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ゼムナ戦記  伝説の後継者  作者: 八波草三郎
第一話

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アルミナの不良少年(9)

「でも、少し意外だったわね」

 エルシは意図の読めない笑顔でそう切り出してきた。

「あれだけ振り回されれば結構参っているかと思ったのに、全然平気じゃない」

「あ、確かに揺れましたけど、わたし、そういうの大丈夫なんです。あまり乗せてくれなかったけど、お兄ちゃんのバイクの後ろも怖くなかったし」

「手前ぇ、十五の娘相手にろくでもないこと企んでんじゃねえぞ? こいつをこんな人殺しの機械になんぞ絶対に乗せないからな!」

 リューンは本気で苛立っている。

「ええ、大事な首輪をそんなひどい目に遭わせるわけはなくてよ。もっと別な使い方が有るでしょう?」

「この女は食えねえにもほどがある」


 確かに妹を握られてしまえば彼の選択肢は極端に少なくなってしまう。エルシはそれをよく心得ているようだ。

 そのうえでフィーナの適性を見極めようとしている。しばらくは全く油断ならない状況が続きそうだ。


「お兄ちゃん、わたし、どこかに隠れて暮らしていたほうがいい?」

 殊勝なことを言ってくる。

「駄目だ。目の届かねえところに居るとどんな状態だって何とでも言える。お前は俺の傍にいればいい」

「うん!」


 正直、見せたくもない姿を見せざるを得ない状況になってしまうだろう。自分が情け容赦なく邪魔者を排除していく戦いは、多感な年頃の少女には残酷に映るだろうし、嫌われる可能性だってある。

 でも、守り続けなくては、彼女の両親に申し訳が立たないのだ。


 胸を叩いて見せるペスに、フィーナは笑いかけてキスを送っている。彼はいつまでその笑顔を守っていけるだろうかと不安を胸に抱えていた。


『ターナ(ミスト)を検知しました』

「敵か?」

「あまりのんびりとはさせてくれないわね」

 追撃の手が及んできたらしい。まだ発見はされていなさそうだが。

「空母が居るなら救援は頼めねえのか?」

「ここは敵地。電波を発信すればすぐに見つかっちゃうでしょう?」

「確かにな。そうじゃなくたって、呼びにくい状態を作ってきやがる」

 敵のレーダー感知は難しく、通信も阻害されつつある。


 市街地で通信遮断をすると経済損失が大きい為、よほどのことが無ければ軍部も攪乱はしないそうだ。市民からの強い反感を買ってしまう。

 しかし、こんな荒野の真ん中なら平気でターナ(ミスト)を使ってくる。電波を低波長域に変調してしまうターナ分子化合物を霧状にして散布するのだ。そうすると遠距離からのレーダー感知は不可能になるし、電波を利用した通信もかなり阻害される。使えるのは近距離でのハイパワー通信くらいになる。繋がるのは音声だけの共用回線や暗号無しの部隊回線やデータリンクがせいぜいになる。


「やり過ごせるか?」

 電子戦の知識はリューンにはない。

「厳しいわね。アームドスキンのセンサーぐらいは誤魔化せるけど、後ろには戦艦が付いているはず。重力場レーダーはジャーグを捉えてしまうわ」

「こいつはそんなに重いのか?」


 軍の艦艇ともなれば電波レーダーだけでなく重力場レーダーも装備している。惑星上ではバイアスを掛けないとまともには作動しないが、それでもやはり金属塊のような重いものは飛び出すから検知できるし、別の理由もあるらしい。


反重力端子(グラビノッツ)が谷間を作ってしまうの。それで感知されてしまうわ。だからといって切ってしまえば、アームドスキンなんて飛ぶことも歩くこともままならない人形よ」

 その辺は彼らにとっては常識らしい。

「そいつは困る。なら様子を見つつ打って出るのも考えるしかねえな」

「座席に戻るね」

「ベルト閉めとけ」

 フィーナは柔軟シリコン製のベルトをしっかりと装着している。


 昔は大気圏に下ろすのなど不可能だった宇宙戦艦が、反重力端子(グラビノッツ)の普及で普通に地上を飛行する巨大機械となっている。それが戦闘の状況を一変させているのは事実。

 ただ、現代では航空機事故で亡くなる人間は激減している。その技術は人類に恩恵も与えているのだから否定はできない。メリットだけを享受するなど都合の良い考えを抱いてはいけないのである。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)

 アイドリングまで落としていたアームドスキンを稼働状態まで上げる。

「いっちょう、ぶっ放してみるか。この辺なら支障ねえだろ」

「その銃、ビームカノンっていうの使えたら楽になるね」

「ああ、わざわざ斬り込んでいって危ない思いをさせないで済むだろ?」

 上手くいけば一時的に退却させて逃げる時間を稼げるかもしれない。


 ジャーグの両手にビームカノンを持たせると、岩山の影で待ち伏せをする。しばらくすると二騎編隊を組んだ先刻の濃緑色のアームドスキン、ファーレクが飛行しているのが見えた。

 こちらを発見しているふうはなく、センサーに目を光らせながら飛行しているようだ。それをモニター内で確認しながらリューンは機会を待つ。


(全く自信ねーからな。しっかりと引き付けてから撃たねえと)

 言い聞かせるように考えながら集中する。


 ターナ(ミスト)散布状態では遠距離レーダーロックオンは使えないので自力で狙うしかない。モニターに映し出されたターゲットカーソルと敵機を睨みながら人差し指のトリガースイッチをゆっくりと落した。


「わー、大外れー!」

「当たらねえじゃねえか!」

 ビームは大きく逸れて虚空へと消えていった。

「下手ね」

「手前ぇ、男に向けてそれだけは言うんじゃねえ! 傷付くだろうが!」


 エルシの暴言に対する泣き言がコクピットに木霊した。

次回 「うるせえ! 墜ちやがれ!」

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