Part2 銃を扱う作品の理想と現実を比較してみた(おまけ付き)
・知ったかぶりがゲームと聞きかじっただけの知識で銃を扱うと……
・理想
デザートイーグル(.50AE弾仕様)を所持した主人公がヒロインの目の前に颯爽と現れDEを20連射する。
S&W M500に次いで大口径.50AE弾を使用するイスラエル製のオートマグナムが五回火を吐いた。直後、五人の人影が血煙になって消え果てる。
50口径の大威力が骨も肉も破砕して跡形も残さない。其れはもはや俺の心境を如実に表しているといえるだろう。彼女に、アーデルハイトに指一本でも触れる奴を俺は許さない。
男「よぉアーデルハイト、助けに来てやったぜ」
女「(キャーーーーーーーーーーーーーーーー)」
50口径の、もはや対物ライフルと遜色ない威力のそれが20回火を噴く。オートエイムとキルレが合わさり命中率が瞬間的に100パーセントにまで上り詰めたそれは、極論すれば180°反対方向を向いていようと目の前の敵に着弾する。何の変哲もない剣と鎧なぞ紙切れに等しい。
そうだ、俺のことをなよなよしていると云った奴、覚えておけ。これが現代戦FPSゲーマーと現代が誇る拳銃の力だ。
男「負けない、俺はこの力でアーデルハイトを守るんだ!」
知るかボケ。
・現実
デザートイーグル(.50AE弾仕様)を所持した主人公がヒロインの目の前に颯爽と現れDEを20連射しようとする。
S&W M500に次いで大口径.50AE弾を使用するイスラエル製のオートマグナムが五回火を吐いた。直後、五人の人影が倒れ込む。その胸には弾丸の実口径よりも大きな風穴を開けて、ようやっと砂地に窪みを作りながら.50AE弾の侵攻は止まっていた。
50口径の大威力が、どこに当たろうと致命傷は免れない其れはもはや俺の心境を如実に表しているといえるだろう。彼女に、アーデルハイトに指一本でも触れる奴を俺は許さない。
男「よぉアーデルハイト、助けに来てやったぜ」
女「(キャーーーーーーーーーーーーーーーー)」
切りかかってくる騎士の一撃も、FPSをやりこんだ俺の体とこの最強の拳銃があれば――
しかし引き金を引いても空振りするだけだった。よく見ればスライドは後退しきり、弾倉に弾丸は一発も残っていなかった。この瞬間、少年は理解した。これはゲームではなく、紛れもなく現実なのだと。そして防弾べストも何も身に纏っていない、弾丸を使い果たしここまでの接近を許した人間の末路は一つしかない。
少年は思う。
糞神が! オートリロードくらいおまけしろよ! 連射出来ねぇ銃は銃じゃねぇだろうが!
くしくも、其れが彼の最後の思考となった。袈裟掛けに叩き切られ砂地に身を横たえれば、彼の体からは止め処なく血があふれ出て砂が其れを一心不乱に吸い上げては太陽の熱が其れを蒸発させていく。
油の匂いが、骨髄の匂いが、血液の匂いが、どうしようもない悪臭となってあたりを覆い尽くす。彼の調子に乗った人生はこれで終わるのだ。
・最弱の弾丸は人を殺せないと思っている人多すぎ問題
敵役が向けるスタームルガーMk-1、その使用弾薬である.22LR弾は紛うかたなき最弱弾である。コイン一枚を変形させたり弾いたりするくらいの力しかない。サ○マドロップス(中身入り)を貫通しきるだけの力もない。
しかし推理小説によくある懐中時計で受け止めたりすることはできないこともこれは証明しているのだが、あまり知られていない。ただ、拳銃弾中最弱の名前だけが独り歩きした、暗殺に最適な弾薬である。
故に、日本人は一般的に.22LR弾や.25ACP、.38Specialでは人間は死なないと高をくくっている。さぁ、これを向けられた主人公はどう対処する?
・理想
.22LR弾を使用するスタームルガーMk-1ブルバレルを向ける男に彼は馬鹿にしたような態度でニヒルに笑んだ。
そんな最弱弾で人が死ぬわけが無い。鳩は豆鉄砲で驚くが、人間はその程度の小口径低威力の弾丸になんぞ怯えるわけが無いのだ。
例えば、こんな話を聞いた。海外のカジノで使われている安いゲーム用硬貨や価値の無い旧貨幣に順繰りに発砲しても弾かれるだけだった。財布すら貫けない。至近距離で辞書すら貫けなかった。
そんな、存在する価値の無い最弱の弾薬を使用する拳銃が、脅しになると思っているのだろうか、神戸稲吉会系暴力団員を名乗るこの男は。そんな弾薬は玩具に過ぎないのだと。
暴男「おい、動くなッつっただろ!」
男「悪いけど、お前じゃ俺を殺すことはできない。そんな玩具を使っているようじゃ――な?」
暴男「なに訳のわからねぇことをほざいてやがる! 跪け……おら、あくしろよ!」
男「何度も言っているが、お前じゃ俺を殺せない。それどころか、倶寺架倭羅 狐仔舉ちゃん(←何て読むのかわからない。読める人は教えて)を殺すことさえも不可能だ」
女「キャーー(バインドボイス)聖堂院逝樋渡さんステキー(音割れ)」
ならば俺が証明して見せてやろう。そんな豆鉄砲を持たされたお前の不運とやらを。お前の逮捕が、神戸稲吉会にもっとましな銃を揃えさせる布石になるのだから、安い犠牲だと思えばいい。
俺はお前を許さない。どうしたって歩み寄りの余地もないほどに、俺はお前たちのことを殺したいほどに怒っているんだ。だからお前には、その玩具ごと目の前から消えて貰う。
愛しの狐仔舉のために――
暴男「予定変更だ。そこのお嬢さんともどもおっちんじまえ!」
乾いた発砲音が響くが、十分に目視することが出来るほどの低速で弾丸が飛来する。その遅さたるや、弾丸を素手で鷲掴みしてしまえるほどだ。
こんな銃弾じゃ俺を殺すことはおろか狐仔舉を殺すことだってできはしない。一般人だって殺すことはできないだろう。殺したければパンツァー・ファウストの一本や二本は持ってこい!
暴男「う、嘘だろ――拳銃の弾を掴んじまうなんて!」
男「もう良い、お前はねてろ」
暴男「うfbhp;おうhfp;いおうあえrhごf;ヴいはせr@gふいh」
高々柔道を齧っただけの高校生にしてやられるとは、暴力団員もピンキリのようだ。
どうでもいい高揚感が体を駆け廻っていく快感に我を忘れかけるが、しかしこれは必定だったのだ。こんな安っぽちい拳銃を用意する暴力団の規模なんぞ、人員の質なんぞ推して知るべくもない。
故に必定。故に必然。俺の勝利は決まっていたのだ。どうしようもないほどに、この男と俺の間の戦力差は歴然としていたのだ。ただそれだけだったのだ。
男「さぁ倶寺架倭羅、うちに帰ろう」
女「――狐仔舉、とお呼び下さい、逝樋渡さん」
男「狐仔舉――」
女「逝樋渡さん…………」
この後散々いちゃいちゃらぶらぶズッコンバッコンどぴゅどぴゅビュービュルルした。爆ぜてしまえキラキラネームども。
・現実
.22LR弾を使用するスタームルガーMk-1ブルバレルを向ける男に彼は馬鹿にしたような態度でニヒルに笑んだ。
そんな最弱弾で人が死ぬわけが無い。鳩は豆鉄砲で驚くが、人間はその程度の小口径低威力の弾丸になんぞ怯えるわけが無いのだ。
例えば、こんな話を聞いた。海外のカジノで使われている安いゲーム用硬貨や価値の無い旧貨幣に順繰りに発砲しても弾かれるだけだった。財布すら貫けない。至近距離で辞書すら貫けなかった。
そんな、存在する価値の無い最弱の弾薬を使用する拳銃が、脅しになると思っているのだろうか、神戸稲吉会系暴力団員を名乗るこの男は。そんな弾薬は玩具に過ぎないのだと。
暴男「おい、動くなッつっただろ!」
男「悪いけど、お前じゃ俺を殺すことはできない。そんな玩具を使っているようじゃ――な?」
暴男「なに訳のわからねぇことをほざいてやがる! 跪け……おら、あくしろよ! それとも体で教えてやろうか、文字通り、そのプリプリのケツの穴で!」
男「何度も言っているが、お前じゃ俺を殺せない。それどころか、倶寺架倭羅 狐仔舉ちゃん(←何て読むのかわからない。読める人は教えて)を殺すことさえも――――」
乾いた発砲音が響く。見て見れば男の手に握られたルガーMk-1からは薄く陽炎のような物が漂っている。その銃口の向く先は――――俺の左手だった。
彼が左手に目を向ければ、其処には小さな丸い穴があった。直径で5mmあるかないか。
衝撃波音はなかった。ただただ静かに、気がつけばそこに穴が開いていた。痛みもなく、まるで暗殺者のように唯ぽっかりそこだけに空洞が広がっていた。
すぅっと血の気が引いていけば、奴は何をしたのかと混乱した頭が答えを求めた。勿論、銃を撃ったのである。即座にその答えが彼の頭の中に降りてくるが、しかし彼は其れを認めることが出来なかった。
最弱の拳銃弾、財布や辞書すら貫き切れなかった最弱の貫通力の弾が、いとも容易く自分の左手を食い破ったなど、到底信じられる出来事ではなかったのだ。
また乾いた音が鳴ると、今度は右足の踏ん張りが利かなくなって、気がつけば地面に右膝を着いていた。ナニガオコッタ?
暴男「お前これが何か分かってないみたいだな。これは銃って云うんだよ。人間が約五百と数十年前に生み出した画期的な兵器さ。これは亜音速弾ッつってな、通常の拳銃弾よりも遅いんだよ。ただし貫通力はそのままだがな」
男「なんで――だって鉄板だって雨のは云った缶詰だって貫けなかったって……」
暴男「もういいやお前。話通じねぇわ。じゃあな。次からはヤクザにホイホイついてくるんじゃねぇゾ。でねぇと、お前のケツ穴ほじくっちまうからな」
再び乾いた音が脳天から鳴ったと思えば、次の瞬間耳が、舌が、鼻が、目が、何も見えず何も感じられないようになって、0.2秒後、彼は訳も分からぬままに絶命していた。
脳幹を一撃で射ぬかれたのだ。一般的に脳味噌は撃たれただけで死ぬことはない。例えば喉元諸共に髄を撃ち抜かれたり、額のど真ん中を狙われれば確実に死ぬだろう。がしかし後者はそれでも完全に絶命しきるまでに2秒ほどのタイムラグがある。当たり所が良ければ、右脳を弾き飛ばされても存命している人間も存在する。
意外とそんな物だ。撃たれれば確実に死ねるのは心臓か、額のど真ん中か、其れか脳髄。目などを撃っても入射角が外側に向き、かつ下顎や後頭部の下部に向けて貫通すれば、生き残る可能性はある。非常に低確率で、かつ脳に重篤な機能障害を負うことになるだろうが、生き残る可能性はある。其れが幸せかどうかはさておくとして。
・何かありそうな話
驚嘆すべきは、男の腕である。いくら反動の少なく扱いやすい.22LR弾とはいえ、昨今銃を扱う機会の減ったヤクザに、それもろくに射撃訓練も受けてない鉄砲玉が10mの距離から彼の脳髄を完全に射ぬいたのだ。素人が、だ。
暴力団員に送ってもしょうがない讃辞であるが、彼には天賦の才があるのかもしれない。特に、射撃に関して並々ならぬ。
いささか問題ではあるが、しかしそれが仕事なのだ。彼は、仕事を果たしたに過ぎない。
女「それよりも近藤……早くこの縄を解いてくれないかしら」
暴男「へいお嬢。申し訳ありやせん、血生臭いところをお見せして」
女「良いのよ。勝手に期待して勝手に恋人になった気分のあれを処分してくれたんだもの。お父様にもちゃんと云い含めておくわ」
暴男「ありがとうございやす!」
そう、あんな男はどうでもいいのだ。暴力団トップの娘とも知らず妙に色香をふりまき他の取り巻き同様に扱おうとしたあの愚か者の事なんぞ。自意識過剰が巡り巡って、私が以前話して聞かせた嘘の情報を真に受けて自滅しただけなのだから。
それよりも――この原石は、磨けば光る。逃して成るものか。
女「ねぇ近藤、あなた天賦の才があるわよ。特に射撃の。米国に渡ってみる気はあるかしら?」
暴男「いやそんな、勿体ないお言葉です」
女「私はその射撃の腕を磨く気があるのか否かを問うているの。問いには答えなさい。嫌われるわよ」
暴男「……学の無いワシでも……覚えられますかね?」
女「あなたの素質次第ね」
そしてそれで潰れるようなら、その程度の屑石だったに過ぎないということだろう。そんな奴に、私の計画の片棒を担いでもらうわけにはいかない。
暴力団だのしきたりだの糞くらえだ。何故私が――何故オレがそんな物に縛られにゃならない。そんな物、手を上げるかしか能の無いお前たちで勝手に金持ち気分を味わいながら興じていろ。オレにとってはどうでもいい。
であるなら、オレにとってこの極道の世界と云うのはひどく生きにくい世界だ。まだマフィアの方が生きやすいかもしれない。であるなら間違った法則とやらはオレが生きやすいように壊し、整えていくべきであろう。世界とは、道とはオレが通った後のその轍こそが世界なのだ。
だから――なぁ、潰れてくれるなよ? 期待を裏切ってくれるなよ? 能無しのサルに仕事を恵んでやるのだ。精々働いてくれよ――私の、いやオレの生きやすい世界を創造するために。
暴男「お嬢、何をたくらんでいやがるんで…………?」
女「そりゃあ勿論、オレが生きやすい世界さ。其れはきっと、お前にとっても生きやすい世界だろうよ。極道者だとかあんだとか、馬鹿にされたくねぇよな? オレの目指す世界は、お前にとっても目指す世界だ。オレについてくる気はあるか?」
そういって女は、鞄からサプレッサーの取り付けられたH&K Mark-23――45口径の自動拳銃――を取り出すと男の首筋に宛がって、ミントの香りのする呼気を厚い胸板に掛けながら問うた。拒絶には死が待っていると示しながら。
暴男「――――――着いていきやす。ワシャこれまで馬鹿だの阿呆だの罵られて生きてきよりました。ヤクザの世界に入ったんは、そっちの方が生き安かろう思うたからです。けんど、どこも変わりゃしませんでした。お嬢、あんたに――いやあなたに初めて、評価して貰えたんです。着いていきやす。その先が地獄でも」
女「ふふっ、よく云った、近藤。そうだよ、極道の世界は間違っている。一度焼き払い、再構築しなければならないだろう。そうでなければ、俺たちに救いも未来もあったもんじゃない」
上機嫌に男の胸板を軽くMark-23のマガジンバンパーで叩くと、それが烙印だというように微笑んだ。
不覚にも男は、この齢17の女に魔性の色香を感じながらも其れにのみ込まれていた。そしてこうも思った。
女「始めよう――俺達の逆襲劇を」
もう抜け出せない――と
おまけつきです。
よくなろうや他の界隈でも見かけますが、.22LR弾は威力が低いだけで殺傷能力はあります。また、懐中時計を是と同じくらいかそれよりも威力の小さい.25ACPが破壊しているためこれでも当然貫通可能です。推理小説あるあるも同時に否定しています。というか弾の威力絶対調べてないよねって感じ。
また反動が小さい分精密射撃が可能です。威力が小さいからと云って弾の速度が遅いわけでもなく、作中に登場した亜音速弾ではなく通常弾なら余裕で音速に達しますし、弾の動きを見切って掴み取ることなんてできません。余程鍛錬に励んだ居合の達人くらいでしか達しえない領域です(その達人は5.56mmを見切って斬ってますがその人の反射神経がおかしいだけ)。
つまり何が云いたいかと云うと、いくら低威力低反動でもネット作家どもよ、其れはかなり無茶だぞ。と云いたいだけです。