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ゼムナ戦記  伝説の後継者  作者: 八波草三郎
第三話

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剣王(8)

 フィーナは蒼白な面で立ち尽くす。

 数秒前まで敵機の動きを克明に映し出していた2D投影パネルのマップはフリーズした状態で、中央に『データリンク途絶』の赤文字が点滅している。


「データリンク、切断しました……」

 力無く声が震える。

「プローブが狙撃されたわね。想定内の事態です。最終的な敵の残存数は?」

「六機です」

「十分よ。設定時間が経過したら帰投するから待っていなさい。今はこちらの収容作業を急ぐだけ」


 戦闘空母に先行した二次攻撃隊は残存していた八機のアームドスキンを撃破し、脱出が遅れている内部決起の援護に回っている。基地からの散発的な抵抗を掃討しつつ、エアクラフターによる搬送が開始されていた。

 予定よりも時間が掛かっている。看守の制圧のほうに手間取り、一部の収監者が脱出できず、数名のパイロットと状態の良い脱走者が武器を手に再び突入しなくてはならないような状況だ。


「確認作業は無理じゃろうな。そのまま収容させなさい」

 オルテシオ艦長が決断を下す。

「しかし、それではスパイの侵入を阻止できないが」

「時間を掛けすぎて積み残すくらいなら一度乗せてしまえば良かろう。離脱してからの確認で構うまい?」


 想定内とはいえ、戦力増強などの対応が取られている。収監者の中にスパイを紛れ込ませてないとも限らない。艦長とてむざむざ侵入を許す気はないと思える。

 しかし、危険だからといって収監者の積み残しを出せば、それが禍根となってXFi(ゼフィ)の作戦履行能力が問われ、支持が低下してしまう。それは避けたい教授(プロフェッサー)は口を噤まざるを得ないのだろう。


「仕方ない。作業を急がせなさい。ただし、手荷物は制限させてもらおう」

 爆発物などによる内部破壊工作だけは避けたいところだ。

「フィーナ、アームドスキン隊に外部スピーカーで呼び掛けさせなさい」

「はい」


 メインオペレーターのハーンは内部制圧のナビゲートで塞がっている。自分だけ呆けているわけにはいかない。不安は不安だが、彼女も部隊回線を通して指示を伝える。


「ミーブハイム方面に敵影! 三十以上!」

 観測員(ウォッチ)からの報告は切迫した声音だ。

「くっ! パイロットを呼び戻せ! 誘導中のアームドスキンは迎撃態勢に移行! 近付けるな!」

「内部制圧完了です! パイロットも戻ります!」

 命令と報告が交錯する。ただ、収監者全員を収容しなくては許されない状況になったとも言える。

「読まれていたか!」

「助かったと思ったほうがいいわ、教授(プロフェッサー)。もし、一次攻撃隊をミーブハイムに差し向けていたら今頃挟撃を受けて全滅よ」


 ガイナスは顔を顰めている。結果的にとはいえリューンの提案で命拾いした形なのが気にいらないのかもしれない。


(お兄ちゃんが正しかった)

 胸が熱くなる。


 しかし、危機的状況であるのには変わらない。ラングーンも搬送中のエアクラフターもここを動けない。抜かれれば悲惨な未来が待っている。


「どこだ、ハーン!」

 ダイナの声が響く。コクピットに戻ったのだ。

「北だ! すぐにデータリンクする」

「マップ送ります。敵数三十一」

 制圧を監視していたハーンはナビが遅れるが、フィーナが準備していたデータを送ってフォローする。

「助かる!」

「偉い偉い。これが終わったら僕がアイスを奢ってあげるから」

 ミントの声は軽さを感じさせる。必要以上にヒートアップしないのが戦闘中の彼女のスタイルなのだろう。


 かなり距離は詰められている。ターナ(ミスト)を使用しているので空母本体のレーダーは沈黙している。射出してあったプローブのレーダーで敵襲を確認できたのだが、こちらは出力が小さく範囲が狭い。


(間に合わない? お兄ちゃんの帰るところが無くなっちゃう!)

 自分の身の安全よりはそればかりが気になってしまう。


 艦橋(ブリッジ)は質問と指示が飛び交っている。レーザー砲塔が北を指向し光条を吐き出しているが、ジェットシールドの傘が開いて効果を上げていない。普段は暇をしている火器管制班が目を血走らせて目標設定のタップを繰り返している。


拡散砲(ショットカノン)発射準備。民間機(エアクラフター)は艦の影に退避させるように」

 オルテシオ艦長は落ち着いた声で対処指示を伝えている。

「ハンドラ隊のルフェング八機は地上に残る収監者の防衛に当たれ。それ以外は敵機を迎撃せよ」

「アームドスキンは全機迎撃に当てるべきではないのかね?」

「無理じゃの。戦闘の余波を食らっただけで犠牲者が出よう。作戦失敗でも構わんかな?」

 教授(プロフェッサー)も首を振った。

「ダイナたちが何とかしてくれよう。希望は捨てんことじゃ」


 倍する敵相手でもアームドスキン隊の働きに期待するしかない。


「え? データリンク回復?」

 あまりの驚きにフィーナはそのまま情報パネルを読んでしまった。

「……帰ってきた! 帰ってきました! お兄ちゃんとアルタミラさんたちです!」

「早かったのね? 敵は?」

 エルシは直接部隊回線に呼び掛けている。

「潰してきたに決まってんだろうが! 何だ、この体たらくは!」


 舞い上がってきたジャーグが側面から艦橋前に飛び込んできて、甲板(デッキ)を蹴りつけて跳躍する。


「そこで砲台をやれ、チェスカ!」

「命令するなー! ちゃんと避けるのよー!」

「あら、ずいぶん仲良くなったのね」

 叫び合っている者同士に投げ掛ける台詞ではなかろうとフィーナは思う。


(帰ってきた、わたしのヒーロー)

 最も頼れるべき人は長大なビームブレードを両手に握って飛び去っていく。


 その姿が地上の収監者の目にどう映ったのかフィーナも気付いていなかった。

次回 「光る剣の王様……。剣王だ!」

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