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ゼムナ戦記  伝説の後継者  作者: 八波草三郎
第九話

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独立と外交(2)

 なかなかに鋭い突きだったが腕の甲で滑らせて外へ弾く。捻りを咥えて掌底を突き出すと間一髪で躱された。

 重心がぐらついているうちに足払いを掛けたが踏ん張って受け止められる。重点的に鍛えてきたのは相手も同じ。体躯の大きさと体重差でしのがれる場面が多かった。

 高い位置からの張り手を上体を流して避けると下から膝が跳ね上がってくる。躱せば重心が横滑りしてしまうので受け、そのまま引き込もうとすると摺り足で踏み込んでくる。足場が不安になってきたところへ大振りの横薙ぎを感じた。

 一歩下がって爪先だけを際に掛けて踏ん張る。振られる腕を取ると引き下ろし、反動で重心を前へと戻す。今度は踏み込んで身体を回転させつつ相手を背中に乗せると足腰のバネで跳ね上げた。

 頭上を舞った大きな身体は少し離れた海面で派手な水しぶきを上げる。かなりギリギリの駆け引きに何とか勝利したリューンはホッと一息。


「くっそー、デイブでも駄目なのかよ!」

 先に負けていたオリバーが海面を叩いて悔しがる。

戦気眼(せんきがん)で攻撃を読んでるんだ。勝てるわけない」

「そうでもねぜ。こいつにだって欠点はある」

 そう言ってオレンジ髪の少年は自分の目を示す。

「今のデイブがそうだろうが。流れを決めて詰めてきやがった。そいつに穴が無かったら終わり。詰め切られちまう」

「もう少しだったか?」

「ああ、あそこで俺が退くとは思ってなかったんだろ?」

 デイビットは素直に頷いた。

「体捌きじゃお前が一番上だ。オリバーの攻撃は全部単発なんだよ。一つひとつ捌くだけで勝てる」

「俺は大変なんだ。射撃だって訓練しなきゃいけないんだからな」

「下手だって言いてえのか? けっ! 射撃だってフェイントと本命で流れを作らなきゃいけねえだろうが。手前ぇはデイブにそいつを指導してもらえ」

 痛いところを突かれたと思ったのかオリバーも沈黙する。


 フロートの端に腰を下ろしたリューンの横にフィーナが上半身を持ち上げ、満面の笑みで見上げてくる。どうやら兄の勝利を喜んでいるらしい。

 彼らがやっていたのはそのフロートを使ったゲーム。どんな手段を使ってもいいから直径3mのフロートから落とせば勝ちというルールだ。単純に遊びとしても面白いが、格闘訓練としても役に立つ。

 そう言ってアルタミラがこのフロートを持ち出してきたのだが、本人を含めて選抜されたメンバーが皆彼に負けたところである。


「お兄ちゃんが一番」

 兄自慢が始まりそうだ。

「まだ一人出てきてねえぞ?」

「いるー?」

「あそこで両手に華でデレデレしてる奴だ」


 指差す先には秘書に挟まれてご満悦のダイナ・デズンがいる。彼はその浮き具に座ったまま、高みの見物を決め込んでいた。


「人聞きの悪いことを言うな。こんな時ぐらい休ませろっていうんだ」

 そう主張する。

「許してあげて。妬いているのですよ」

「そうそう。青少年には羨ましい境遇なんでしょ」

 ルテビアもキャサリンも取り合わない。逆にダイナの腕を取って流し目を送ってくる。

「ちっ、トルメアに頼んでやるんじゃなかったぜ」

「なんだったら今からでも総帥の座を譲るぞ?」

「あら、それは駄目ですよ、閣下」

 妙齢の秘書が押し留める。

「剣王が頂点に立つとなればトルメア様ご本人が補佐としてお出でになるでしょうから、わたくしたちはお払い箱になってしまいますわ」

「そんなわけねえだろ。あいつは今、大統領だぞ? 全会一致でな」


 秘書二人を指導して派遣したトルメア・アディドは現在、暫定政府の大統領なのである。制度が間に合わず、市民選挙による選定ではなく議会投票によるもので正確にいえば首相になるが、今後を見据えて大統領となっている。もっとも普通に選挙を行っても彼女が選出されるのは間違いないと言われるほどの支持率になっていた。


「いえ、あの方は確実にいらっしゃいますわ。そのくらい恩義を感じられてますもの」


 ルテビア曰く、リューンがアルミナ人と陰口を叩かれようと毅然と振る舞い、ゼフォーンの解放に力を尽くしたことに感謝の言葉もないと常々口にしているらしい。未だ地位も対価も望まないのを心苦しく思っているという。


「気にしなくてもいいのによ。俺には俺の都合ってものがあるんだから利用されてると思えって言っといてくれ」

「そうはいかないのよ、坊や。女の情は深いの」

 ぞくりとするような視線に射られてしまった。


 結局ダイナは休養を固持したのでフロートには上がらず、女性陣がゲームに興じていた。運動神経が良いフィーナもさすがにパイロット相手では分が悪く、早々に退場。女王はなんと、類い稀なる体幹を誇ったペルセイエン。その彼女の挑戦もリューンは退けた。


「やっぱり誰も勝てないんだ。悔しい」

 ミントも良いところまで行っただけに唇を噛んでいる。

「そうでもないのではなくて?」

「え、女史?」

「彼を相手にするのなら、ちょっとしたコツが必要かしら」


 フロートに上がってきたのはエルシだ。さすがに彼女相手ではリューンも打撃を放ったり組み付いてはいけない。

 何気なく歩いて接近してくると、人差し指で胸を指差される。その指が徐々に上がってきて、鼻の付近でスピードが緩んだ。何も感じられなくて思わず彼が身体を固くすると、スッと上がった指が額を突く。それだけで重心を後ろへ逸らされ、引き戻す前に胸を押されて海面へ身を躍らせる羽目になった。


「ほらね。意識せずに動けばいいのよ」

「できるかー!」


 全員が突っ込んでいた。

次回 「過去の欠片か……」

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