8本目
「父さん、言われた通り、30メートルおきに矢を置いてきたよ」
勿論、小声で話しているよ。
「ご苦労さん、こっちは見張っていたが目立った動きはないぞ」
父の言葉を聞きながら、『無限収納』から水筒を取り出し、父に渡すと自身も喉を潤す。
「今のうちに休憩しておけよ。もう少ししたら作戦開始だからな」
俺は素直に頷くと返された水筒をしまい、弓を握り締めると真剣な眼差しをゴブリンの集落に向けている父の横を駆け出していった。
「アガト!お前っ!?ばっ!!」
父が何か言い掛けたが無視してゴブリン密集地へ爆走する。
前方には突然の乱入者に驚くゴブリン、後方には不意を突かれて驚き慌てるマイファザー。
我ながら実に良い奇襲になった。
俺は笑みを浮かべながらゴブリン達に接近し肉薄すると弓を構え、弓術アーツを発動。
「ダブルアーツ!『貫通扇矢』(ペネトレイトワイド)」
戦闘に突入したが説明しよう。このダブルアーツとは弓術アーツを2つ同時に発動させる中級戦闘テクニックだ。
今回はLv3.『貫通矢』とLv4.『扇射ち矢』を同時に発動させることにより、貫通性攻撃を広域に行うことが出来る。
ちなみに弓につがえている矢は木の矢、1本だがLv4.『扇射ち矢』を使うと使用している矢と同じ矢が複数発生し、扇状に攻撃する。何故、どうして矢が増えるのかというともともと、ゲームの時からあったアーツなので俺が知る訳がない。
とにかく、ファンタジーだからだと思っておけば良い。
俺の弓から放たれる複数の貫通性の矢が扇状に広がりつつ、ゴブリンの群れを貫いていく。
これだけでレベルがいくつか上がったことが感覚でわかった。
出足は好調だ。そんな俺とは対照的に父は出遅れたままだ。
まだ、ゴブリン達は状況が飲み込めていないようなのでこの機に上位ゴブリンを始末しておく。
今、見える範囲にはゴブリンリーダーにゴブリンメイジ、ゴブリンファイターといったところか。
俺は矢の節約も考えて、しっかりと1本で1匹を殺していく。
それでも矢の本数に不安は残るが仕方ない。4匹目の上位種を仕留めたところでゴブリン達が反撃に出てきたので当初の作戦通り、後退を始める。
その頃には父も余裕で立ち直っており、俺の後退の援護をしてくれている。
「アガトッ!このバカ野郎が!俺が最初に仕掛けるといっただろうが!」
当初の作戦通り、大変順調である。
大事なことは2回言うものなのでもう一度言う。
作戦は順調だ。
俺が父よりも後退すると父が後退し始めるので今度は代わりに俺が援護する。
それを繰り返しながら俺が置いた矢を父が回収しながらゴブリンを射ぬいていく。
こちらは弓なので接近されると不利になるので後退しながらの戦いになるが1つ問題があった。それは父が持ち運べる矢の量に限界があることだ。
その点、俺には『無限収納』があるのでいつでもどこでも取り出せる。そこで考えついたのが事前に矢の束を配置しておく作戦だ。
この作戦も今のところ、上手くいっているようだ。
たまに射ち漏らしたゴブリンが父に襲いかかっているが全て足蹴にしている。むしろ、矢の節約の為にわざとやっている節さえあるように見える。
俺も節約の為に複数仕留めることが出来るアーツや魔法を多用してはたまに父の真似をして体術スキルでゴブリンを蹴り飛ばしていく。
体術スキルを入れといて良かった。
矢で射殺しながら合間にゴブリンを蹴り飛ばすのが楽しくなってきたところで手持ちの矢数が怪しくなってきた。家を出発する際に全ての矢を持ってきたがもうそろそろストックが切れそうな勢いだ。
今回、持ってきた矢は400本程あったのだが半分は父の為に設置に回してきたので既に俺だけで200匹ちかくは倒していると思う。
なぜこんなにも矢があったかというと狩りを開始してからこの1ヶ月間、狩りに出ても午前中で終わってしまって、午後からひたすら矢を自作して貯めていたからだ。
父の方を見ると矢がなくなったのか最後の矢を手に持ち、直接突き刺し始めていた。
しょうがないのでゴブリンをほふりながら父の足元の地面に矢を突き刺して補充してあげる。
そして、父と2人で奮闘すること、体感で30分くらいだろうか俺の方の矢の在庫が尽き掛けた頃、ゴブリン達に違う動きが見え始めた。