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本星決戦(2)

「えっと……。アルミナを支援できるほどの国となればゼムナ? あとは正確には国じゃないけどガルドワですよね?」


 フィーナがなんとか思い付いたのはその辺りらしい。リューンにも思い当たる節といえばその二つに絞られる。

 かつての三星連盟の一つ、軍事政権が排除されて統制管理下に置かれず民政復興を遂げつつあるバルキュラには未だ力はないと思える。


「ガルドワは他国に干渉できるような状態ではないの」

 引っ掛かる言い方だ。

「なんでだ? 保有技術でゼムナに一歩譲るかもしれねえが、生産力や開発力じゃ人類圏最高水準の施設を持ってるはずだぜ?」

「無理よ。今、あそこには私と同じゼムナの遺志リヴェルがいるわ。そのリヴェルの子が誕生したの」

「ああ?」

 思いも掛けない情報に少年も瞠目する。

「リューンと同じ時代の子が生まれるほどにゴート星系は乱れているのですか?」

「人の思惑が絡み合って拡大した動乱よ。誰かが解決に導こうとしても戦火は勢いを増してしまうような。そういう時には生まれてくるのね。あそこではリヴェルが見つけたわ」

 ヴェートが投げ掛けた質問にエルシは答える。


 ゴートの再生計画がニュースを賑わせることも、ゴート残党のテロが大きく取り上げられるのもさほど珍しいとは思っていなかった。しかし、それが動乱と呼べる規模に発展するのは信じがたい。

 人工氷河期は緩みつつあるとはいえ、現実には雪と氷に閉ざされた惑星。額面通り地下活動しかできない場所で残党がそこまで盛り返すとは誰も思うまい。何らかの思惑が働いているとしか思えない。


(まさか、干渉されたくねえ連中が残党どもを支援してんじゃねえだろうな?)


 ゼムナの政情不安は漏れ聞こえてくる。正確にいえば独裁に近い政権への反発が強まりつつある状況。未だ具体的なニュースになるほどではないが、抑え込むには他国の干渉は避けたいかもしれない。


 アルミナも同様。統制管理下のゼフォーンを御せない内情を突かれたくはない。ガルドワを足留めするために火に油を注ぐような支援をする動機は存在する。


 どちらにせよ表沙汰になれば大問題。そこまで愚かな行動は慎むだろう。だとすればリューンでは予想もできないような状態だと考えられる。


(なら奴らのほうが怪しいな。黙らせるために干渉してくるか?)

 そうなればアルミナの自信の元となる勢力はおのずと知れる。エルシを除けば、他の誰も知り得ない動機にもリューンは心当たりがある。


「ゴートがそこまで混沌とした状態とは思っていませんでした」

「心配無用よ。あちらはリヴェルが動いているのだから私は干渉しない」

 どうやらそういった不文律があるようだ。

「お前みたいなのが動き出してんなら向こうでも大勢死にそうだな」

「こら、エルシ様の所為みたいな言い方をするな」

 ヴェートが聞き咎める。

「お兄ちゃん、駄目!」

「でも、あながち否めないわね。リヴェルや私が関与すれば一時的な犠牲は増えるでしょう。短期的に見るか長期的に見るかの問題」


 リューンが言及したように動乱での短期的な死者数は跳ね上がることだろう。ただし、問題が長期化した場合の犠牲者の数はその比ではないともいえる。


「おいおい、そいつは革命家の主張だ。一般人は目の前の一人の犠牲者だけで泣き叫ぶもんなんだぜ、普通」

 分かり切ったことだが意図的に口に出す。

「何を言う。俺たちは革命家と大して変わらんことをしているじゃないか?」

「違いねえ」

 ヴェートの言い分にリューンはげらげらと笑う。

「もう、二人とも不謹慎でしょ!」

「そうは言ってもよぅ、目の前で流れる血の量にこだわってたら命がいくつあったって足りねえんだよ」

「分かってやってほしい。俺にとってはエルシ様だが、リューンにとっても君の血や自分の血の重さは敵のそれとは違うんだ。それが戦士という生き物なんだと思ってくれ」


 フィーナも頷く。妹とて納得ずくで行動しているのは間違いない。そうでなくてはオペレータなどできない。言い換えれば殺人行為の片棒を担いでいるのだ。その辺は兄妹で話し合ってもいた。


「俺に任せとけ。何もかも綺麗に片付けてやる。エルシの期待なんてのはついでだ、ついで。難しいことなんてねえ。お前の兄貴はいつもそうだろ?」

 ようやく妹の笑顔を引き出すのに成功する。

「うん、お兄ちゃんはいつもそうだもんね」

「お前、妹を飼い馴らしてないか?」

「うるせえ」

 空気を和らげるようにヴェートが差し挟んでくる。

「あなたは私に任せろとは言ってくれないのかしら?」

「いえ! そんな畏れ多いことはとても!」

「あーあ、それじゃエルシは落とせねえぞ」

 崇拝と敬愛の狭間に居る男は弁明に忙しい。


(来るってんなら上等だ。いいかげん、はらわた煮えくり返ってんだからよ)

 フィーナを宥めていながらも、頭の芯には業火が宿る。

(奴ら、バレルの親父まで殺しやがって。絶対に潰してやるからな)

 油断が無かったといえば嘘になる。まさかと思ったことを平気でやる相手だ。

(真実を知ってるかもしれねえ関係者を皆殺しにするってんなら確実にフィーナも狙ってくる。それならどっちが生き残るか最後まで殺し合うまでだ。覚悟してろよ、ゼムナの馬鹿どもめ)

 彼の見据えるべき敵はアルミナだけではない。

(何が来ようが片付けていってやる。順番にな)


 リューンは不敵な笑みを浮かべていた。

次回 「男に生まれたからには、それが本能であり本望じゃありませんか?」

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