幸せってなんだったのだろう。
「噂通りの優秀な方とお見受けしましたよ。」
「??…。だれ。」
そびえ立つ赤の門から聞こえた声は、ザッザッという足音共に私に近づいてくる。
「初めまして。私、地獄界自殺科審問官採用係の小峰竜也と申します。
生前より、貴女様には是非ウチに来て頂きたいと思っておりましたので伺わせていただきました。よろしくお願い申し上げます。」
暗い闇の中でその色の服は見つけにくいでしょ…。
やっとの事で焦点が合う。
スーツ、シャツ、ネクタイに靴。黒で統一されたコーディネート、短く整えられた髪をキッチリと立ち上げている。あのテカリ方は、ジェル派か。
「驚かせましたかね?すみません…。
実は生前より貴女様には注目しておりました。
生に対する無欲さ、死への捉え方…私どもの求めていたものをお持ちでございました。どうです?ウチへ来る気はありませんか?」
ウチへ来るも何も。私死んでるのですが。
頭がおかしいのだろうか。いや、おかしいのは私か。
そもそも死んでるのに「頭が」なんて、考えた自分がおかしい。
私は先に何もない。そして、帰る場所もまた、ない。
なら、流れに任せて、後はゆらゆら、漂うだけ。
「…。是非、行かせてください。その、ウチとやらへ。」
「よかった。ではご案内致します。参りましょう。」
この世への最期の挨拶とともに、小峰と私は真っ赤な門に吸い込まれていった。