退院のかおりちゃん
退院のかおりちゃん
退院の日、お医者さんと看護師さん達にお礼とお別れを言い、お母さんに付き添われてかおりちゃんは病棟を出ました。
放っておいたら大変な事になったかも知れない病気でしたが、偶然にも早くに見つかったので、手術も簡単に、短い入院ですんだのでした。
かおりちゃんの入院した部屋は、とてもいい所でした。
四人部屋なのに、他の人は誰もいなくて、まるで広い個室。
ちょうどいい柔らかさのベッドに、真っ白なシーツが折り目もなくピシッ。
掃除も行き届いていて、無駄なものがありません。
ごちゃごちゃと物のいっぱいあるかおりちゃんのお家の部屋とは、大違いです。
「入院だ」
かおりちゃんは、目を輝かせました。
それは、ゲームもマンガもスマホでやり放題、読み放題だったからです。
普段、一日中そんなことをしていれば、必ず何か言われます。
でも入院中は、誰にも見られず、叱られもしません。
食事も決まった時間に出てきて、後片付けも全部やってくれます。
エアコンも一日中かかっていて、カイテキです。
ベッドの上でゲームをして、マンガを読んでゴロゴロしていれば、ほとんど全て看護師さん、他の人がやってくれるのです。
どんなにダラダラしていても、かおりちゃんを心配し、気遣ってくれるのです。
入院、バンザイです。
ただ一つ心配だったのは、手術が痛いかどうかだけでした。
でもお医者さんは、麻酔をするから痛くないよと言ってくれ、本当にその通りでした。
手術の時に切った所はちょっぴり痛かったけど、我慢できるぐらいの痛さでした。
手術した後も、ベッドの上で一日中ゴロゴロ、グーグー…、いえ、そうしなければならないのです。
かおりちゃんにとっては天国です。
朝から晩まで、ゴロゴロ、ダラダラ、グーグー。
こんなに、こんなにいい生活だったのに、とうとう退院の日が来てしまいました。
のろのろと病棟を出ると、かおりちゃんは振り返って、「はぁ」と大きくため息をつきました。
『あぁあ。手術のいらない、どこも悪くならない、好きなだけ入院出来る病気になりたいなぁ』
かおりちゃん、ただのグータラです。
そんな背中を叩いて、お母さんが言いました。
「あんた、いい年なんだから、早く帰ってダンナの世話しなさいよ」