4本目
現在、仕留めた2頭の鹿の足に縄を縛り、木の枝に吊るす形で血抜きを行っている。
その横には俺と父が血の臭いに引き寄せられるモンスターがいないか警戒中だ。
そんな中、集まる気配のないモンスターに対して、気でも緩んだのか父が話し掛けてくる。
「アガト、2頭も仕留めた事は父親として誇らしいが持ち帰れないほど獲物を狩るのは狩人としては3流だぞ」
ははーん、これは自分の見せ場がなかったから拗ねているのだな。
「狩人というのは森と共に生きる職業だ。森がなければ狩人は生きていけない。その森を豊かに維持しているのは動物達だ。過剰な狩猟は森を壊すことになる」
ヤバイ、父のご高説に涙が出そうだ。
おっ!血抜きもほぼ終わったな。
「父さん、血抜きも終わったし早く持って帰って母さんに自慢しましょう!」
「・・・」
何か言いたげな父を横に俺は獲物に触れつつ、収納と念じる。
獲物は俺に吸い込まれように縄と血溜りだけを残して消えた。
「・・・えっ!?アイテムボックス?」
残念、アイテムボックスではなく、上位互換の『無限収納』なのだよ。
父が俺の『無限収納』に驚いている。
「アガト、お前『祝福』を授かっていたのか?」
なるほど、この世界には『祝福』なるものがあるのか。正直、どう『無限収納』を説明しようか困っていたので取り敢えず、この波に乗っておけば楽だろう。
「そうだよ」
俺がアイテムボックスを持っていると知った父は手のひらを返したように今日は大漁だーなんて言って機嫌が良くなった。
まあ、どうやって獲物を持ち帰ろうか悩んでいたみたいだしいいか。
無駄な狩りや殺生はしないのが狩人として父の矜恃らしく、今日の狩りは午前中で終わりとなった。
◇
来た道をまた同じだけ時間を掛けて帰ると俺達が帰ってきたと聞き付けたのだろう。母さんが家の前で迎えてくれる。
予定よりも早い帰宅に少々、困惑しているように見える。
帰りがあまりに早いので怪我を負って帰ってきたのかと思ったのかな?
「あまりにも帰りが早いから何かあったのかと思って心配したわ」
俺の予想はどうやら当たりのようだ。実際は俺が優秀過ぎて狩りが早く終わってしまったのだがそれは今から伝えよう。
「アガト、今日は初めての狩りで上手くいかなかったみたいだけど、最初はみんな上手くいかないものだからあまり気を落とさないでね」
どうやら俺も父も手ぶらで帰って来たから上手くいかなかったと思っているらしい。
父に視線を向けると見せてやれと言わんばかりに顎をしゃくるので机の上に仕留めた鹿を出す。
「・・・っ!?」
母さんは俺と父を交互に見て、また鹿を見る。そして、また俺達を見ると驚いてみせた。
「すごいわっ!」
俺と父はどや顔を決め、どうだ見たかと言わんばかりに胸を張ると腕を組む。
母さんはそんな俺の腕を掴むと嬉しそうに言うのである。
「ちょうど、置き場に困っていた物があるのよ!」
「ん?」
「早速、アガト片付けてくれるかしら」
そう言うが早いか、俺の腕を掴んだまま、片付けて欲しいという物が置いてある部屋へと連れていくのであった。
流石は主婦。即座に収納系スキルの有用性に気付き、倉庫として使うことを思い付くなんて恐ろしい。
この日の夜、初狩りの成功を祝い、普段よりも少しだけ豪華な夕食が出た。メインディッシュはもちろん今日、仕留めた鹿肉だ。
夕食の席では母さんが俺の倉庫をどのように活用しようかウキウキと話しをしていた。俺、どうなっちゃうんだろう。それよりもまず倉庫じゃなくて『無限収納』なんだからね!
夕食を済ませるとこんな田舎の村では特にすることもなく、明りだって蝋燭しかないし、タダではないので早々に寝ることとなる。
隣では寝付きの良い弟が既に夢の中へと旅立っている。
そんな弟を他所に俺はもう1つの成果を確認する為、ステータスを開く。
名前:アガト
属性:《無》
職業:村人『Lv:1/10』
SP:10
STR:11
VIT:11
INT:11
MND:11
DEX:11
AGI:11
LUK:11
《スキル》
1.『弓術Lv:2/10』
2.『索敵Lv:2/10』
3.『隠密Lv:2/10』
4.『解体Lv:2/10』
5.―
6.―
7.―
8.―
9.―
10.『無限収納』
スキルを含めてレベルが1つずつ上がっている。
低レベルだから上がりやすいだけなんだが初日にしてはまずまずだろう。
ステータスの確認を終えた俺は隣の弟へと目を向けるとまた、布団を蹴飛ばし腹を出しているので優しく掛け直してやり、今日は頑張って40秒の壁を越えてみようぜと弟に問い掛けつつ、鼻を摘まむ。
時間が経つに苦しみ出す弟。俺は後少し頑張れと心の中でエールを送りつつ、絶対に指は離さない。
しかし、不意に弟の手が俺の手を払いのけてしまった。
「(なんてことだ!?)」
せっかくの記録更新のチャンスを不意にするなんて悪い弟めと思い、罰として前髪を数本引き抜いてやる。
「(これに懲りたら次からは手を出さずに頑張るだぞ)」
こうして、毎日の日課を終えた俺も眠りへとつくのであった。
【本日の弟の記録:失格】