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ゼムナ戦記  伝説の後継者  作者: 八波草三郎
第七話

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エルシ・フェトレル(4)

 ゼムナの遺志。そう人口に膾炙する存在ではない。それでも十五歳のフィーナ・バレルでさえ一度くらいは資料に目を通したことくらいはある。


 分類上は遺跡とされているが、アームドスキンの原型となった人型兵器とは大きく意味合いが異なる。何よりその本体を知る者など歴史上極めて稀とされる。

 端的にいえば、彼らはゼムナ文明が生み出した人工知性である。曰く、様々な種類が存在するようだが、人類とは隔絶した技術力を保有する彼らを判別できないのが実情なのだ。


 彼らが接触するのは秀でた才能を持つ人型兵器搭乗者に限られるとされる。その搭乗者、通称「協定者」の技術的サポートをするが目的は定かではない。なぜなら彼らは多くを語らないし、協定者もゼムナの遺志のことをつまびらかにはしない。それが遺志との協定であり、だからこそ協定者と呼ばれるのである。

 あまりに謎が多く、詳細に説明された資料も無い。そもそも協定者そのものが戦後七十年現れておらず、ゼムナの遺志との接触も無い。しかし、なぜか彼らは人類を監視し続けていると信じられていた。



(本当だ! エルシさんのやっていることって資料で見たゼムナの遺志の行動そのまんま。お兄ちゃんはそれに気付いてたんだ)

 兄の洞察力に感服する。

(用心深いもん。きっとエルシさんの行動の理由を見定めようとしていて、彼女の性質からそういう結論に達したんだと思う)

 正解かどうかはまだ分からない。一笑に付されても仕方のないような問い掛けなのだ。


「思ったより早く気付いたのね?」

 エルシの顔に薄笑いが浮かぶ。

『もう少し試させてもらえるかと思ったけど、これだけ勘が良ければ十分合格よ』

 彼女の横に浮かんだ2D投映パネルの中で同じ顔が結像し伝えてくる。

『あなたは協定者にふさわしいわ』

「感謝すべきなのか、ここは?」

 訝る視線のままのリューン。


 ヴェートは驚きに硬直しているし、フィーナも挟む言葉を知らない。ただ、一つの疑問だけが自然と口から溢れ出してしまう。


「で、でも、エルシさんは人間にしか見えない」

『そういうふうに見えるように作ったのよ』

 彼女の手は自らの身体を示すが、答えてきたのは画像のほう。

『この身体は人間社会で活動するためのもの。私、『エルシ』の端末(フェトレル)なのよ。だからエルシ・フェトレルと名乗っているわ』


 こうして連動して見せられれば画像が録画などではないと実感させられる。それを意図して彼女はこんな回りくどいことをしているのだろう。


「つまり本体はここじゃねえどこかにあるってことだな?」

 納得したように視線を逸らしつつ兄は言う。

『こうして話しているのは身体のほう。端末(フェトレル)と本体の情報並列化にはフレニオン通信が必要だから、だいたい一日一回程度ね。最低でも三日に一回は並列化するかしらね』

「身体を失っても死んだりしねえって意味になるな。でも、作るのは大変なんだろ? そうじゃねえとヴェートのやってることが虚しくって仕方ねえぞ?」

「もちろんよ」

 リューンの気遣いに彼女は自分の護衛へと話し掛ける。

「社会に混ざって暮らせるほど高機能端末の製作にはそれなりの時間が必要。あなたの務めはとても大切だわ」

「は!」

 我に返ったヴェートが姿勢を正す。が、口元は少しばかり緩んでいる。


 彼に対するときはきちんと身体のほうで伝えてくれてフィーナは安心する。エルシはちゃんと人の心が理解できるのだ。そうでなくては配慮など不可能である。


(論理的で冷たさを感じるようなイメージは消えないけれど、やっぱり頼りになるお姉さんって思ってて大丈夫そう)

 彼女はこれまで通りに接していれば問題無いと感じる。


「相手が人間なら欲得づくの部分は絶対に捨て切れねえ。だが、お前が予想通りゼムナの遺志ってことは俺に望んでいることは多くはねえって意味になるな」

 兄はずいぶんと深く考察していたらしい。

「これまでみたいに妹と一緒にしてても問題ねえだろう。しかし、本当に監視してやがったんだな。もう何十年も姿を見せなかったはずだろうがよぅ?」

「当然接触には制約を設けるわ。あなたの言う通り、人間は欲深いもの。技術力の塊のような私たちは垂涎の的でしかないでしょう?」

「もっともだ」


 歴史を紐解けば人類との付き合いも長い。十分に分析されているはず。協定者との関係性もそれに基づいたものであろう。


『それだけなのかしら?』

「他になんかあんのか?」

 エルシは不思議そうに少し首を傾ける。

『反応としては変よ。私はいうなれば人工物。極論すれば、そのロボット犬と同じ物。少しは見方が変わるものじゃなくて?』

「馬鹿なことを言うんじゃねえ。人間じゃねえとは言ったが、それ以下だなんて言った覚えはねえ」

 リューンは呆れるように肩を竦める。

「そもそも、ただの人工物が俺を叱ったりするかよ。そんなことができるのは心のある同等のやつだけがすることだ。お前は人間と同等の存在で、俺の相棒でいてくれればいい」

「リューン……」


 女性体のエルシが感動したように言葉を詰まらせる。そんなところは本当に人間と変わらないとフィーナも思ってしまった。これからもきっと変わらず話し掛けることができると確信する。


「でも、このことはまだ秘密にしておいてもらえるかしら?」

 兄は頷く。


 そして、ヴェートとフィーナにも念押ししてきた。

次回 「厄介な女に絡まれたもんだぜ」

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