36本目
視界は一瞬の光に被われ、気付けばダンジョン内部に転移している。
目を開いていたせいか、少し目がチカチカとするが転移酔いによる目眩や吐き気はない。
自身の体調を簡単に確認して、魔法陣の上から移動する。
ダンジョン内にある魔法陣の間はそこそこ広く、周りには少ないが休憩する冒険者や戦利品の確認をしているパーティーが見える。
俺はそんな奴らを横目に軽く準備体操を始めつつ、このダンジョンでの道筋を頭の中でもう一度整理していく。
ゲーム時代、やりこんでいた俺は仲間と度々、この最も深き迷宮でRTAをして盛り上がっていた。
皆、重度のゲーマーだった為に負けず嫌いは相当なものでそんな俺も負けずと何度も何度も繰り返し迷宮を踏覇して、タイムを縮める努力をした。
なので最下層までの最短ルートは当然に宝箱の配置からモンスターの種類におおよその出現ポイントに至るまで頭に叩き込んである俺にとっては、この迷宮は自分の庭に等しい。
ルートの確認と準備体操を終えた俺は目の前に続く人工洞窟のような通路を7割のペースで駆け出す。
途中に遭遇するモンスターは浅い階層ということもありスライムやホーンラビットといった、今更倒したところで経験値が貰えるかわからない、相手にするのも面倒なモンスター達ばかりだ。
そんなモンスターは無視しながら、駆ける速度を緩めることなく、一定の速度で通路を駆けていく。
奥に進むにつれて、モンスター以外にも何組かの駆け出しであろう冒険者やモンスターと戦闘中のパーティーとすれ違うが俺にとってはこいつらも取るに足らないような存在の為、迷宮でのマナーを無視して、相手の制止を振り切り横を抜けたり、壁を走って追い越していく。
そのたびに俺の駆け抜ける速度やマナー違反な行動に対して、後ろから驚愕や怒号の声が聞こえるが有象無象の言うことなど、知ったことではない。
そもそも今日中に50層まで潜る予定でいる俺の進路にいること自体が不届きである。
まあ、雑魚共のことは忘れてまずは5層の中ボスを目指す。それまでに宝箱はあるにはあるが全く要らない物しかないので勿論、進行を優先して無視していく。
一定の速度を保ったまま、一度も乱れることもなく最短ルートを進んだ俺は30分も経たないうちに5層にある中ボスの扉の前に立っていた。
ここまではまずまずのタイムだ。
奥に中ボスが控える扉はいかにもこの先にボスが居ますといった石造りの重そうな両開きの扉だ。
普通の冒険者なら装備の点検や戦術の確認など、ひと息吐いてから挑むのであろうが俺はここまで一切、武器を使用していないし、息も全く乱れていないのでさっさと扉を開き、中に突入する。
5層の中ボスは俺の記憶通り、ゴブリンナイトが1匹に取り巻きのゴブリンが3匹だ。
最早、ゴブリンナイトやゴブリンなど、雑魚過ぎる俺は弓を使うまでもなく接近して、殴る蹴るの暴力を振るいゴブリンナイトには奴が纏う皮の防具の上から拳をめり込ませ、ワンパンで仕留める。
ボス報酬の宝箱にはランク『レア』の武器である「ゴブリンソード」が入っている。
使うことはないが一応、回収しておく。
中ボスを倒したことにより、奥にある扉がカチッ!と鳴り、ロックが外れて通行が可能になる。
扉を潜れば、その先には下への階段がある。6層に降りればまた、同じような人工な洞窟が続いているので同じペースで走りだす。
6層以降でも新米冒険者パーティーがいるが当然、無視していく。
しかし、先程とは違い。通り過ぎたいだけの俺に勘違いからか応戦しようと挑んでくるバカがチラホラ現れるようになった。
まだ6層ということでチラホラとしか見かけないがこれから先、10層から30層くらいまでは最も冒険者達が活動している階層になることを考えるとウンザリしてくる。
ウンザリしながらも丁寧に断りを入れてから進むなどという考えがない俺はそんな奴らを死なない程度に殴って退かしていくが明らかなタイムロスだ。
ロスを挽回する為にペースを少し上げて、7層を目指す。
7層の宝箱には一応使える装備があるので回収することを忘れない。
さっさと6層を過ぎて、7層に入ると最短ルートから外れて進む。やがて、行き止まりにたどり着くと壁を手探りで探っていき、隠しスイッチを押す。
壁の一部がガコンッ!と音をたてて、内側に引っ込むと繋ぎ目が見えなかった壁がゆっくりと開いていき、小部屋が姿を現す。
そこには木で作られつつも縁取りが金属で補強された箱がひとつ。
宝箱である。
既に中身はわかっているが宝箱を開ける瞬間は何度経験してもドキドキ感が俺の心を揺さぶる。
宝箱の中から一足のブーツを取り出す。
『ユニーク』ランクの【疾風のブーツ】だ。
このブーツは防御力は大したことはないがAGIが10%上昇する効果が付いている。
早速、履き替えてステータスを確認すると来た道を戻り、効果を実感するようにまた下層を目指して駆け出すのであった。




