プロローグ
人類が宇宙に向かって進出し始めることを決意したその年に“ソレ”は地球圏に辿り着いた。ソレ―その一族はほかの氏族と同様に滅びゆく母星から逃げ延び、あまたの同胞を犠牲にして広大な銀河を渡り、ついに自分たちの繁殖に適した惑星を発見した。膨大な酸素と水素を有し、生育に適した重力を有する惑星-地球。目減りする一族の繁殖のため今すぐにでもかの星に降り立たねばならぬが、しかし既に知的生命体がそこに存在していることを、彼らは独自の観測能力で把握していた。かの星に住まう生命体が一族を滅ぼすほどの戦力を有しているかはまだわからない。しかし、情報を集めず侵攻したために惑星の先住民によって滅ぼされた同族がいたことを“彼”は忘れていない。一族の頂点に君臨する彼は愚を犯さぬように行動を開始する。まずはかの星の情報を集めなければならぬ。脅威の有無を確認し次第、行動を開始しよう。太陽系外縁部。外宇宙の入り口において18mほどの大きさの塊が地球に向かって放出された。それは先遣隊。彼ら全体からすれば細胞の一つほどの大きさに過ぎない小さな使者だ。
その日、その惑星に住むとある少年は“知覚”した。遠きソラから迫る脅威を。自然と両隣にいる二人を掴む手に力が入る。怪訝な表情で少年を見る少女ら。それに気づくや否や、少年はすぐさま笑顔を少女らに振りまく。今はまだ何も起きはしない。少年は少女らを連れ浜辺を進む。寄せる波の音と子供たちの話し声が響いていく。
この惑星に住む者たちはこの少年を除いてまだ誰も知らない。未来に訪れる地球外生命体との邂逅と地球を覆う無数の悪意の現出を。そして知るのだ、宇宙に存在する大いなる『支配者』の存在を。
この物語は、命を燃やして戦場を駆け抜ける男の愛と誓いの物語。