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壊国の魔術師  作者: 未唯 啓
第一章 一国目
2/8

再出発

 

「では、売却品をお見せ下さい」

「勿論だ」


 私が悔しい思いをしているとは露知らず受付嬢のお姉さんはいい笑顔です。

 私はそのいい笑顔に対抗するようにいい笑顔で売却する品々をそのスペースに置く。


 私は何も必死に狩りをしたり、採集をしないとお金がなくなる程貧乏な訳でも弱い訳でもありません。

 ただ、今までの旅の道中でギルドに一切寄らずにお金を使いまくったのが原因なんです!

 だからか知らないけど採集した素材や狩で手に入れた品々は溜まりにたまっている。


 私達冒険者は狩で捕った品々や採集で集めた薬草なんかを運ぶために専用のポーチがある。

 時空間系統の魔方陣が描かれていて、一般に見た目の百倍ほど収納可能になっている。

 因みに私のは特別製で制限は設けていない。


「これは驚きました……鑑定士を呼んで参りますので暫くお待ちください」

「了解した」

「では、失礼します」


 受付嬢のお姉さんの顔が驚愕に染まっていく。それを見ているだけで溜飲が下がる思いです。実に清々しい。

 受付嬢のお姉さんがその場から離れていく。

 それを見送ると私はスペースに置かれた売却品を見る。

 私は昔それなりに鑑定をしている時期があった。実際、そのお陰でギルドでの鑑定結果も周りと比べて比較的分かるようになっている。


「……全部で100万レイト程か。」


 おや、何故でしょう。頬が緩んできました。いけないいけない。やはり金は冒険者にあり、ですねー本当に。儲かる儲かる。


 世には金貨、銀貨、銅貨があるがそれぞれ大小二種類存在する。普通の銅貨、大銅貨、普通の銀貨、大銀貨、普通の金貨、大金貨。普通の銅貨から十進法式に1レイト、10レイト、100レイト、1000レイト、と大金貨に近づくほど価値が高くなっていく。つまり100万レイトというのは大金貨10枚を指すわけだ。因みに宿屋は一泊は基本大銅貨数枚で事足りる。


 100万も有れば何が出来るんでしょうか?


 私がそんな風にあれこれしたい事などを考えて浮かれていると受付嬢が若干早足で戻って来ました。その隣には受付嬢より少し背の高い眼鏡をかけた男がいました。眼鏡は高級品で持っているだけでも金持ちだと分かります。


(金持ちは敵です!このような裕福な者がいるから私のような貧乏が生まれるのです!)


 こんな理不尽な事を考えてしまうぐらいには金持ちは嫌いですね。


「鑑定士を連れて参りました。これから鑑定を行いますがよろしいでしょうか?」

「構わぬ、早くしてくれ」


 私が了承すると受付嬢は鑑定士に後を頼んで後ろに引っ込んでいった。何かすることでもあるんでしょう。


「では、鑑定させて頂きます」

「よろしく頼む」


 それからは鑑定士が私の売却品を鑑定していくだけで特に会話もなく静かに時間が流れる。正直に言うと少し気まずいです。

 ですが、私が話した所で何も無いので我慢しました。それから10分程待ってようやく鑑定が終わった。長かった、長かったです。ただひたすらに長かった。

 仕事だから慎重にやらないとダメというのは分かりますが幾ら何でも時間をかけ過ぎです。私なら慎重にやっても3分で終わります。


「鑑定が終わりました。受付が参りますので、ここでしばらくお待ち下さい。そちらで金額を受けて取引き終了となります」


 受付嬢が引っ込んだ方に鑑定士が受付嬢を呼びにいく。しばらくして受付嬢が興奮冷めやらぬ顔で受付に出てきて私に夢のような金額を掲示してきた。


「本日は様々な薬草や重要素材の品々をお売り頂き誠にありがとうございます!鑑定額の方ですが180万レイト程でどうでしょうか?」


 私は何と世に恵まれているのでしょう?やはり冒険者は止められませんよ。最高です!売った物の中に今時の重要素材が結構入っていたようで相場がいつもより高くなっていたようです。何と言うことでしょう……素晴らし過ぎます!

 因みに、鑑定額は上から六桁以上ある時は下四桁は四捨五入です。


「それで、構わぬ」


 むしろ、感謝です。これでダメだとか言う奴は人間じゃないと思います。いや、人間じゃないですね。


「それと後、1万だけばらしてくれ。それと受け取りは何処だ?」


 幾ら金持ちだからと言って宿屋で大金貨1枚出してお釣が来るとは思えません。せめて銀貨ぐらいにはばらさないとお釣が帰ってきません。世の中世知辛いものです。


「基本的にはこちらで預かる形になりますが、手数料が嫌だと言う方はあちらに換金窓口がありますのでそちらに冒険者カードをお持ちください。そこだと今日こちらで売った金額は預かりの手数料なしで引き出し出来るようになっております」


 要するに今日、売って儲かった金は自動的にギルドに預けられたわけか。なるほど……


「理解した、感謝するぞ」

「いえ、こちらこそ有難うございました」



 受付から抜けると受付嬢のお姉さんが言っていた所に換金窓口があった。そこに向かいカードを掲示する。


「今日の分の換金を頼む。後、1万レイト分はばらしてくれ」

「ん?分かりました。こちらでお待ち下さい」


 換金窓口の男は不思議そうにしていましたが何処かのお嬢様だとでも思ったのでしょうか?まぁ、違いますけどね。


 そして換金するまで待つんですが何かと今日は待ってばかりな気がしてなりませんね。少し退屈になってきました。

 飲み物でも飲みましょうか?そう思いポーチを取り出してそこから私の好きな果実水を取り出す。偶に高級店か何かで売っている高級果実水です。味はグレープの味がする。名前は確か、グレーププレシェン……何とかだったと思うんですがよく覚えてないです。とにかく私のお気に入りです。


 ……そんなことに金を使って貧乏になってるのは知ってるんですよ?分かってますからね?

 だが、しかし!時に人は譲れない物があるのです!


「すみません、換金が終わりました。にしても、凄いですね。こんなに換金したのは初めてです。」


 あ、換金中でしたね。忘れてませんからね?……本当ですよ?

 それはともかく1万は……ばらせていますね。これで宿は何とかなりますね。


「うむ、礼を言う」

「いえいえ、また何時(いつ)でも来て下さいね」

「勿論!」


 いや、来ないかもしれませんけど、そこは儀礼的に言うべきですよね?

 そして、私は今日この日大金貨17枚と金貨、大銀貨それぞれ9枚と銀貨10枚を手に入れたのだった。



 ギルドの建物を出るともう日が傾いていて、空が仄かに赤く染まっていた。


「これは不味いな……」


 これだけ日が傾いていると安い宿屋だともう埋まっているかもしれません。旅の人達は基本丁度夕方か夜頃に宿に泊まりに行く。その為今の夕方から夜に変わるような時間帯に空いている所を探すなどよっぽどの幸運が降ってこない限り無理です。これは困りました。


 と、そこで私は閃いてしまった。


(今日はギルドで100万以上も儲かってるじゃないか!)


 ちょっとぐらい贅沢してもいいんじゃないか?心の中で私の悪魔が囁いています。一方でそんなことしてるから金が直ぐ無くなるんだよ。止めときなさい、と言って来る天使がいます。


 今から行ってもそこそこ空いているのは貴族の泊まるような造りの主に商人などの金持ちが行くために作られた平民用の旅館です。貴族は泊まらないから金持ちにはとてもくつろげると聞いていて、ただの旅人は泊まることが滅多にないらしい。


 行ってみたい、とは思いませんか?

 思いますよねー?

 行きましょうか?

 行っちゃいましょう!


 というわけで来てしまいました。めっちゃ豪華です。凡庸な意見で申し訳ないのですが、めっちゃ豪華としか言いようがないです。

 外見からして宿屋とか旅館じゃないですよ、これ。もう、小さなお城です、これ。

 貴族でもここまでゴテゴテにはしないと思います。いや、貴族はこういう華美なものをよく使いますが繊細さも必要です。

 おそらく、平民から見た貴族はこんな感じなんでしょう。……先入観の所為でもあると思うんですが。


 基本的に貴族の大部分は平民との接点が殆ど(ほとんど)ありませんからね。よく下町なんかに来て威張り散らしたり商人との交渉に来て無茶を言ってくる貴族は没落間近か余程の下位貴族です。

 だから、先入観でしょう。……先入観である事を祈ります。


 中に入ってみると、想像通りゴテゴテな装飾をした(まあ、綺麗ですが)造りになっていました。

 今の私の服は一応こういう金持ちや貴族の集まる場所でも目立たないものにしてある。なので、特に目立つ事もなくロビーの受付に向かうことが出来た。

 ……目立っていない、目立っていないはずだ。



「一人部屋で一泊頼む。後、食事は今日の夜だけで」

「……畏まりました。今、空いている部屋の確認を取ります。少々お待ち下さい」


 受付の人は最初驚いた顔をしていたが直ぐに真面目な顔に戻り私の対応をし始める。


(……何故、私をあんな驚いた顔で見ていたんでしょう?そんなに服が悪かったのでしょうか?それとも滲み出ている雰囲気が貧民だったのでしょうか?)


 この時レナは気づいていなかったがレナが身に付けていた服はこの旅館に来る客にしては高級過ぎていたのだ。そのため、周りからどこのお嬢様だという視線を向けられていたのだ。他にもレナ自身その服装に似合い過ぎていたのも問題の一つだったのだろうが、そんなことは露知らないレナは変な方向に思考が傾いていた。







 確認は直ぐに出来るのか少し待っただけで空いている部屋を教えてくれた。


「スタンダードとプレミアムの二種類の部屋がありますがどちらにしますか?」

「プレミアムで頼む!」


 ここはプレミアムしかないでしょう。

 お金がなくなる?ドンと来やがれ!

 だから貧乏になる?承知の上だ!


「では、宿泊料と食事代で合計5千レイトになります」

「……分かった」


 たっか!値段高すぎじゃないですか!?

 え?今ので今日は稼いだ金額の200分の1なくなりましたよ!?高々宿屋一泊で?正気ですか!?

 笑っちゃいますよ。普通の宿屋の100倍って……ここ、旅館で合ってますよね?

 顔に出さないようにするのにめっちゃ必死になる私。それを笑顔で見つめる受付の女性。

 字面だけ見たら受付の女性は悪魔ですよね?

 はい、悪魔だと私は思います。

 私は顔に出さないように維持しつつポーチから今日手に入れた大銀貨五枚を取り出して払う。


「それでは、部屋へご案内致しますのであちらへどうぞ」


 受付の女性(悪魔)は笑顔を絶やさずに案内人を呼ぶ。私は案内人に部屋まで案内してもらい自分の泊まる部屋へ向かう。


 部屋へ到着すると案内人はそのまま退室していった。私はそれを見送った後、部屋を見ると相変わらずゴテゴテに装飾されていたがベッドの質などは非常に良かった。

 そして何より風呂場があります!旅人にとってはやはりこれがないと始まりせん普通の宿だとないですからね!最高です!


 ひとしきり喜んだ所で夕食が運ばれてきてそのまま食べる流れになった。


(食事も美味しいですね!もう、お風呂と食事だけで値段は目を瞑れますよ!)


 食事のサービスもよく、満足してそれらを平らげ、その後勢いでお風呂に入ってさっぱりとした後、私はベッドの上で明日の予定を考えていた。


「やはり、この街を出て王都に向かいましょうか……」

「いや、でも王都は既に一度通りましたし」

「やはり、違う国に向かうためにまだ見ていない村落や街を通るべきでしょうか?」


 ああでもないこうでもないと普段の気の抜けた時の喋り方に戻って次のルートを整理していく。


「やはり王都に一度戻りましょうか」


 そして、最終的に出た結論はそれでした。次の国に行くには王都を通るのが一番速いのですがもう既に一度王都には行ったことがあるのです。なので出来れば違う街をもっと楽し……コホン、見て廻るべきだと思ったのですが、やはり次の国はとても気になりますし王都を抜ければあとは知らない土地ばかりなので一度王都に戻る事にしました。


「王都に着いた後は次の国へむけて再出発ですね!」



旅館で主人公が子供扱いされなかったのは明らかさま金を持っていそうな格好をしていたからです。


後は驚いていたのと受付の辺りに客が少なかったから……だと思います。

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