過去への帰還
「・・・、はぁ。呆れ果てたクソガキだ。28にもなって子供みたいなことで。
こんなところから使うハメになるなんて思ってなかったなー。仕方ない。」
野口は、ふぅっと大きなため息をつき、
ポケットの中を漁る。
お菓子のゴミ、使えなくなったボールペン、消しゴム、輪ゴム…
こいつポケットに何入れてんだ。
「あれ〜おっかしいな・・・。お、あったあった。」
"服についたゴミ箱"と言うにふさわしいポケットから、薄汚れた砂時計を見つけた野口は、それを泰介に差し出した。
「とりあえず、それ。思い入れのある場所で一回転させれば、
生きてるとき、すなわち過去に戻れるようになってるんですよ。
普通の自殺者なら、まず最初の先祖への挨拶くらいまではなんの抵抗もなくやるんだけど、あんた思い込み激しいから使わせるよ、それ。
俺たち自殺審判官はそーやって過去死ぬきっかけや原因となった事柄を被告人に客観的にみてもらって、
それでいて本当に被告人がそのままあの世に行くのか、こっちに戻りたいと言い出すのかを判断させるのが仕事なんですよ。」
過去に、戻る・・・?
考えたこともない、客観的に自分の置かれた立場みかえる機会なんて。
「・・・なるほど、話してることはわかった。
すなわち俺は今から、自分の歴史を客観的に見れるってわけだな。」
「そゆこと。俺は全部知ってるから一緒には行かない、ここで戻りを待つのみになるんですよ。なんで、気が向いたらその砂時計、ひっくり返して行ってきてください。」
そういうと野口は、その場で横になり、これまたポケットから本を取り出し読みはじめた。
もう一度、確かめる、か。
捨てたい過去、見たくないもの、あるかもしれないが、
俺はどちらにせよ、死ぬ。
ならば、見れるもの全て、見てきてやろうじゃねぇか。
「・・・わかった、じゃ今すぐ俺は過去を見てくる。」
「おすきにどーぞ。」
本片目に、シッシッと手を振る野口。
本当にコイツ、ムカつく野郎だ。
「・・・。あんた、言葉遣い、最近なおしただろ。
ところどころ出てて変な言葉遣いになってるぜ。気をつけろよ。」
ボロカスに言われた泰介せめてもの抵抗は、一言に沈められた。
「貴方が過去1番、嫌いなタイプだから少し本性が出たかもしれませんね。」
「てめッ!!」
ヒュッ。
勢い余って砂時計をひっくり返した泰介は、言い返すこともできないまま、過去の世界への旅路をたどることになった。
ー・・・畜生。俺も1番嫌いだよ。あんたみたいなやつがな。
飲み込んだ台詞は、帰ってから吐くことを決め、泰介の時空超えがはじまった。