引くと凄まじい早さで家の方へ走り出した。


「疲れたから...もっとゆっくり...あと帰宅に瞬歩は使わないで...」


アスハは呆れたように文句を言いながらも、抵抗できず引っ張られていった。



そんな2人を男は笑顔で眺めていた、そして静かに空を見上げながらゆっくりと歩き出し、


「———あなた方のご息女には私の全てを教えました、私は役目を果たせたでしょうか…」


男は懐かしそうに、しかしどこか悲しそうに呟いた。






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