独立と外交(8)
次々と近隣惑星国家との国交正常化を進めているトルメア大統領だったが、肝心の国との交渉がまだ控えている。そちらは彼女の一存で推し進めるわけにいかない。しかし、XFiの同意も得られたため、交渉基盤は整った。
一度はアルミナ王室に会談を申し入れるものの一蹴される。粘り強く交渉相手を模索し、ようやく今日高い権限を持つ相手との通信会談に臨んだ。
「初めまして」
自分のことは調べが付いているだろうが一応自己紹介から入る。大統領と名乗った時点で鼻を鳴らしてくる。アルミナ王国国防大臣キオー・ダエヌはそれを認める気はないという合図だろう。
「何が言いたい? 一応は聞いてやる。もっとも無条件での降伏以外認めるつもりなど欠片もないがな」
居丈高に切り出してきた。
「和睦の申し入れですわ。ゼフォーンとしてはこれ以上無益な抗争は望んでいません。可能ならば正常な国交をお願いしたいのですけれど?」
「どうして受け入れられる? ゼフォーンに関してはゴート講和条約で決まっておるだろう。統制管理権は我が国にある。一度たりとて放棄した覚えもない」
「統制管理権に関しては条約内にも期限の記述がありますわ。倫理的な問題が解消された場合は終了するとあります」
トルメアは条約内の文言を引用して翻意を促す。
「その通りだ。だからアルミナ王国はゼフォーンの倫理的問題が解消されたとは判断していない。未だ統制は必要だと考えている」
「再考をお願いしたいのですけれど? アルミナ一国の判断でなくゼムナやガルドワ、ひいては近隣惑星国家もその判断に加わる権利があるはずですわ」
「不要だ。現実に武力をもって我が国に対してきている以上、再び軍政国家へと突き進んでいるとしか思えない」
論理展開としては想定内のものだ。
「行使された武力はゼフォーン政府軍ではありません。抵抗活動は解放を望む市民の声の一つでありましょう?」
XFiは現在もゼフォーン解放軍を名乗っておらず、抵抗組織の位置に留まっている。その他の抵抗組織も軍として認めてはいない。それは相手にこの論理を貫かせてはいけないからだ。
だからといってゼフォーンにまともな軍組織があったわけではない。有効な武力を保持していたのはアルミナ治安維持軍だけで、名目上のゼフォーン軍はろくに装備も持たない、ほぼ書類上だけの存在だった。
ゼフォーンを一国として扱っているという方便だけの軍。それもトルメアが解体してしまっている。
「旧政権の罪は認めましょう。ですが、我が国の国民はこの七十年余り充分に代償を支払ってきたはずです。耐えきれない悲鳴が抵抗活動として表れたのだとお思いになりませんか?」
彼女は切々と訴える。
「苦しいからといって暴力に訴えるのは倫理観の醸成が未だ足りない証明だな。それは我らの教育が行き届いていない所為だろう。反省点ではあるな」
「財を奪われ、権限を奪われ、自由を奪われ、ときに命さえ奪われるのであれば悲鳴の一つもあげるのではありませんか? それが分からない貴殿ではないと思いたいのですが」
「何を言う。そこまでの暴挙を命じたことなど一度もないな」
ダエヌは空とぼけている。
「欲で支配の構図を作り上げた人民を躾けるのであれば、相応の教育が必要ではないか。理解できんかね? 誰に問おうと賛同を得られると思うぞ。ゼフォーンに支配されていた近隣国家であればなおさらな」
「そうでありましょうか? バファレントのノイスマー首相を始め、ヤーグやファリートといった惑星国家の元首の方々はわたくしの言葉に耳を傾け、国交正常化の約束を喜んでしてくださりましたよ。近々使節団の方々が来訪される予定ですの」
「なんだと?」
口元を隠したダエヌ国防大臣は沈黙に転ずる。腹の中では近隣国家の裏切りを糾弾しているのかもしれないが、それを表には出さないでいる。
「勝手は困るな。未だ外交権は認めていなかったはずだが?」
それでも微かに声に不満が混じっている。
「諸外国が国交を望まれているのを咎めるのは内政干渉ではありませんか。いくらアルミナが大きな力をお持ちだとしても横暴でしてよ」
「だとしてもだ、ゼフォーンの統制管理権を持っているのはあくまでアルミナ。諸外国がなんと言おうと独立など認められん」
内心の憤懣の表れだろう。独立を認めているアルミナの対外的な主張と相反する。すでに重臣の見解として破綻している。
「では、どうすればゼフォーンを普通の国として認めてくださるのでしょう? 誰に証明していただけば和睦に応じてくださるのですか?」
「我らが王室の方々の御心に決まっておる。簡単に過去の罪を拭えるとは思わんことだ」
「永遠に隷属せよ、とおっしゃるんですね? 戦争に負けた国家は属国で、国民は奴隷だと?」
あまりに見下した発言に、トルメアも強い口調で訴える。
「外聞の悪いことを言わないでくれないかね。我が国はゼフォーンが自らの罪と向き合わず、未だ省みる姿勢を示していないと判断しているだけ。国際社会にそう主張させていただく」
画面の外から哄笑が響く。議論に冷や水を掛けるような笑い声。
「だから無理だって言っただろ、トルメア? 話なんか通じねえ。こいつはただの欲の皮が突っ張った親父なんだって」
彼女の座るソファーの端で足を組んでいたのはオレンジの髪の少年だった。
次回 「だったらこの顔に覚えがあんだろうが」




