欺かれた人狼
「どうした? 対抗したい奴は出てこいよ。それとも、今からでも合図と同時にカミングアウトしたいか?」
「ええ!? さっきと言ってることが違うじゃないですか! 一斉カミングアウトに反対だったんですよね?」
メヌエの反論に同意する代わりに、プレイヤーたちはナハトへと不審の目を向ける。
だが、ナハトは気にする様子もなく再び口を開く。
「カミングアウトのリスクは既に上がっている。その時点で俺の目的は達成した。予め打ち合わせされていない今、一斉に挙手すれば複数の人狼を誘き寄せられるかもしれない。かと言って誰も名乗り出なければ、俺が本物の占い師だという証明になってしまう。さあ、どうする?」
その問いかけに答える者はなく、沈黙が流れた。
「もちろん、俺が偽物という可能性だってある。狂人の視点では、仲間である人狼かもしれない。人狼の場合もそれが成り立つ。お前らの今からの行動によっては、自分の首を絞めることもあり得るわけだ。まあ、ここまで人狼を追い詰めていることからも、俺を人間サイドとして信用すべきだとは思うが……。くれぐれも軽率な言動に気をつけることだな」
ナハトは不敵な笑いを漏らしつつ締めくくった。
プレイヤー間に流れる気まずい空気。
最初こそ威勢がよかったマオたちは、今は静かに思考を巡らしている。
「ええと……それじゃあ、改めて一斉にカミングアウトするということで問題ないでしょうか?」
メヌエの呼びかけに、皆が頷いた。
「それじゃあ行きますよ。せーの!」
手を上げたのは、合図を出したメヌエ本人のみ。
「他には本当にいないんだな? もし、本物の占い師が残っているのなら、ここで出れば俺たち二人の偽物をまとめて潰すことができるが……」
念を押すナハト。
だが、誰も挙手する様子はない。
「何を言ってるんですか? これ以上、もう誰も出てくるはずありませんよ。勝手に巻き込んで偽物と言ってましたけど、僕は本物ですから」
それを聞き、ナハトは不敵な笑みを浮かべた。
「そうか。お前が占い師か。だからあんなに反論してきたんだな」
「その通りです。僕が本物の占い師ですから、ナハトさんは敵陣営だとわかります」
「うん? 言っている意味がわからないな。お前が本物の占い師の場合、果たして俺は敵陣営だと言い切れるのか?」
「え……」
絶句するメヌエ。
他のプレイヤーたちもナハトの言っている意味がわからず、お互いに顔を見合わせる。
「で、でも……」
数秒後、ようやくメヌエは我に返り口を開いた。
「あなたが偽物であることは僕視点では確定です。いいえ、先程の念を押した際の発言からも、あなたが本物じゃないことは他のプレイヤーからも明らかですよ。それは言い換えれば、あなたが人狼サイドだということになりませんか?」
「そうだな……。おそらくは、人狼や狂人たちもそのように考えたのだろう。その浅はかさによって、身を滅ぼそうとは夢にも思わずに……」
「意味がわかりません。はっきり言ってください!」
とうとうメヌエまでもが声を大にする。
だが、ナハトはそれでも態度を崩さない。
「ならば教えてやろう。俺はただの村人だ」
「……は? はああ!?」
声を上げない者はいなかった。
皆が皆、驚愕と困惑に陥っている。
「一連の作戦で人狼を誘き寄せようとしたのは本当だ。ただし、俺の張った罠はもう一つある。このまま誰も人狼サイドから偽物が出てこなければ、本物の占い師が信用を得やすい」
「けど、もしもそいつが本物じゃなかったらどうするんだ?」
マオが即座に問いかけた。
その声からは焦りが滲み出ている。
「だとすれば、さっきのタイミングで出てくるべきだ。偽物を二人も野放しにするなんて極めて非合理的だからな」
「慣れてなかっただけじゃねえのか?」
「……お前、急に他のプレイヤーを心配しだしたな」
「わ、悪いかよ! フーガやワイゼンが占い師かもしれねえだろ? それより、質問に答えろよ」
「まあ、もし出遅れたなら今からでも出てくればいい。偽物がより多く釣れるように、また一斉に挙手方式にしようか」
マオはみるみる青ざめてゆく。
直後、ナハトの合図に挙手する者はいなかった。
「……と、いうわけだ。さて、時間もないことだし、そろそろ次の議論に移ろう。誰を吊り、誰を占うか」
吊るとは、投票によって誰か一人を脱落させること。昼のターンに毎回必ず行われる。
「ナハトさん。正直、まだ僕はあなたを信じきれていません。占い師の僕としては、あなたの正体が気になります」
「そうか。ならば占え」
「い、いいんですか!?」
「俺は発言も多く、場や他の人を動かしている。こういうプレイヤーは、敵なのか味方なのかはっきりさせておいた方がいい。前者ならともかく、もし後者なら吊るのは人間サイドにとって大きな不利益となるからな」
「では、吊るのは誰がいいでしょうか?」
「口数が少ない奴を選ぶのが定石だ。仮に村人だったとしても、議論に参加しない不透明な因子を排除したと考えれば被害が最小限で済む」
「一言も話してないのは、僕とナハトさんとミズカミさん、そしてマオさん以外の全員ですね……」
メヌエは全員の顔を見回しながら確認した。
「だ、だって、難しくてついてくのがやっとなんだから仕方ないじゃない!」
カノンが泣きそうになりながらも反論する。
先程のおにごっこで傷ついた心はまだ癒えていない。
「そ、そうですよね。僕だって占い師じゃなかったらこんなに話せていたかどうか……」
メヌエは気遣うように優しく宥めた。
しかし……。
「ゲームに同情は必要ない」
「ナハトさん!? ちょっと、何言ってるんですか!」
「真実を言ったまでだ。まあ、安心しろ。今回吊られるべきだと思っているのはお前じゃない。ワイゼンかフーガのどちらかだ。さっき、マオが繋がりを匂わす発言をしていたからな」
苦い顔を浮かべるマオ。だが、もうどうしようもない。
その後、投票で吊られたのはワイゼン。
二日目以降のターンも村人側が順調に進んでゆき、ついに決着を迎えた。
人狼のマオとワイゼン、狂人のカノンは敗北。
残りの全員が勝者となり、一戦目は終了した。