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壊国の魔術師  作者: 未唯 啓
第一章 一国目
5/8

ゴブリン後編



「全員集まったようですな」


場所はこの街ゼルンの外壁の近く。既にラハト達が集まっていて、後は出発するだけだ。

ゼルンから王都までは行商人の護衛に付いて行くため、先ずはその人物とコミュニケーションを取らなければならない。


「ラハトと言います。今回は宜しくお願いしますね」


ラハトの挨拶に立派な服を着たおじさんが機嫌良さそうに挨拶を返す。


「いやぁ、まさか彼の有名な“万聖”に護衛して頂く事になるとは思いませんでした。妙に偉くなった気分ですな。こちらこそ宜しくお願いします」

「光栄です」


はて?”万聖“とは何でしょうか?私はその辺りの事は詳しく知りませんがラハトは思った以上に有名なようです。

ま、私には関係のない事です……


商人との顔合わせが終わると問題なくライデン王国の王都へ向かう道を商人の護衛をしながら進んでいく。

冒険者に依頼を出すような商人は比較的金持ちが多いので大概馬車を使って都市を行来する。この商人も例にもれず馬車を使って移動するようです。

私達はその商人の馬車に乗せてもらい一緒に移動する。流石に中に一緒に入る事はしてませんが荷台の上などに乗って周囲の警戒を行っている。


……勿論、私もしてますよ?


これでも索敵は得意なんですよ?

周囲2千ラート以内には魔物とかはほとんどいなくて野性動物とかしかいませんね。


「ゼルンから王都までの距離ってどのくらいだっけ?」


暇になったのかリセロラが髪を弄りながらラハトに質問する。


「確か……50キロメートルぐらいじゃないかな?僕も詳しくは知らないギルの方がそういうのは詳しいんじゃないかな?」


ラハトは周囲の警戒はしていないので普通に返している。リセロラはそこまで気にしてないのかそれ以上は聞かなかった。

あ、キロメートルは昔の大商人がラート単位が制定される前に広めていた依然として残り続けているメートル単位というもので冒険者や商人、ギルドの人達はよく使うそうです。

もっと言うとメートルとかミリメートルとかもありますね。

ラート単位とメートル単位は殆ど違いがなく、キロメートルと同じくキロラートとかミリメートルと同じくミリラートと言う単位もありますからね。どっちも違いがありません。

まぁ、少し違うんですけど気にしたら負けです。


「俺の名を誰か呼ばなかったかい!」


自慢の頭を光らせながらギルが目敏く聞きつけて話に入ってくる。


「ギル、警戒しなくても大丈夫なのかい?」

「いや、大丈夫だ。今の所、賊や魔物なんかはいない安心してくれ」


ラハトがギルを窘めるように言ったが警戒は怠っていないのかギルは意外にも真面目に答えた。


「そうか、なら大丈夫だね」


ラハトが安心したように言う。余程、ギルを信用しているのだろう。そして楽しそうに歓談を始めてしまった。

(このチームは見ていて気持ちが良いですね。この信頼関係は私には真似出来ないようなひどく遠い物に感じます……)

レナはそんな事を考えて、逃げるように周囲の警戒範囲を広げたのだった。


ゼルンから出発して2時間程たった頃、周囲にはたくさんの木々が立ち並ぶ濃密な森が広がっていた。森は視界が開けていない分警戒は充分必要である。ラハト達は全員が全員周りを警戒している。

その中、一人呑気に果実水を飲んでいるレナは森に群生している植物に夢中であった。


あ、あれは!回復薬に使うユテヤメコ草じゃないですか!

しかも、あんなに群生しているのに……!

く、これが護衛でなければ……取りつくしてやる所だと言うのに!

何故、こんな護衛などしている時にいつもそんな稀少な薬草があるのですか!

こうなったら魔術で………


「レナさん?何してるんですか?」

「なに、珍しい薬草を見つけたのでな少々魔物どもが集まるであろうが魔術で回収しておこうと思ったのだ」


私が薬草を回収するために魔術の準備をしているとラハトが不思議そうに聞いて来たので答える。するとラハトが血相をかえて止めに来た。


「止めて下さい!レナさん!魔物が集まる程度なら何とか出来ますがここは悪戯の森ですよ?魔物が集まれば邪族ゴブリンが集まってきます!そうなれば数で押しきられます!」


……まさかゴブリン如きがこの私の行手を阻むとは!許すまじ!


「む、そうか……」

「止めてくれてありがとう。確かに珍しい薬草も大事だけど今は仕事中だからね。依頼人の命が第一優先だよ」


ラハトに言われて薬草については諦めました。しかし、この小さな身体は不便が過ぎますね。実際問題周りからの印象や、運動面が本当に厳しくなってそちらの補助に使っている魔術のせいで精密な魔術はかなり難しいくなってしまいます。


「初めてこの身体が忌々しいと思ったな……」




薬草について私が苦渋の決断をしてから1時間が過ぎた頃には、かなり森の奥深くまで来ていた。最初は和んでいた空間も今では緊張感で張り詰めた空気に包まれている。森の木々は自然を感じさせる綺麗な景色から人を呑み込んで逃がさないとでも言うかのように不気味に聳え立っている。


「ここは何度通っても不気味だな……」


ディーダンが呟く。それに警戒を解かずにラハトが答える。


「そうだね。確かにここを通る時は少し不気味だよ」

「当然だろう。ここには微弱は魔術がかけられている。人の精神に異常をきたすように術は組まれているな」


この森、前に通った時も迷惑な術がかかっていたので魔力ごと吹き飛ばしてやったのにまたかかっているとは思いもしませんでした。

前は自然現象に寄って魔力が力を持っただけだと思いましたがどうやら違うようです。

何処かに術者がいるのかも知れませんね。これは探ってみる必要がありますね。

私の言葉を受けてディーダンが心配そうに聞いてくる。


「おいおい、大丈夫なのか?それ」

「いや、今から少し探ってみる」


私は懐から魔方陣の描かれた一枚の紙を取り出しそこに魔力を込めて行く。そしてそこから頭に魔力との繋がりを作る。

途端に世界が変わる。この森の目に見える物も目に見えない物もその全てが頭の中に流れ込んでくる。

その中で余計な雑情報を捨て魔力の流れに集中する。そしてそこに一筋の線を見つける。それを見失わないよう探っていく。


「……見つけた」


私がそう呟くと同時に手に握られて居た魔方陣の描かれた紙が青く光りながら消えるように燃えていく。俯けていた顔をあげて森の中のある方向を向く。


「……何を見つけたんだ?」

「何か居たのかい?」

「魔物か!?」


私は騒ぐラハト達を無視して懐から先程より一回り大きな魔方陣が描かれた()を取り出しそこに先の二倍程の魔力を込める。

そして、そのまま紙を押し出すように魔方陣を森の一方向に向けた。

その直後、森が揺れた。

魔方陣から放たれた薄く光った線は直線上にあった木々を貫通して遥か向こう側までトンネルのような穴を作っていた。


「おいおい、こりゃあ……」

「魔術って、凄いのね」


ディーダンとリセロラ達が驚きと畏怖を込めた目で森を貫通させた魔術の後の穴を見入っているのが分かる。

しかし、私は思わず眉を寄せてしまう。


「これは……失敗したな」

「どういう事だい?レナさん、僕らにも分かるように説明してくれないか?」


ラハトに言われて私は今したことのあらましを語る。


「この森は異様に広い。だからこの前来た時には面ど……えー大変だったから魔術その物をそのまま吹き飛ばしただけに留めていたんだ。実際、自然に発生する魔術もあるからな。ただ、今回また通ってみると魔術が復活していたんだ。こうなると人為的に作られた魔術としか思えない。普通、魔術が自然発生するにしてもその環境が整っていて尚且つ数十年の時を必要とするからな。」

「ということは誰かが魔術を行使したって事かい?」


レナの言葉にラハトが疑問を口にする。


「その通りだ。だから今回は森全域を調べさせてもらった。思った通り魔術を行使している魔物がいた」


魔術を行使する魔物が存在するという言葉を聞いて全員の表情が一気に固くなる。魔術を使う人間は殆どいないが魔物の中には魔術を使う物がある程度いる。だが、そんな魔物は魔物の中でも知性があり伝説に出てくる事もあるほどに有名な魔物である。表情を固くするだけで特に慄く事もないラハト達のレベルが高い事は言うまでもないのだろう。


「ここから……三キロ程離れた位置に堕ちた妖精の一種である邪族のゴブリンがたむろしていた。そして、その中央にはボスがいた。恐らくだがゴブリンの王……魔術師だろう」


皆が皆、真剣な顔付きになる。王とはこの世界ではかなりの重みを持つ言葉だ。

ゴブリンの王とは王と付いているだけで其れほどの凄みがあるのだった。



「……どうする?ここで殺っとくか?」


恐らく、この中で誰もが考えていたそれを重々しくディーダンが口にした。

私は別にどっちでも良いんですけどね。


(……ただ、今はあくまで()()という仕事の最中なんですよねー)


「いや、止めておこう。今はあくまで護衛が主な仕事だ。態々、護衛対象を危険に晒すのは得策ではない」

「確かに、そうだな」


ディーダンは苦笑して答えた。

格好いいですね。普通のおっさんがこんな苦笑しても何とも思わないのに不思議です。


「取り敢えず今は護衛対象を無事王都に連れて行って、そこからだねゴブリンキングに関しては」


リセロラが納得といった風に首肯した。

ゴブリンキングに関しては皆さん放っておく気は無いようです。放っとこうと思っていたので一人だけで少し、いやちょっと、いやかなり……恥ずかしいですね。


「どうかしたのかい?レナさん、顔が少し赤くなっているよ?」

「ええい!うるさいうるさい!考えは人其々だ私がどう考えようが私の自由だ!」

「え?急にどうしたの?」


リセロラが不思議そうにしながら聞いてくる。私はそこでようやく何も知らないラハト達に急に訳の分からない事を大声で話した事に気づいて更なる羞恥が全身を襲いました。


「……いや、何でもない」

「そうなの?ま、それなら良いけど、それよりさ!レナちゃん王都行ったらどこ行く?一緒にどっか行こうよ!」


リセロラが先程の真剣な顔ではなく楽しそうに王都についてからの事を話し始めた。

きっと、森をもうすぐ抜けると思ったからでしょう。

実際、後数分で森を抜けることが出来ますしね。何故でしょうか、一人でいる時もそれはそれで良いのですがこう何人もで愉快に過ごしていると心の底から温まりとても幸せに思えて、これはこれで良いと思います。

王都に着いてから出発するまでどうしましょうか?

()()()()()()()と一緒にショッピングにでも行きましょうか?





―――とある悪戯の森と呼ばれる森で妖精ゴブリンから堕ちたゴブリン、邪族ゴブリン達は怯えていた。

邪族ゴブリンは元々全員が妖精ゴブリンだったのだ。

だが、ゴブリンに必要な風の魔術を使えない落ちこぼれは体に魔力が通らなくなり、劣化する。そして、邪族として忌み嫌われる。

だから、邪族はいつも思う。

我々は邪族等ではない!我々は何も悪い事をしていなかった!

邪悪なのは、ただ魔術を使えなかっただけでただのちっぽけな子供を一人集落から追い出すような妖精ゴブリンと言われている奴らではないのか!

そして皆が決意する。魔術を使えるようになってやる。

その中でようやく魔術を使えるに至ったゴブリンは邪族のゴブリンキングと呼ばれるまでになった。

そこにいるゴブリンすべてが報われたと思った。これで憎き妖精ゴブリンに報復できると思っていたのだ。

その悦びが先の数秒で霧散する。あの光りは何なのだ。

ゴブリン達は王に問う。ゴブリンキングは茫然とした顔で一言呟いた。


「……逃げルゾ」


ゴブリン達はその言葉に怯え静かに息を潜めその場からゆっくりそして早く速やかに逃げて行くのであった。

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