カミングアウト方法
しばらくして、他の参加者たちもルールを理解し終えた頃……。
「それでは、皆様をルームへとご招待いたします。移動の間、役職を配布しますのでご確認ください。なお、初日は夜のターンがありませんので、役職の効果は次の夜から使用可能となります」
アナウンスが響き、プレイヤーたちは一瞬にしてその場から消えた。
直後、転移した先は何もない空間。
皆、一人ずつ別々に待機させられている。
と、その時。不意に携帯が鳴り出した。
プレイヤーたちはそれぞれ手に取り、画面を見る。
そうして全員が役職を確認し終えると、再び別な空間へと移された。
着いた先は暗い部屋。深く青い光により不気味に照らし出されている。
弧を描くように椅子が並べられており、他は何もない。
グループメンバーも同じ空間に集められており、皆それぞれに辺りを見回している。
何人かは目が合い、それに気づき反らす。
誰も一言も話さない。
「皆様の中に2名の人狼が紛れ込みました。まずは10分の間、誰が疑わしいか議論をしてください。ゲームスタート!」
沈黙を破る開戦の鐘。
一人が椅子へと座ると、追うようにして全員が着席した。
ほとんどの者がマオたち3人へと視線を向けている。
「何だよ? 俺たちが怪しいとでも言いたいのか?」
ヘラヘラと笑いながら挑発するマオ。
場の空気が悪くなり、気の弱いメヌエやジムは俯いてしまう。
その様子を見てマオたちは余計に笑いだし……。
「いい加減にしろよ。どうせ今回もお前らがかき乱すつもりだろ? 人狼に決まってる」
ミズカミが耐え切れず言い放った。
口調は静かだが、怒りを露わとしている。
「どうしてそんなことわかるんだよ? 占い師でもない限り、誰が人狼かなんてわからない。加えて今回のルールでは初日の占いはなしだ。それでも攻撃目標を決めつけられるのは、お前が人狼だからじゃないのか?」
「お前らを信用できないのは当たり前だろ? それに、随分と過剰に反応してるし間違いないな」
「そう言うお前だって耳が赤いじゃねえか。人狼だと俺に疑われたからだろう?」
「何だと!」
とうとう大声を張り上げたミズカミ。
周囲の視線は非情にも彼へと移る。
「ほら、お前ら騙されてるぞ? 本物の人狼はこいつだぜ?」
疑心暗鬼に包まれるプレイヤーたち。
全員が混乱に落ちようとしたその時、ナハトが苦笑を漏らした。
「……何だよ?」
見下すようなその態度に、機嫌を損ねたマオが食い気味に問いかける。
「いや、すまないな。どいつもこいつもわかってない連中ばかりなもんで……」
「ああ!? じゃあお前は誰が人狼だかわかるのかよ?」
「わかるわけないだろう? お前がさっき言った通り、この時点で誰が人狼かなんてわかるのは本人たちだけだ。役職は自分で決めることができないんだから、どれだけ信頼できる奴でも人狼を配布されたら人狼。役職と個人の人間性など無関係だ」
「じゃあどうするんだよ?」
「あ、あの……」
ナハトが答えようとする前に、メヌエが声を上げた。
「僕、ちょっとだけ人狼をやったことがあるんです。その時のメンバーでは、最初はまず占い師に出てきてもらうのがセオリーとされてました。人狼が対抗してきた場合は矛盾を少しずつ暴くきっかけとなりますし、騎士がいるので夜のターンに襲われる心配もありません」
その言葉にナハトはふっ……と笑った。
「えっと、何か変でしたか?」
「いや? ようやくまともな意見が上がったと思ってな。お前の言う通り、まずは占い師が名乗り出ないことには話が進まない」
「では、合図と同時に挙手をする、という方法でいいでしょうか?」
「いいや、それには賛成できない」
「え……」
メヌエは困惑のあまり絶句した。
だが、ナハトは気にする様子もなく続ける。
「そもそもの戦術が矛盾している。一斉に名乗らせる手法は、人狼サイドに選択肢を与えないためのものだ。つまり、後から好きなタイミングで占い師を名乗ることを抑制する意味がある。だが……」
ナハトは一呼吸置き、再び口を開いた。
「それならばあえてカミングアウトのタイミングは各自に任せた方がいい」
「なぜですか?」
「本来であれば、偽占い師として出てくるべきは狂人だ。吊り……つまり投票で脱落した場合でも人狼の人数が減らないから、奴らにとって好都合だからな。おまけに霊媒師に確認されても人狼ではないと判定されるため、どちらが本物の占い師だったのか悟られにくい」
「あの……ナハトさんは人間側として発言してるんですよね?」
「当たり前だ。だが、この人狼というゲームは自分の視点だけで考えるものじゃない。同じ人間サイドでも、他の人から見たらどうなのか。それともう一つ、敵陣営は今何を考えているのか。計三つの視点が必要だ」
「なるほど……。それで人狼側の最善手からこちらの手を考えるんですね」
ナハトはゆっくりと頷いた。
「人狼サイドは何人も占い師を名乗ればいいというわけではない。極端な話、全員出てきたら本物の占い師諸共吊ってしまえばいい。だからこそ、狂人だけが偽物として出てくることが予想される。一斉に挙手した場合はな」
「タイミングを合わせなかった場合は違うんですか?」
「考えてみろ。人狼と狂人は互いに正体を知らない。そんな中で誰かが占い師を名乗った場合、それが本物か偽物か区別できないだろう。対して本物の占い師からすれば、狂人か人狼かまではわからなくても、偽物であることは確実に見抜ける。つまり、情報アドバンテージで優位に立てると言うことだ」
「ええと……?」
プレイヤーたちはナハトの説明に追いついておらず、依然として混乱している。
「それで、どうなるんですか?」
「名乗り出た占い師が本物かどうかわからなければ、人狼は不安で仕方ないだろう。このまま黙っていれば本物の占い師が信用を勝ち取ってしまうかもしれないし、かと言って自分も名乗り出ればいいというわけでもない。既に出ていたのが狂人だった場合に足の引っ張り合いになるからな」
「なるほど。ようやく少しずつわかってきました」
「そうか、ならばこのタイミングで宣言させてもらおう。俺が占い師だ」
全員が驚愕の表情を浮かべた。
「ちょ、ちょっと! まだ誰もナハトさんの作戦に同意してませんよ!?」
「知らないな。俺は自分の好きなタイミングで出たまでだ」
「そんな……」
意見がまとまる前に、ゲームは大きく動きだした。