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ゼムナ戦記  伝説の後継者  作者: 八波草三郎
第七話

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エルシ・フェトレル(7)

 目まぐるしくも慌ただしく過ぎていく日々の中で、ダイナ・デズンは自分の心だけが置き去りになっているような感覚を味わっていた。


 降りかかってくるのは総帥に判断を仰ぐ類の意見だけでなく期待の目も。それとちょっとした困り事。

 そのほとんどをトルメア・アディドが派遣してくれた秘書二人が処理してくれる。前例に倣ってどういった処理が望ましいか提案の上で彼のところに来るのだ。ダイナはただ頷くのが仕事のような気がしてきた。


 リューンが口利きしてくれたお陰で極めて優秀な人材が速やかに送られてきたようだ。彼なりに責任を感じているのだろうか?


(然るべき人物を充てようとしていたのに重要な役目を俺に押し付けたんだから、これくらいはしてくれても当然だろう)

 そんなふうに考えるようになっていた。

(政治的な判断はそれでどうにかなるにしても、戦略的な判断は秘書(かのじょ)たちに任せるわけにはいかないだろうな。それは俺が何とかしないと)

 悩みは尽きない。


 当面の課題をクリアしなくてはいけない。

 他の組織の吸収で兵力の確保はできている。各地での生産体制も回復してきて装備も充実しつつある。勢力範囲が拡大するとともに戦力が希薄になっていく二律背反は回避した。

 それを察知したアルミナ治安維持軍も無理をせず、戦線の後退を図っている。逆にいえば大戦力で攻勢をかける方向性へと変化していることを意味する。戦闘は熾烈になっていくだろう。その舵取りをするのはダイナに他ならない。


(現場での判断なら経験もあるし自信もなくはない)

 その辺りに不安は無い。

(だが、一から戦術を組む知識は俺にはないぞ。どうしろっていうんだ?)

 考えただけで暗澹たる気持ちになる。


 そして、悩んでいてもブリーフィングの時間はやってくるのだ。


「本日の進行は不肖ながら、わたくし、ルテビア・ホーニーが務めさせていただきます」

 彼女が秘書の一人である。もう一人のキャサリン・ミステルもダイナの後ろに控えてくれていた。

「では、治安維持軍ソントコア基地攻略作戦のブリーフィングに入りたいと思います。基本戦術は総帥閣下より提示されております」


 ルテビアはマップの映し出された大型投影パネルを示しながら基地攻略部隊の展開を説明する。

 とりわけ奇をてらったものではない。旗艦ベゼルドラナンのアームドスキン隊が前面から攻勢を仕掛けつつ、両翼に展開したラーチカルとムーフラッテの機動部隊が機を見て迂回して基地へと肉薄。敵部隊が退き気味になったところでベゼルドラナン隊が一気に攻勢をかけて崩していく形になる。


「不慣れですまない。戦術的には以前の成功例を踏襲しただけに過ぎない。それだけに攻略法を編み出されているかもしれないが、その対応は現場で判断したいと思う」

 彼が捕捉を加えるとムーフラッテの隊長の手が挙がった。

「以前も少し感じたんだが、中央の負荷が重すぎると思う。ベゼルドラナン隊が崩れたときに両翼が浮いて押すも引くも判断付かなくなりそうだ。迂回部隊はそれぞれ十機程度で構わないんじゃないだろうか?」

「それは、最悪迂回部隊が挟撃に遭う危険性を加味した配置です。あまりバランスを崩すのは痛手を負う危険性を高めるので十五機にしてはいかが?」

 エルシが助言を加えてくれて、オルテシオ艦長も頷いている。


(彼女が助言してくれるとは珍しい。戦術においても一歩引いたままでは前回のように少年を窮地に追い込みかねないからか?)

 どちらにせよ、明晰な頭脳の持ち主が積極的な意見をくれるのはありがたい。


「じゃあ、両部隊から十機ずつ与かろう。敵戦力は百機規模と推定しているが、基地直掩に二十機程度は割くだろうから中央五十機で十分な勝負に持ち込めるだろう」

 一様に納得を得られたようだ。

「待てよ。それなら俺様がムーフラッテ隊に回ってやる。一気に斬り込んでさっさと終わらせるぞ」

「うーん、君は正面から切り崩してほしかったんだが?」

「背中に火をつけてやったほうが崩れやすいだろうが。正面はあんたが上手くやれ」


(簡単に言ってくれる)

 が、一理あるのも確かだ。敵中深く入っていくのは彼が得意としているところ。それにフィーナという専属オペレーターが配置されているのだから効果は高いといえよう。


「派手にやる。エルシ、バルカンランチャーを出せるな?」

 勝手に話が進んでいってしまう。

「今夜のうちに二基準備しておくわ」

「それでいい。気ぃ入れてやらねえと俺様が全部食っちまうからな?」

 リューンはラーチカル隊を挑発するように見る。それで彼らのモチベーションは上昇していく。


 その後も様々な意見が交わされ、調整する形で作戦の詳細が組み上がっていった。今までになかったブリーフィング内容にダイナも戸惑っている。


(なんか討議形式になってしまった。でも、上手くいっている気がするな)

 話し合っている間に誰もが覇気みなぎる様子を見せ始めている。

教授(プロフェッサー)の真似事なんて無理だって言われたが、これが俺のスタイルなんだろうか? それならそれで悪くないと思えるな)

 これまでに無いような一体感が窺える。解散を宣言した後も不満や疑問を抱いたままの顔が見えない。

(やっていける気がしてきた)


「ご立派でしたわ、閣下」


 二の腕に感じるルテビアの手の温かさが不安を拭い去ってくれるとダイナは感じていた。

次回 「どうしても払いてえってんなら手前ぇの命で構わねえぜ!」

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