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死を決意したはずなのに
仕事を失い、家庭を失った。
結婚して、3年。娘もいた。今年で2歳になる。
あの娘はきっと、父親の存在など忘れ人生を歩むのだろう。
来月は娘の誕生日だった。
早く帰り、妻の作ったご馳走を食べ、娘に誕生日プレゼントを渡す。
なんてことのない誕生日の予定だったが、そんな平穏な日を迎えるどころか2人は自分の目の前から姿を消してしまった。
自分の手元に残っているのは、少し褪せた解雇通知書だけ。
冷たい何かが、自分の頬をツーっと、滴る。
それが自分の涙だと気づいた。
「なんで…俺が…なんで俺がッ!!!!!」
ー・・・俺はあの時死のうとした。なのに。
眼前に広がる、いつもとなんら変わりのない自宅の風景。
なぜ。なぜ俺は今ここにこうして座っているのか。
練炭を焚いたはずなのだ。一度に多くを失ったあの日、俺は安らかに眠るために自室で死を図ったはずだったのだ。
「俺…なんで…」
息苦しかった感覚。
死ぬんだと思った時の感情
最期に見たはずの妻と娘との記憶
たしかに覚えているのだが…
「お気づきになられましたか?」
聞き覚えのない、乾燥した声。
「だ、誰だッ!?」