オープニングゲーム
皆の注目がナハトへ集まる。
最初はその全員が驚きの表情を浮かべていたが、少しずつそれぞれ別な反応へと移行していった。ある者は敵意を込めて睨み、またある者は一筋の希望を見出した如く目を輝かせる。
そして……。
「面白いです。そう言い出すプレイヤーが一人はほしいと思っていました」
「何だと? 俺をバカにしているのか?」
「そうではありません。ただ純粋に、革命者というものは魅力があります。あなたのご活躍を楽しみにさせていただきましょう」
その言葉にナハトはそれ以上の追及はあきらめざるを得なかった。
「さて、それではこの世界に関しての大まかな説明を終えます。最後に、皆様にこの世界における携帯端末を差し上げます。現実世界で使用していたお金やデータに関することなど、より詳しいことは各々でご質問ください」
そう言うと全員の目の前に機器が現れた。
「そして、ここからはオープニングゲームの説明へと移らせていただきます」
「オープニングゲーム!?」
「早速始まるのか!」
プレイヤーたちは再びざわめいた。
「よっしゃ! 出だしから単位を勝ち取ったろやないか!」
「そうはいかねえぜ! 誰よりも最初に卒業生になるのはこの俺だ!」
「何やて? 決めたわ、お前にだけはこの先どんなゲームでも絶対負けへんからな!」
ざわめきはどんどんヒートアップしてゆく。
しばらくはその様子を見守っていたGMだったが……。
「……皆様、お楽しみいただけて大変うれしいのですが、そろそろ説明を再開してもよろしいでしょうか」
興奮の渦は熱をそのままに音だけ静かになった。そして、一斉にGMへと注意を向ける。
「それではまず、ゲーム内容についての説明を行います。記念すべき最初のゲームは……」
皆が固唾を飲んで次の言葉を待つ。
「この校舎全体を使ったおにごっこです」
「はあ? おにごっこ~?」
プレイヤーの多くが落胆を示した。
「ただのおにごっこではありません。この広い校舎に、おには私の部下が一人のみ。隠れていればそうそう見つかることはないでしょう。逃げ切ったプレイヤー全員に4単位を差し上げます」
「そんな簡単に!?」
「負けたらどうなるんだ? 罰則とかがあるんじゃねえのか!?」
「皆様が故意に反則となる行為を行わない限り、ペナルティは一切ございません。このゲームだけではなく、今後全てのゲームにおいてです」
プレイヤーたちは安堵と歓喜の入り混じった表情を浮かべる。
「おい、聞いたかよ? 負けても一切罰則はないってさ!」
「これなら安心だな。あ、でも負けるつもりはさらさらねえからな! この世界の頂点に立つのは俺だって決めたんだから、この先全てのゲームにおいてお前らに勝ちは譲らねえ!」
「何だと!」
再びプレイヤーたちは熱気に包まれ、とうとうGMまでもが溜息を吐いてあきらめた。
言い合いは10分も続き、そして……。
「おい、お前らいい加減にしろよ! ルール説明がまだ終わってないだろうが!」
一人の声によって、皆ハッとして黙った。
「皆様、大変熱気があって結構なことです。が、続きはゲーム内で行っていただくとしましょう」
プレイヤーたちは顔を赤くして俯いた。
「ゲームには11名ずつ参加していただきます。人数の調整は、現実世界から新規プレイヤーを呼び込むなどによってこちらで行います。どうぞご心配なく。そして、ゲーム中はお渡しした携帯をご使用いただいても構いません。ゲーム開始前に仲間とアドレスを交換しておくとよいでしょう」
全員が携帯へと視線を移した。
「ゲーム時間は30分間です。以上で説明は終わりですが、何か質問はございますか?」
プレイヤーたちはお互いに顔を見合わせる。
と、その時。
「じゃあ聞かせてもらうぜ。11人ずつ参加で30分とか言ったけどよ、それって待ち時間どんだけかけるつもりだお前」
男子高校生が問いかけた。先程ゲームハイスクールの仕様を説明した際に歓喜の雄叫びを上げた者だ。
「その心配はございません。皆様に、一斉にご参加いただきます」
「……はあ!? それじゃあ何のために11人ずつに分けるんだよ! 全員一緒に逃げるなら関係ねえだろ!?」
「いいえ、全員一緒に同じゲームへご参加いただくわけではありません。ステージはそれぞれ別にご用意いたします」
「言ってることがめちゃくちゃだぜ。校舎全体を使ってのおにごっこだって言ったのはお前だ。それなら全員同時に参加なんてどうやったって無理だ」
「それが可能なのです、このゲームハイスクールでは。なぜなら、この世界は空間も時間も無限に存在しているのですから」
その言葉に、まるで時が止まったかのように皆が動きを止めた。
そして、しばらくの後……。
「空間も時間も……無限に!?」
「そうです。なので、全く同じ空間を生成することにより、皆様同時にご参加いただけるのです」
「むちゃくちゃだ……! でも、なんかそれ楽しそう!」
「この世界に待ち時間などないのです。遊園地などもご用意しておりますので、どうぞストレスなくお楽しみください」
プレイヤーたちは再び喜びの混乱に包まれた。
「ですが……」
GMの声が響き、皆が我を取り戻す。
「今はオープニングゲームにご集中ください。さて、それでは参加希望の方は挙手、または携帯機器による参加表明を行ってください」
皆、それぞれ反応を示した。ある者は天高く手を突き上げ、またある者は小さく挙手をする。だが、大半の者は携帯機器の操作を開始した。
「……プレイヤー全員が参加希望なさいました。それでは、各々でグループを作ってください。人数が足りない際、グループを作成できない場合はこちらで組み分けをお手伝いさせていただきます」
プレイヤーたちは一斉に辺りを見回し、顔を見合わせ始める。
そんな中、ナハトはアイネのもとへと向かった。