野望と陰謀(8)
全高が17m前後、ビームコートも施されていない泥だらけの七機の作業用アームドスキンが並んでいるが、それで本当に戦ってきたのかとリューンは思ってしまう。
「仕方ねえ。もうターナ霧は向こうも検知してる。じきにポートデリーやナクトホーンの状況も入ってくるぞ」
通信阻害されていても、ローカルチャンネルはフレニオン通信を利用して報道する。
「仕掛けるぞ。武器を取れよ」
「よし、やるぞ。先頭に立ってくれ」
「いや、まず武器を準備しろってんだ、モリス」
名乗ってきたリーダーに呼び掛ける。
「武器ならあるぞ」
作業用アームドスキンが左腕を持ち上げると、先の尖った金属棒が断続的に甲高い音を奏でる。派手な振動音が倉庫の中で響き渡った。
「削岩機だ!」
「アホか! そいつは作業機械だ!」
「こんなのもあるぞ!」
今度は右腕をかざすとガイドアングルが飛び出し、微かに青白いレーザー光が薄暗い倉庫内を照らす。作業用アームドスキンは自慢げにそれを振り回した。
「レーザーカッターだ! アームドスキンが歩いても割れない舗装だって、こいつならバターのように切れるんだぜ!」
「だから作業機械だって言ってんだろうが!」
「文句が多いな」
あくまで時間を掛ければ切れるという話である。敵機は黙って切られてくれない。リューンは脱力感に苛まれていた。
地方の小規模な抵抗運動と馬鹿にしていたわけではないが、あまりに貧相な装備に意気消沈する。
「よくもまあ、そんなアームドスキンで戦ってきたな。アルミナなら町工場で組み上げるような代物だぜ?」
事情がゆるせば小一時間説教したい衝動に駆られる。
「我慢できるものか。わしの女房は……」
「やられたのか?」
「アルミナ人に不細工だと散々けなされた」
開いた口が塞がらない。
「けなされただけかよ!」
「俺の恋人なんてアルミナ人に……」
「何をされた!」
口にできないような悲惨な目に遭わされたのか?
「服のセンスが悪いと馬鹿にされ続けて」
「そんなんで命懸けるんじゃねえ!」
少年はどんどんと覇気が削られていくような感覚に襲われる。安請け合いしたのは失敗だったと後悔を始めていた。
「それだけじゃない! 僕の妹はアルミナの野郎に!」
一人が捲し立ててくる。
「あー? 振られでもしたか?」
「どうして分かったんだ? さすがはXFiの剣王!」
「戦闘でそんな能力役に立つのかよ!」
ツッコミだけが鋭く冴えわたる。
無論それだけが理由ではない。
要は、地元で信頼の厚い土建業の社長が、周囲の窮状を見かねて腰を上げたというのが実情らしい。装備からして正体はバレバレなのだが、エルハーケンの統制側も彼らを捕縛して、市民の大多数を刺激するのは得策でないと取り締まりを手加減していたようだ。
「俺は作業用とはいえ十六機の戦力があると聞いてきたんだが、いつやられた? 動きを察知されていたのか?」
あまりに事前情報と違う状況を問い質す。
「エストバン氏には実情をちゃんと伝えてはずだぞ。軍の鎮圧隊が来てからは身動きが取れないと」
「軍だぁ? そんなのは聞いてない」
(やりやがったな、あの野郎)
今思えば、教授は少年相手に妙に下手に出ていたと感じられる。ここに送り込みたくて仕方ないように思えた。それは自分の作戦が彼にかき回されるのを嫌ったからだと思っていたのだが違ったのかもしれない。
(俺に恥を掻かせる気だな。失敗させて、でかい顔できないようにするつもりか)
そもそもターナ散布機が狙撃されたのも妙な話だ。事前に聞いていないと、プローブ放出前に撃墜するのなど無理であろう。
(それどころか、ここで俺を嵌めて潰そうと思ってるな。パシュランみたいな新装備の多い機体を敵に渡してもいいってのか? よほど腹に据えかねてやがる)
状況はガイナスの本気度を窺わせる。この先も何が起こるか分からないと思わないといけない。
フィーナの身柄はエルシが安全を保証してくれるだろう。まずは自分がこの現状を切り抜ける方法を考えなくてはならない。
「俺が来てるのももうバレてる。ここもいずれ割れるな。隠れてやり過ごすのは無理か。どうすりゃいい?」
自問するが答えは見えない。
「打って出るしかないんじゃないか? そのために来てくれたんだろう?」
「そうだ! 今こそ我らは自由を手に!」
意気盛んである。腕を振り回しているのは作業用アームドスキンだが。
「いやな、せめて飛び道具くらい準備していると思ったんだって」
「う……、こいつにはガス噴射機能くらいしか付いてないからあまり速くは飛べないんだが」
「その飛ぶじゃねえ! いい加減にしねえとその機体を投擲武器にしてくれるぞ!」
案外悪くないとちょっとだけ思ってしまった。
◇ ◇ ◇
勝負は一瞬だった。
近在の警察署へと殺到すると、既に機動隊のアームドスキンが待ち構えている。パシュランがフォトンブレードを構えて斬り込むも、一機を戦闘不能にする間に七機全てがバルカンの餌食に遭って擱座している。
「もう手を挙げて外に出てろ。たぶん命まで取られねえから」
「そんな! 見捨てるのか?」
「いくらなんでも、お前らを守りながら戦うのは俺にも無理だっつってんだよ!」
リューンは被害が拡大するのを危惧してパシュランを後退させるしかなかった。
次回 「いつもはないがしろにしている癖に!」




