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ゼムナ戦記  伝説の後継者  作者: 八波草三郎
第四話

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ゼフォーンへ(2)

 紳士は思案気に顎を撫でる。その眉根は寄せられていて、見るからに不機嫌であると感じさせる。


「困ったものだ」

 声音にも陰鬱な響きが混じる。

「体裁だけとはいえ、一応はゼフォーンの軍幹部であったアーガニー将軍もディグリダ将軍も既に処刑されていたとはな」

「公表されてはいませんでしたが、収容所に居られたのは一年ほどで、すぐに亡き者にされてしまいました」


 ゼフォーンにとって両名は、人心糾合の旗印に十分な人材だった。場面は違えど、二人ともアルミナ軍士官の横暴から兵士を守ろうとして拘束されたのだ。

 倫理統制の必要性からアルミナ王国の管理下という形で、一応は独立国家としてゼフォーンを名乗ってはいたが、その実はほぼ占領下政策が採られていたようなもの。誰一人として自由はなく、従わぬ者には管理権限として厳しい罰が待っているだけ。

 その状況で両将軍の行いはゼフォーンに希望をもたらすものだ。民衆には、高い地位に在っても誇りを忘れず、貫く信念の人に映ったであろう。


 アルミナにとっては極めて不都合な人物。早々に処分が決まって実行されたのだろう。ただ、国際社会からの目を気にして死は伏せられたままだったと思われる。

 紳士にしてみれば、死してなおアルミナの横暴を喧伝する材料にはなる。しかし、生きていればこそ旗頭として重要な意味があったのだ。無論、救助で恩を売って、二人を従える彼こそ真の英雄だと思わせるために。


(肝心の二人は確保できないで、無駄に手間の掛かる有象無象ばかり拾って帰ったところでどう思われよう? もちろん戦果として誇れようが、実として役には立たん連中だ)

 ただの骨折りに終わったと感じてしまう。

(それどころか……)


「アルミナの小僧が英雄気取りか……」

 不満ばかりが募ってしまう。

「は、何とおっしゃいましたか?」

「うむ、あの少年のことだ。戦力になってくれているが、果たして我らの戦いに必要なのかと思ってしまってな」

「まさか彼はアルミナ人なので? あなたが我らが祖国で見出した人材なのだと思っていましたが」

 紳士は頷く。

「それは非常に由々しき事態ですな。アルミナを駆逐し、祖国奪還のためにアルミナ人の力を借りたとあってはあまりに体裁が悪過ぎます」

「しかし、人心は傾いてしまった。今更排除は難しいだろう?」

「露骨に排除をしようとすれば反発もありましょうな。それならば出ていってもらえばよろしいのでは?」


 どうするつもりかを問うように紳士は横目で窺った。


   ◇      ◇      ◇


 剣王の二つ名を戴いてしまった兄は、渋い顔をしながらも受け入れていた。

 あまり好まない状況だろうし、悪目立ちすべきでは無いとも思っているのだろうが、ひと所に落ち着いてくつろぐタイプでもない。艦橋(ブリッジ)に足を向けることは無くとも、何くれとなくうろついてしまう性分なのも確かだ。


(悪いことじゃないの。今は顔が広がれば広がるほど人が付いてくる時。そうすれば居やすくなるもんね)

 そうフィーナは目算している。


 本人はどう思おうとリューンが目立つのは違えようのない事実。

 クルダスでも、人通りが落ち着く昼下がりに動き始めるのに近隣の噂になってしまうのは、彼が自然と人目を惹いてしまったからだろう。纏いつかせる圧倒的な空気がそうさせてしまう。その理由をフィーナは薄々感じているが今は口にはしない。


「お帰り、お兄ちゃん……。は?」

 ドアの開く音に振り向いた彼女は動転する。そこには見知らぬ三人の男が居たからだ。

「なに……!」

「黙れ!」


 口を押さえられ、ベッドへと押し倒されてしまう。何が起こったのか分からないままに、ただ危機感だけが大きく膨らんでいく。足元に居たはずのペコが消えているのにも気付かず、ただもがいていた。


「アルミナの小娘、抵抗しようものならすぐに殺してやるぞ。我らの恨み、思い知るがいい」

 恐怖に身体が凍り付く。

「なんだよ。ガキだって聞いてたがずいぶんと発育がいいじゃないか。これは思ったより楽しめそうだぜ」

「ああ、ご丁寧にスキンスーツで誘ってきてやがる」


 男の手がスライダーに掛かる。こんな形で尊厳も何もかも奪われると思うと、とめどもなく涙が溢れ出していく。


(それだったら……)

 オレンジの髪と優しい薄茶の瞳が脳裏をよぎる。


「げあっ!」

 重くくぐもった打撃音と同時に一人の男が床を転がる。

「手前ぇら、妹に何してやがる?」

「うー!」

 ペコと一緒に、待ち焦がれていた兄の姿が現れた。


 フィーナの足を押さえていた男が振り返って殴りかかるが、当然のように躱したリューンはカウンターで膝を入れる。軽く浮いた男は目を剥いて悶絶する。

 拘束が解かれつつある彼女は足を振り上げて暴れると、口と手を押さえていた相手の後頭部を蹴りつけた。


「ぐっ! この!」

 膨れ上がる怒気から目を逸らすように拘束を続けようとする。人質にする気かもしれない。

「おぞましいほど愚かじゃねえか」

「なにぃ!」

 肩を掴まれ振り返らされた男の顔面には固く握った拳が突き刺さり、振り抜かれると他二人と同じく床に転がる。


 その後も短い悲鳴に混じって殴打音が重なる。抵抗する意図は垣間見えるが、それは兄には通用せず、一方的な暴行にさらされ続けている。


「いいか、よく聞け。次は命がねえからな?」

 見下ろす少年が傲然と言い放つと二人は這うように逃げ出すが、一人は既に気絶している。


 その襟首を掴んで持ち上げると、リューンは目的の場所へと引き摺り始めた。

次回 「そうなりゃ俺は災厄そのものだろうぜ」

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