アルミナ侵攻(4)
投じられた直径が25cmのボールは放物線を描かずに、ぴったりとリューンの手に収まる。すぐさま彼はガススラスターをσ・ルーンで操作して噴かせると、反対側の壁に一気に迫る。ところがそこには動きを察知していたペルセイエンの姿があり、迂回すべく身体を横滑りさせたところで敵チームの女性陣がたかってくる。
「観念なさい。あんたはこんな遊びで女に当たれるタイプじゃないでしょ?」
アルタミラの言は図星である。が、簡単には退けない。
「そいつは間違ってねえが手詰まりでもねえぜ」
「ルッティ、後ろ!」
「でっ! ちょ、速っ!」
すり抜けるように泳いだフィーナが後ろ手に回したボールを受け取っていった。
ここは第5ジャンプグリッド警備要塞の艦艇ポートである。隔壁奥のドックであればアームドスキン格納庫と同じ0.1Gなのだが、ポート内はほぼ無重力。その場で一番近い壁面へごく僅かな引力が働いているに過ぎない。それも全く気にならないレベル。
本来収まっているはずの艦艇は出払っている。鹵獲されたそれらは、簡単なマーキングで区別できるようされたうえで、移動能力を持たなかった元小規模組織グループへと分配された。彼らは運用完熟のための訓練航宙へと旅立っている。
そこで、空いたポートに注気し、ベゼルドラナンのパイロットたちが思い思いに遊んでいるのだ。
リューンたちがやっているのは、パイロット訓練にも採用されている球技の一つ。背負ったガススラスターをσ・ルーンで操作し、チームでボールを保持しつつ敵方の壁の枠内に当てれば得点できるというルール。
戦闘訓練の一部だけに、結構な当たりまでが許可されていて、スキンスーツ着用が当然の球技である。スラスターの感応操作とフィジカルを同時に鍛える意図があるのだろう。
当初、忙しいダイナを除いた男女四人ずつに別れて始めようとしたのだが、三十一歳のモルダイトが「若い奴らと同じに動けるか」と言い出し、急遽フィーナが男性チームへと加わったのである。
それは人一倍女性に優しいモルダイトの照れであろうが、誰も指摘しないのだった。
「押さえな、ミント!」
かろうじて反応したミントへアルタミラの指示が飛ぶ。
「ひゃー、ぎりぎりー!」
「ちっ、間に合わないか!」
「身が軽い分、加速が違うんですよ」
ブロックに入ったピートとフレッデンの間をミントはすり抜け、軽やかな身のこなしでフィーナのシュートコースへと割って入った。
「僕の勝ちー!」
「あん、もう! あと少し……、なんてねー」
「へ?」
彼女がポンと上へとボールを放ると、そこを通過したリューンがさらっていく。さっきの彼へのパスもフィーナからだ。兄妹の連携は完璧に近い。
ボールを手にしたリューンは即座にシュート。まだそれなりに距離は残っていたのだが、的の中央に命中した。
「なんだい。その長いシュートも当てちまうのかい」
審判役のモルダイトが得点を宣言すると、アルタミラは不平をこぼす。
「ビームカノン持たせても当たりゃしないのに、ボールは当たるんだねぇ」
「不思議」
「誰にもこの馬鹿は理解できないと思いますよ」
ペルセイエンとフランチェスカも彼女に賛同する。
「うるせえよ! 操縦と実際に身体動かすのは違うだろうが!」
「知らないと思ってる? あんたがハンドレーザーだって当てられないのは有名なの! 恥ずかしー!」
フランチェスカに痛いところを突かれた。確かにリューンは手持ちの銃器でも非常に命中率が悪い。σ・ルーン照準が使えない分、アームドスキンでの射撃より酷いとエルシに笑われたものである。
「さ、次つぎ。もう勝負は決まったようなもんだけどね」
「言ってろ。連続得点で一気に追いついてやっからな」
「させないもーん」
インターバルを挟んで一時間ほどの試合時間で、結局女性チームが21-18で勝利する。本格的な試合では男女でガススラスター出力が調整されるのだが、今回は調整無しだった。やはり体重の軽い女性のほうが加速や旋回半径で有利。その差が如実に現れたようだった。
「はー、いい汗かいたー。でも、こんなに遊んでていいのかな、お兄ちゃん? ここはもう敵地なのに」
フィーナは少し不安を感じていたようだ。
「ああ、こんな立場でこんなに早く帰ってくることになるなんて俺も思ってなかったぜ」
「おや、自信家の君らしくないじゃないですか」
フレッデンにとっては予想した範囲のことらしい。
「リューンが加わってからの解放戦線は安定したでしょう? 或る程度のところで僕はこんな状況も有りだと思っていましたよ。ただ、その時に君が本当にアルミナを敵として戦うつもりが有るかどうかには自信が持てませんでしたが」
「そいつは杞憂でしかねえぜ。俺様は戦うと言ったら戦う。ただよ……」
彼の想定外は別のところに有ったのだ。
「連中、ハルム星系から追い出されたらよ、音をあげると思ってたんだよ。割に合わねえってな。ところが徹底抗戦ときたもんだ。どうもきな臭え」
「何か裏があると思っているのかい?」
ピートも煮え切らない言動を訝しんでいる。
「心当たりがある。悪ぃがちっとばかし覚悟しといてくれ。たぶん、今までのようにはいかねえ」
「いいさ。ここまで来たらあんたに乗っかるよ」
「……分かった。覚悟を決めとくさ」
リューンは信頼してくれる仲間のために、また捨てなくてはならないと感じていた。
次回 「俺は完全にスパイ扱いだな。傑作だぜ」




