15本目
初めての野営から朝をむかえて、俺達は森の中を再び歩いていた。
それにしても、父の顔色が悪いがきっと慣れない野営で疲れたのだろう。
「なぁ、アガト・・・」
「なんだい父さん?」
「どう考えても父さんが不寝番した回数が多い気がするだが?」
「それはどう考えても気のせいでは?」
まったく、大人のくせに朝から寝惚けてやがる。
「いやいや、父さん4回も不寝番したんだぞ!」
今日はやけにしつこいなと思いつつ、軽くあしらっておくかな。
「そもそも、お互いに同じ回数をこなしているわけだし何が不満なの?」
「お前なあ、1回2時間交代で父さんが4回にお前が4回。合計したら16時間も野営したことになるんだぞ!」
「そっか~、長居しちゃったんだね」
「・・・」
残念ながら父とのすれ違いは解消されることはなかったが道次は進んでいく。
父は疲れで沈黙、俺は自然を満喫しつつ寡黙に歩いていると、「ブーン」と虫の羽音が聞こえてきた。
音が聞こえるなり、虫系モンスターの襲撃を警戒して近くの藪に二人で潜む。
藪に潜んでから数秒、俺達の頭上を黄色と黒の縞模様の物体が通り過ぎていった。
「森蜂だ」
父が小さな声でそう呟いた。
森蜂、森に生息する虫型モンスター。体長は80センチ程があり、気性は荒くないが巣に近付くと、打って変わって集団で襲いかかってくる。
「恐らく、さっきの奴が向かった先に巣があるだろうからここは刺激しないように迂回した方が良さそうだな」
何を言っているんだか。
「父さん、ここは巣ごと殲滅して、ハチミツゲットだろうが?」
「・・・」
この後、白い目で見てくる父を説得し、巣に向かうのは骨が折れたぜ。
~~~~
乗り気がしない父を伴い、どうにか森蜂の巣が視認出来る距離までやってきた。
辺りには警戒中の森蜂やら、餌を持ち帰ってきた蜂やらで、ブンブン騒がしい。
数は100匹には届かないだろう。
「(アガト、ほんとに戦うつもりなのか?)」
「(当然!)」
父は最後の確認とばかりに聞いてくるが俺の意志は固い。
田舎の村や貧しい家庭ではそもそも、甘い物は貴重であり、高級品なのだ。ましてや俺は前世の記憶を取り戻してからというものずっと、糖分を欲していた。
この機会を逃す訳にはいかない。
「ハァ~」
父がこの期におよんでも嫌そう、溜め息を吐いているが知ったことではない。
「じゃあ、そろそろ殺ろうか」
頭の中が糖分の事で完全に支配されている俺は恐ろしい笑みを浮かべると矢継ぎ早に矢を放ち、次々と森蜂を葬っていく。
矢を射ち始めて、20匹くらいまでは問題なかった。
じゃあ、それ以降はどうなったかって?
大変だったさ。少々、森蜂を舐めていたかもしれない。
奴らは虫なだけあって、動きが結構速くて、思ったよりも硬く、何よりなかなか死んでくれなかった。
的自体は俺に言わせれば、大きいので当てるのは簡単だが胴や腹に一発当てたくらいでは倒れてくれない。
では頭ならどうだと、狙うが角度によっては矢が外殻を滑り、刺さらない。ゲームとは違ってシビアだ。
迫り来る毒針を避けては近距離から矢で反撃、無属性のマジックアローも交えて確実に1匹づつ仕留めていく。
隣を見れば、体調管理不足で足許がふらふらな父。
「父さん、この戦闘が終われば、ロイヤルゼリーが待ってるよ!」
父を激励し、扱き使う。
「・・・」
駄目だ、返事がない。動く屍のようだ。
父のフォローもしつつ、気付けば最後の1匹。
森蜂の突進を軽やかに避けて、頭部に一撃。
矢を頭部に受けた森蜂はそのまま、地面に墜落すると手足を足掻かせるが次第にゆっくりな動きになり、やがて止まった。
森蜂の最期を見届けてから、辺りを見渡せば、父もゆっくりな動きで地面へとへたり込んでいた。




