16本目
森蜂との戦闘を終えて、ひと息吐くと俺はへたり込む父を無視して、蜂の巣へと向かう。
意識は既に糖分に支配されている。
森蜂の巣は周辺の木々を何本も取り込み、巨大化し蜂の巣と言うよりも蟻塚の様相であり、遠目からはまるで巨大な岩の様にも見える。
さらに近づけば、現実では考えられないその異様な大きさに普通の人ならば、驚愕せずにはいられないだろう。
だが糖分のことしか最早、頭にない俺にはどうでもいい事だ。
人間の4大欲求の一つ、糖分欲に取り憑かれた俺は足早に巣に近づくと勢いよく手を突っ込む。
そして、気付けばハチミツまみれになった自身の手を舐めまわしていた。
◇
充分な糖分を摂り、欲求が満たされた俺はそこでやっと平常心を取り戻し、周囲に目を向ける余裕が出来る。
俺の横には物欲しそうな顔をし涎を垂らす、『肉壁』。
少し後ろには疲れて寝息を立て始めた父。
一瞬の考察で父は無視することに肉壁には巣にいる邪魔な幼虫を摘み出すように指示する。
優しい俺はその際に幼虫なら食べてもいいと肉壁に告げる。これで確実に肉壁の従順度は上昇するはずだ。
その間に俺は森蜂の羽や針は素材になるから死骸を回収する。
森蜂を回収し終わると肉壁の方も粗方、摘み出したようで幼虫を貪っていた。なので家主の居なくなった巣を破壊しつつ、さっさと回収する。
それにしても意外と美味しいのか肉壁は顔中に体液が付くのもお構い無しに貪っている。
幼虫の体液を付けられては嫌なので後で近づくなと言っておこう。
ハチミツの回収も終わり、父が目を覚ますまでの間、とても優しい俺は経験値稼ぎも兼ねて肉壁にしっかりと幼虫の始末を任せつつ、休憩がてらステータスを確認する。
名前:アガト
属性:《無》
職業:弓士見習い『Lv:20/20』
SP:42
STR:80
VIT:80
INT:80
MND:80
DEX:140
AGI:140
LUK:80
《スキル》
1.『弓術Lv:7/10』
2.『索敵Lv:6/10』
3.『隠密Lv:6/10』
4.『夜目Lv:―』
5.『体術Lv:6/10』
6.『回復魔法Lv:3/10』
7.『無魔法Lv:7/10』
8.『クリティカルLv:4/10』
9.『健康体Lv:7/10』
10.『無限収納』
弓士見習いがカンストし、体術に無魔法とクリティカルのレベルが上がっていた。
ステータスの確認もそうそうに終えた俺は父の覚醒を待つ。
それにしてもまさかこんなにもゆっくりと睡眠を取るとはうちの父も随分と偉くなったものだ。
◇◇◇
結局、父が目を覚ましたのは陽も傾き始めた頃だった。
野営の準備をしつつ、今夜の不寝番は父で決まりだなと内心で思いながら俺は肉壁に薪になる枝を拾ってくるよう命令するのであった。
焚き火を二人と一匹で囲いつつ、明日の予定を話す。
「アガト、今日は予定よりも遅れたが明日は予定通り村に着くようにペースを上げるからな」
「父さんが昼寝しなければ、予定通りだったのにね」
父のスッキリした顔を見ていたら悪態のひとつも吐きたくなるものだ。
「お前っ!?そもそもお前がハチミツ食べたいって言ったのが始まりだろっ!」
「子供には糖分が必要なんだよ!」
逆ギレではない。至極真っ当な訴えである。
ついでに子供の睡眠は父親の睡眠なんかよりも重要なことだと教える。
決して不寝番をする気がない訳ではない。たぶん。
父の昼寝によって大幅に予定が遅れたことをネチネチと責め立てれば、最初は不服そうだった父だが俺の口撃に最後は屈服し、渋々了承した。
ふふっ!正義は勝つのだ!




