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たいして読まれないだろうしタイトルなくてもいいよね  作者: くろのわーる
田舎の村編
3/37

3本目



 家に着くと既に朝食の準備は出来ており、後は弟が起きてくるのを待つのみだった。


 寝惚けてまだ半分寝ている弟をほったらかして、俺と父は手早く朝食を済ませると狩りの準備の為、弓の点検を行う。そして昨夜、父が準備してくれた荷物を持ち、少し心配そうな表情の母に見送られて村を出るのであった。


「アガト、今日は練習していた弓の腕前を見せてもらうからな」


 俺は軽く頷くと父よりも小さな弓を持つ手に力を入れた。


 ちょうど、今の弟と同じ10才の頃から俺は父の指導の元、弓の練習を始めていた。

 それに加え、VRゲーム内でも弓を専門に使っており、弓術のスキルもセットしたので多少の自信はある。

 なので本日は弓の腕前を見せつけてやるつもりだ。


 父が普段から狩場にしている森は村から徒歩で1時間程歩いた所にある。


 森に近付くにつれ、父の表情や雰囲気が引き締まっていくのがわかる。

 この世界には地球にいたような動物の他に魔性動物と呼ばれるゲームでいうところのモンスターが存在する。


 モンスターも動物同様に縄張りを持っているので村から出ない限り、普段はあまり見かけることはない。

 しかし、狩猟を生業にしている父は当然、狩りの為にモンスター達の縄張りに足を踏み入れることもあれば、モンスター自体が狩りの対象の場合もあってモンスターの恐ろしさをよく知っている為、真剣そのものだ。


 この緊張感のある空気はVRゲームをプレイしていた時を思い出すがなんとも言えない心地良さがある。

 我ながら軽薄な気もするがこればかりはどうしようもなさそうだ。


 狩場の近くに着くと父からなるべく音をたてるなや周りの風景に溶け込むようにしろなど、注意をされる。


 森に入ると獣道や獲物の足跡の見つけ方、薬草に食べられるキノコ、毒のある植物など実地でしか教われないことを次々に教えてくれた。

 ほんと頼もしい父親である。


 そして、狩りのチャンスは不意に訪れた。


 父は急に黙るとゼスチャーで音をたてるなといい、俺の身を屈ませた。

 父は指であっちを見ろというので父の指す方向を見ると立派な角を持つ鹿を筆頭に鹿の家族がいた。


 距離はおよそ50メートル、残念ながら今の俺では弓も索敵もまだ射程範囲外だ。


 その事は当然、父も知っている為、俺の後にゆっくりとついてこいという。

 始めての獲物に必死になり、音と気配を消すように父についていき、なんとか距離は20メートル。


 前世の記憶を取り戻す前なら無理な距離だったが今ならスキルもあるし、仕留める自信はある。

 俺は父にいけると合図を送ると子鹿を狙えとゼスチャーを返してくる。


 鹿に気付かれないように気を使いながら弓を構え、矢をつがえる。

 父が見守る中、ゆっくりと力を入れながら弓を引いていき、立派な角を持つ鹿に狙いを定めていく。

 その矢の先に父がそっと指を添えて子鹿へと狙いを導いていく。

 俺は一旦、弓を引くのをやめて父へ『わかっていると』力強い視線を送り、再度狙いを定める。


 もちろん、狙うは立派な角を持ったヤツだ。


 父は俺の手を矢ごと強めに掴み取ると『違うだろ?』と首を振ると『お前が狙うのは子鹿だと』熱心にアピールしてくる。

 俺は『わかった』と力強く頷き、真剣な眼差しを立派な角に向けて、構える。

 すると父が『だーかーらっ!』と憤っているので仕方なく、父の我が儘を受け入れて子鹿を狙ってあげることにする。


 限界まで引かれた弓は弦をキリキリと俺の耳元で響かせる。

 呼吸を整えて、矢を掴んでいた指を外す。矢を射る瞬間、狙いを立派な角の雄に替えることを怠ったりはしない。


 俺が素直に従うと思ったか?それは大きな間違いだ。


 矢は狙い通り、雄鹿の心の臓へと深く刺さったが父はそれ所ではなかったらしく、ギョッとした視線を向けて、俺の方を振り返り、何か言いたげだったがガン無視して、アーツを発動。

 弓術Lv1で唯一使えるアーツ、『早射ちクイックショット』。


 今度も矢は俺の狙い通り、雌の鹿の首に命中。


 一仕事終えた俺は首に矢が刺さり、苦しむ鹿に向けて静かに足を運ぶのであった。






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