9本目
矢が尽き掛けた頃、これまで猪突猛進に襲ってきていたゴブリン達は大きく数を減らし、ようやく俺達を脅威と感じとったのか二の足を踏んでいた。
怯む相手に機と見た俺と父は打ち合わせもなしに今度はゴブリンに向けて前へと出るのであった。
前に出ては地面に転がるゴブリンから生えている矢を引き抜き、弓につがえて放つ。
矢の再利用だ。
「アガト!このまま最後の1匹まで攻勢に出るぞ!」
「わかった!」
先程と形勢が逆転して今度は俺達がゴブリンに襲い掛かる番だ。
この時には既に逃走し始めているゴブリンも見えた。
そういうゴブリンにはこのアーツがお似合いだろう。
Lv5.『追尾矢』
戦いの最中にかなりレベルが上がっている感覚があったので試しに使ってみたがどうやら問題なく使えそうだ。
『追尾矢』は俺が狙いを定めた相手を追尾していくと逃げるゴブリンの背中に突き刺さる。
グギャアッ!
これで追撃がかなり楽になる。
その後、父と協力してゴブリン達を順調に殲滅しているとやっとゴブリン達の親玉が現れた。
親玉はゴブリンジェネラルのようだ。VRゲーム時代に見た覚えがあるので間違いないと思う。両脇にはゴブリンナイトを従えている。
ゴブリンナイトは鉄の剣に鉄の盾と皮鎧を纏い、通常のゴブリンよりも一回り大きい。だいたい中学生男子の平均くらいだろうか。
ゴブリンジェネラルはナイトよりもさらに一回りほど、大きくて鉄の槍に金属製の鎧を身に着ていた。
今までの雑魚とは違う実力に場に緊張感が広がるが。
先手を仕掛けたのは父だ。
『早射ち(クイックショット)』で邪魔なゴブリンナイトを狙う。
父の速攻に反応出来ず、眉間に矢を受けて即死するゴブリンナイト。
仲間がやられ、気を取られていたもう1匹に俺が『早射ち(クイックショット)』。
こちらはこめかみに一撃だ。
ゴブリンナイトと言えど、所詮はゴブリンの上位種。大したことはないがゴブリンジェネラルになると一味違うだろうな。
「ニンゲン、ゴトキガ、チョウシニ、ノルナッ!」
その人間2人ごときに群れを壊滅させられているゴブリン様が何を言っているのやら。
ゴブリンジェネラルは父と俺を見比べ、俺の方が弱いと見るや槍を構えて仕掛けてくる。
俺は迎え撃つ為にアーツを発動。
先程、Lv5のアーツを使った時にLv6のアーツも使えると感じた。
なのでダブルアーツ発動。
今回はLv3.『貫通矢』とLv6.『分身矢』を使う。
アーツが発動すると俺の分身が現れ3人になる。
なぜ、弓のアーツなのに俺自身が分身するのかって?前話でも説明したがもともと、ゲームの時からあったアーツなので俺が知る訳がない。
3人の俺から放たれた矢はゴブリンジェネラルに向かって飛んでいき、奴の着けている鉄の防具を貫いて体に突き刺さる。
こちらは木の矢だということを考えれば、かなりの成果だろう。
しかし、急所はしっかりと防がれており、ジェネラルの突進は止まらずに分身が1つ犠牲になり、分身が解ける。
ハズレを引いたジェネラルは残った本物である俺に狙いを定めるが俺はその時には既に絶賛逃走中だ。
まだ、職業:村人しか極めていない俺では圧倒的にステータスが負けているので追い付かれるのは時間の問題だろう。
何事もなければだが・・・。
ゴブリンジェネラルは逃げる俺を追う。そして、俺とだけ戦っているわけでもないのに父から目を離してしまった。
次の瞬間、ジェネラルの後頭部を矢が貫き、倒れるのであった。
呆気ない。
ゴブリンジェネラルはモンスターの中でも強さで言えば、ギリギリ中位に位置する強さだろう。それこそ、俺や父よりもステータスが高いと思われるが頭の方は所詮はゴブリンに毛が生えた程度の知能しかなかったようだ。
これにて一件落着!