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ゼムナ戦記  伝説の後継者  作者: 八波草三郎
第三話

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剣王(9)

 収監先から脱走しながらも、比較的安全そうに見える宇宙戦闘艦を見上げ、地上に残っている人々は思う。自分たちは戦闘に巻き込まれて死ぬかもしれない、と。

 人型戦闘兵器アームドスキンの扱う武器は強力極まりない。生身で抗えるような代物ではない。その余波にさらされただけで、我が身は焼かれ蒸発してしまうのだと分かる。

 そのアームドスキンが敵機の接近を訴えてくる。その身一つで極力速やかな収容に応じてほしい、と。半ば絶望に包まれながらも急ぐ彼らの頭上を影がよぎる。


 15mはあろうかという長大な光る剣を両手に携えた身長20m超えの白銀の騎士が空を舞う。自分たちを飛び越え、戦闘艦をも足場にし、戦場へとその身を躍らせる。


 その姿に人々は思った。ああ、救われたのだな、と。


   ◇      ◇      ◇


 非同期ジョイントが可動して推進機(ラウンダーテール)をひるがえらせ、ジャーグの背部が横へと流れる。彼女が放ったビームは、寸前まで背中のあった場所を貫き、その向こうの敵機に直撃した。

 更に逆方向へと機体を流した白銀のアームドスキンの残像を撃ち抜いたビームは彼女がもう一方の手で構えるビームカノンが放ったもの。その光芒も敵機の胸に風穴を開け、閃光へと変えてしまう。


(もー、あのオレンジの髪の口の悪い少年がどう動くか分かるようになってきちゃった。なんか嫌)

 一瞬で二機も撃破したというのに、フランチェスカはおかんむりである。


 彼の、非常に赤の成分が強いストロベリーブロンドは光が当たるとオレンジに近い色に見える。むしろ赤毛に金髪が混じっているようなものだ。その特殊な髪色が羨ましいと思うのさえ腹立たしい。


(使われている感覚が嫌。ルッティにまで偉そうにするのも嫌い)

 居丈高ではないのだが、相手が誰であれぞんざいに振る舞う自由さにもいらいらする。敬うことなど知らないのかもしれない。

(でも……)

 完全に嫌いになれない。


「いい腕だぜ、チェスカ。思う存分食らわせてやれ。お前ならもっともっと撃墜数を稼げる」

 これなのだ。すごいと思った部分はとことん褒めてくる。

「言われなくても狙ったら外さない。あんたこそ油断したら一撃で終わりなんだからね!」

「その意気だ。がつがつ来い」


(期待されているの? 私を信用しているのかな?)

 それがリューンの敬意だと彼女は分からないでいる。背中を預ける相手として認めているのだ。


「妬けるじゃないのさ。あたしも援護してくれてもいいのよ、チェスカ」

 アルタミラの言葉には笑いの成分が多分に含まれている。

「あ、ごめんなさい、ルッティ!」

「いいよいいよ。あいつのほうが目を惹くもんね。戦い方に華がある」


(華? 派手なだけでしょ)


 少年は迫るビームにブレードを振るう。芯を捉えているのか弾かれもせずに真っ二つに斬り裂いている。人間業じゃない。

 そのまま飛び込み斜め下から両断。落下しながら閃光に変わる機体には一瞥もくれずに、もう一機のファーレクのジェットシールドにブレードを叩き付ける。影に隠すようにした砲口からの一撃にも反応して下に躱し、イオンジェットを噴かして腹部を貫く。

 ビームを解除して蹴り飛ばした敵機が爆炎に包まれるのを回り込み、次の相手と右のブレードを噛み合わせる。左で頭部を刎ね飛ばしたら膝を入れて押し出す。そこへフランチェスカが放ったビームが伸びて胸部を貫通した。


(そろそろ弾体ロッドを換装しないと。今日はもう、何機撃墜したか分からないし)


 狙撃手向きの美女は、砲身基部からロッドホルダーを排出する操作を行って、新しい重金属ロッドを叩き込んだ。


   ◇      ◇      ◇


 ミーブハイムからの敵部隊は残り五機という状態になっても、与えられた損害は中破が数機といったところで一機も撃墜できていないと分かると撤退していった。遅きに失した感があるが、奇襲した側として戦果を焦った所為だろう。


 エアクラフターが再び搬送を始めるのに合わせて帰投したアームドスキン隊が防備につく。その中にはあの銀色の巨人騎士の姿もある。

 最初に上げられた声には子供の響きがあったように思える。心から零れ出てきた純粋な例えは、人々の心へと浸透していった。


「光る剣の王様……、剣王だ!」

 単純に、ブレードを巧みに操ることを王だと例えたのだろう。

「剣王……。そうだ、剣王だ! 我らの救い主はXFi(ゼフィ)の剣王!」

「ありがとう、剣王! あなたは命の恩人よ!」

「すごかったぞ、剣王! 敵を圧倒する様はまさに王の名にふさわしい!」

 喝采は波紋のように広がっていく。

「うるせえ! 手前ぇら騒いでねえでさっさと乗りやがれ! 遅い奴は蹴り込んじまうぞ!」


 リューンが何と言おうがもう止まらない。人々は剣王コールをしながらエアクラフターのタラップを踏んでいる。


   ◇      ◇      ◇


 青に赤茶けた大地がまばらに見える惑星(ほし)が遠ざかっていく。そこは二人が十五年の月日を過ごしていた場所。感傷的になるなというのは無理がある。


「ねえ、お兄ちゃん。わたしたち、もうアルミナには帰ってこられないのかな?」

 胸に込み上げるものがある。紛れもない故郷との別れ。

「分からねえな。こいつらにだって色々と思惑があるだろうぜ。下手したらすぐに追い出されちまうかもしれねえ」

「困っちゃうね」

「なに、そうなったらアルミナ(ここ)に戻って、どっかの辺鄙な場所でまたパンでも焼くさ」

 呑気に肩を竦める兄だが、多分に気休めも含まれているだろう。

「そうだよね」


(お兄ちゃんと一緒ならどこでだって暮らせる)


 フィーナは小さくなっていく故郷を見ながらそう思った。

次は第四話「ゼフォーンへ」


※ 次回更新は『ゼムナ戦記 神話の時代』第四話「再びの戦場」になります。

  両編とも第四話以降は一日一部分、12時の更新になります。予めご了承お願いいたします。

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