9/12
洗礼
「なんでそんなことになってるのよッ!!!」
響き渡る怒声で眼が覚める。
耳障りで甲高く、一番嫌いな声だが、
どこか懐かしい。
泰介は、自室にいた。
「あれ…俺は…。」
頭でも打ったのだろうか。
少しばかり意識が朦朧としている。
野口に渡された砂時計を勢いのままひっくり返したことと、
懐かしい怒声が、自分の置かれた状況を理解させた。
(これは俺の…過去…)
母の怒声、見覚えのある自室からの景色。
そして、この肌寒さ。
この日も確か、冷え込んだったな。
泰介ははっきりと、覚えていた。
(あんたを産んで後悔しなかった日はなかったわ。うんざりよ。)
脳に刻み込まれた言葉だった。
常に嫌悪感を抱きながらも、心のどこかで母を頼り、信頼していた泰介を、嘲笑うかのごとく一言で切り捨てた。
そんな母に、泰介は心から恨みを覚えた。
(あんなやつ、親じゃねぇよ)
忘れるわけがなかった。あの時の気持ちを。
(くそ、いきなりこんな場面なのかよ。少しくらい心の準備とか、懐かしさとか感じさせやがれってんだよ。)
重い腰を上げ、泰介は階段を降りた。