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ゼムナ戦記  伝説の後継者  作者: 八波草三郎
第十話

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アルミナ侵攻(9)

 スキンスーツを纏った少年は、豪奢な椅子に腰掛けさせられ前方を見つめていた。透明金属の窓の向こうに広がるのは瞬かない星空である。宇宙に出るのは初めてではない。しかし、こんなに緊張しているのは初めてだった。


 そこはアルミナ軍艦「キングスフォートレス」の艦橋。本来、御座艦として就航した戦艦は今回、王子エムストリが観戦する船として艦隊に合流している。他の艦と違って搭載しているアームドスキンは全て直掩。守りに特化した戦艦なのだ。


(それでも怖いよ)

 王子は汗ばむ肌で緊張を自覚する。

(向かう先は戦場なんだ。皆、息巻いて余裕を見せているけど、この艦のクルーなんてほとんど実戦を知らない人ばかりだってガラントが言ってた。後方に位置してれば大丈夫だとも言ってたけど、戦場ってここからここって決まっているものなの? なんか違うような気がする。ぼくには分からないけど)

 考えれば考えるほど不安が湧き上がってくるが、考えないではいられない。そんな思いに捉われている。


「敵艦隊まで距離7000lmc(光マイクロ秒)! 艦数22!」

 観測員(ウォッチ)の叫び声が聞こえる。

「怯える必要などない。連中など烏合の衆だ。アームドスキンを満載している艦は半分にも満たないとみられる」

「全艦、艦載機の発進準備完了!」

「発進させよ」


 彼我の距離が7000lmc(2100km)にまで縮まったところで光学観測による分析結果が出る。半分近くは鹵獲艦だが、半分以上はゼフォーン解放戦線が有していた独自設計のラングーン型戦闘空母である。やはり敵戦力の中心は元のXFi(ゼフィ)が成しているらしい。

 対するアルミナ艦隊は総数20。キングスフォートレスを始めとした数隻が戦艦で、艦載機数が落ちるために全体でアームドスキンの数は500を切る。しかし、敵部隊は500を大きく割るだろうという予想だ。


「アームドスキン隊は編隊編成が終了し次第前進。タイミング合わせよ」

 整然とした集団戦闘準備が進められている。

「少し遅れています。お待ちください」

「実戦経験の少なさがこの辺りに露呈するか」

 二冠宙士の階級を持つ艦隊司令官が鼻息を一つこぼした後に独り言ちる。


 エムストリはここでは指揮権を持たない。単に御前戦闘における観戦王族の立場だ。これが王ならば最終決定権を持つのだろうが、彼は徹底してお飾り扱いにされてしまっている。


「編成完了! アームドスキン隊、全機発進します!」


 その瞬間、視界をアームドスキンのイオンジェットが埋める。黄色味を帯びた輝きが一斉に放たれ、尾を引いて敵艦隊に向けて飛び立っていった。

 それを王子は美しい光景だと思ってしまう。この先で何が行われるか実感できていない証拠だといえよう。


(星々をバックに皆が進んでいく。なんて勇壮な光景なんだろう)


 エムストリは見惚れていた。


   ◇      ◇      ◇


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)


 リューンは目を瞑ってσ・ルーンから伝わってくる各部の情報に意識を傾けている。徐々に身体と機体が一致していくような感覚に身を任せる。

 立ち上がった2D投映コンソールに機体状況のチェック条項が表示されているはずだが、特に気にしない。それらは自動化されていて問題があった時のみ警告される。実質、それだけに注意を払っておけばいいのだ。

 パイロットの負荷が大きく、適性に大きく左右されるアームドスキンの操作。簡略化できる部分は徹底的に簡略化されている。


(フィーナの気を揉ませた代償。まずは手前ぇらに払ってもらうか)


 ゆっくりと目を開き、腕をフィットバー(操縦桿)に添わせる。シリコンバンドが上下から軽く固定すると、フィードバックが掛かってくる感触があった。

 人体で直接操作する部分は、咄嗟の反射に頼る腕の操作と推進力の操作ペダル。そしてσ・ルーンが検出する首の動きと上体の動作、及び火器操作関係のトリガースイッチ類。あとは感応操作が全てを担っている。


(おー、うじゃうじゃと居やがるぜ)


 格納庫(ハンガー)の床メッシュを軽く蹴って上昇し、磁場カーテンを抜けてほぼ真空の宇宙空間に出る。甲板(デッキ)に足を降ろすと、アルミナ軍がアームドスキンを放出し、編隊を組む工程に入っているのが見えた。


(さて、食い散らかしてやるか)


 ペダルを浅く踏み込んで推進機(ラウンダーテール)の噴流音を耳にする。多少重たく感じるが、それはパシュランの特性なので仕方がない。


「どこだ?」

「向かって右。中央付近にダイナさんたちが陣取ってるよ」

 フィーナからのナビゲートも打てば響く感じで入ってくる。

「ブリーフィング通り迎撃戦をやる気なんだな」

「うん、やっぱり初戦から足並み揃えるのは無理だろうから、突出する編隊が出ないよう受けに回るんだって」

「性に合わねえんだがよぅ……」

 敵艦隊接近時のパターンに添って全体が動いているように見える。

「まあ、しゃーねえな」


 リューンはいつも通りダイナ隊の中心に位置して敵を誘い込む担当。背中の推進機のトップに装備されたブレードグリップが回転してせり出すと両手に握らせ、長大な力場剣で暗闇を斬り裂く。


 一斉に加速した敵部隊が光の尾を棚引かせながら接近するのを確認したカスタムジャーグのダイナ・デズン将軍が天頂方向の虚空に向けてビームを撃ち放つ。


 それが戦闘開始の合図だった。

次回 「年の功ってやつだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 祝・100話!更新有り難う御座います。 美しくも儚い命の灯火……。
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