1本目
気付けば、俺は野原の上で仰向けになっていた。
空は澄んでおり、雲がチラホラあるだけで快晴と言ってよいだろう。
それにしてもどうして俺は外で寝ているのか訳がわからない。
それでもいつまでも寝ているのはおかしいので上半身を起こし、周りを見渡す。
「・・・」
全く見覚えのない景色が広がっている。
そこでふと違和感に気付く。
俺が今、身に付けている服だがやけに質素でお世辞にも肌触りが良いと言えない服を着ていた。
「・・・」
再びの思考停止。
やはり、状況が理解出来ない。
体感で数分程してから再起動をした俺は一つの仮説へと思考が辿り着く。
「俺、異世界転移したんじゃね?」
自分で言葉を口に出し、そのバカな考えに笑いが込み上げてくる。
「そんなバカな事あるわけないよな。ステータスオープン!なんちゃって」
バカな考えで有り得ないと思い呟いた一言であったが次の瞬間、驚くことになった。
俺の目の前には今、半透明なディスプレイのような物が浮いている。
名前:アガト
属性:《無》
職業:村人『Lv:0/10』
SP:10
STR:10
VIT:10
INT:10
MND:10
DEX:10
AGI:10
LUK:10
《スキル》
1.―
2.―
3.―
4.―
5.―
6.―
7.―
8.―
9.―
10.―
《習得済みスキル》
・『無限収納』
「・・・」
三度目の思考停止。
「はっ!?転移じゃなくてVRゲームだったのか!」
俺は名探偵が難解な事件を解決した時のような晴れやかな気持ちに浸っていると突然、頭を叩かれた。
「いたっ!?」
突然の衝撃に驚きながら後ろを振り向くとそこには10才くらいの黒髪の男の子が立っていた。
その男の子の顔を見た瞬間、俺は全てを思い出す。
そう俺はこの世界に生まれ育ち、前世の記憶を取り戻したのだと。
衝撃的な事実に気付き、マヌケな表情を浮かべた俺に男の子、俺の弟が怒鳴ってくる。
「にぃちゃん!また、サボったな!にぃちゃんのせいでかわりにおれがてつだわされたんだぞ!」
弟の言葉でさらに思い出す。そう、家の手伝いが面倒でサボって寝ていたのだった。
前世の記憶を取り戻す、一大イベントがあったがまずは目先の事を片付けようと弟の機嫌を取りながら家へと戻ると玄関に仁王立ちする鬼、もといマイマザーが笑顔で待ち構えており、腕を掴まれて家の奥へと連行されるのであった。
◇
なんとか母親の説教をやり過ごし、今は家族揃っての団欒だ。しかし、もっぱらの話題は俺への愚痴と説教だ。
はい。やり過ごせていませんでした。
そんな中、父が一つ咳払いをするとみんなを見渡し真剣な顔を作り、いかにも今から俺がしゃべるぞという空気を作りだす。
「アガト」
「はい」
「お前も12才になったし、そろそろ狩りのしかたを教えようと思う」
うちの家族は秘境に暮らす狩猟民族ではない。
ではないが村に一軒しかいない狩猟を生業とする狩人を父がしている。
俺はその4人家族の長男なのでゆくゆくは家業を継いで将来は狩人になろうと思っていた。そう今日の昼までは。
「にぃちゃんだけなんてずるい!」
前世の記憶を取り戻した
「おれもいきたい!」
俺はテンプレ通り、異世界を満喫するため
「いきたい!いきたい!」
弟よ。少し黙ろうか。
「いきたい!いきたい!」
俺はうるさい弟を殴り付け、その後母親に倍殴られて沈黙するのであった。
だって、俺も大事な話をしてる最中だったんですマァム。