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ゼムナ戦記  伝説の後継者  作者: 八波草三郎
第七話

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エルシ・フェトレル(5)

(皆が慎重に情勢を監視する中、早い段階から動いていて正解だった)

 エルシはそう考える。


 リューンを見出したのはもう八年前になるだろうか?

 多くの個があの一族から興味を失い、知性ネットワーク上では誰も注目はしなくなっていた。彼女も多くの情報を処理する傍ら、惰性のようにあの一族からはみ出した人間を追っていただけに過ぎない。

 ところが監視カメラ映像に映る血統の少年の動きは戦気眼(せんきがん)を持つ者特有のあり得ない反応速度を有していた。それからはリューンだけを追い、彼を取り巻く国際情勢から、どこに収まるように運命の歯車が回り出したのかを見極める方向へと活動を始める。


 当然、アルミナとゼフォーンの関係性がキーになると覚ったエルシは少年が向かうべき場所に素地を作り上げることに注力した。

 技術力を前面に端末(フェトレル)をゼフォーン解放戦線、XFi(ゼフィ)に送り込み、そこの中枢に座る形でサポート体制を築く。XFiが反抗勢力の中心に位置するよう技術を注ぎ資金援助も行う。そうして信頼を勝ち得、自らの立場を生み出した。


 組織の意思とは一線を引きつつも遠回しにアルミナ潜入作戦へと誘導し、リューンを傍に引き寄せることにも成功した。

 ただし、ゼフォーンを中心に作り上げていた干渉力は、両親の他界という兄妹を見舞った苦難への対応は不可能。その誤算を彼女は少し悔やんだが、彼は自力で乗り越えてくれた。


 そして今、少年は目前に居る。正体を見破った上でエルシを認めてくれている。自分の味わっている幸福感はこれまでの注力に報いるに十分なものだった。


(現人類への干渉を控える意見も多かったけど、よく見極めたうえで関与する方針が大勢だったのはきっとこれの所為。個の価値を認められることが存在を続ける意味を生み出してくれるからでしょうね)

 確固として感じられる繋がりがエルシという個に充足感を与えてくれる。


「で、どの部分まで協定として守ればいい? ちょっとばかし厳しいが、パシュランにはあまり触らせないほうがいいのか?」

 これも彼女を重んじてくれる発言だ。

「いえ、誰かに触らせている部分は現段階で開示しても構わないと思われる技術。あなたが気にする必要は無いわ」

「んじゃ、秘密にしなきゃならねえことは無いのか」

「あまり無いわ。そこ以外は人間と同じ構造の身体だけど、頭蓋の中には人工知能以外にフレニオン受動体が入っていることくらいかしらね」


 フィーナとヴェートは青褪めているが、リューンは非常に渋い顔をしているだけだ。現行技術では非常に容量と重量がかさむフレニオン通信装置が、受信機だけとはいえ人間サイズの頭蓋に入っていると告げた。

 その秘密の重さは少年の顔を顰めさせる効果はあったようだ。リューンが仕掛けてきた暴露にちょっとした復讐を遂げられてエルシはあでやかに微笑んだ。


「あまり怖がらせるなよ。まったく、なんで俺なんか選んだんだか?」

 少年は愚痴だか質問だか分からないくらいのトーンで呟いた。

「それは簡単。あなたが『時代の子』だと私が感じたから」

「何だそりゃ」

「私たちが干渉をやめていたのは、過去の失敗から学んだからなのよ」


 ゼムナの遺志と呼ばれるようになったのは、三星連盟大戦中に多くの協定者が生まれたからだ。それぞれの個はゼムナ文明の遺跡技術で戦乱が泥沼化するのを厭い、それを抑止する力を求めて秀でた人型兵器搭乗者を探した。

 協定者は十数人ほどとはいえ過度の干渉は技術的革新を生み出す。大戦終結後、技術開示が戦乱に拍車をかけたと知性ネットワークは判断した。

 戦乱を助長すべきではないというのは総意である。干渉するなら要になる人物を慎重に見極めなくてはならないと結論付ける。その結果、生まれた概念が『時代の子』というものだ。

 そう説明する。


「技術的サポートで戦乱を収束に導くなら然るべき人選をしなくてはいけない。そう考えた私たちは情報を持ち寄り分析した。それで或る事実が判明したわ」

 それは今後の動向を左右する重大な事象だった。

「大きな動乱が奇禍として人類を襲ったとき、その矯正力ともいえる『時代の子』が自然発生するのだと考えた」

「分かりにくいな」

「戦乱を収めるだけの力を持つ子供が生まれるの。のちに英雄と呼ばれる者が」

 フィーナが何かが閃いたように顔を上げる。

「ロイド・ライナックですか?」


 ロイド・ライナックはゼムナに生まれた英雄。大戦半ばにして戦死したが、現在まで語り継がれる象徴的英雄である。


「違うわ。大戦時に生まれた本当の時代の子は息子のディオン・ライナック。彼こそが全ての戦いを終わりに導く力を持っていたの」

 フィーナもそれには思い当たる節があったようで頷く。

「今回はそれがお兄ちゃんなんですね?」

「結果は終わってみないと分からない。未だ判然としない概念だから。でも、私はそう見定めたつもり」

「そうかぁ。当たってると良いなぁ」


 兄のほうは迷惑そうに舌を出しているが妹は期待しているらしい。彼女の信奉する兄がのちに英雄として語られることに。


「面倒な女に絡まれたもんだぜ。本当にエルシ(これ)がいいのか?」

 リューンはヴェートに問い掛けている。

「我が主として更なる忠誠心が湧いてきたぞ」

「入れ込んだって、情が湧いてなびいてくれるようなタイプじゃねえんだぜ?」

「あら、男女の関係を維持できる機能はこの身体にも付いていてよ?」

 護衛の顔が真っ赤に染まる。

「だとよ。良かったな」


 余計な一言で怒りを買う少年をエルシは笑いながら見つめた。

次回 「そんなことを言っては誤解が広まってしまうかもしれなくてよ?」

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