戦術のいろは
何度かナハトに剣で弾かれるも、再び立ち上がり果敢に飛びかかるワイルドウルフ。
体はボロボロで、出血により体力も消耗している。
だが、その動きに躊躇は微塵も存在しない。
プレイヤーの指示に従うのがゲームキャラクターの役目であり、そこに感情はないからだ。
それでも、アイネは申し訳ない思いでいっぱいだった。
目には涙を浮かべ、操作する手は震えている。
「私が未熟なばっかりに……!」
そう呟きながらも、操作する手を止めることはない。
目を反らすことなく、ワイルドウルフとナハトの攻防へと遠距離スキルで加勢する。
そして見つけ出した一瞬の隙。
ナハトはワイルドウルフへと応じているため、アイネの攻撃スキルまで剣で受け止めることはできない。
そのため、ナハトは仕方なくシールドを半秒間だけ発動した。
「シールドを使ったということは……今がチャンスです!」
消費したマジックが回復するまで5秒かかる。
つまり、シールドが再使用可能となるまで5秒。
守りが手薄となったこの瞬間を逃さず、アイネはさらに攻撃スキルを放った。
だが……。
「ほう……。意外だな」
ナハトは余裕の表情を浮かべ、突風でアイネの衝撃波を相殺した。
それと同時に飛びかかってきたワイルドウルフへもトドメを刺す。
そして、先程の言葉を続ける。
「味方を哀れむあまり戦意喪失するかと思ったが………」
「かわいそうだからこそ、一生懸命戦ってくれたことを無駄にはできません! 味方のことを思うからこそ、ここでやめるわけにはいかないんです! それがせめてもの優しさだと思っていますから……」
アイネは再び遠距離スキルを放つ。
対するナハトも的確に応じるが、先程までとは決定的に違う点が一つ。
ナハトは先程の攻防で突風を使ってしまったため、タイムコストを消費済みだ。
そのアドバンテージは戦況に直結するが、ナハトだって当然それを理解している。
本来であれば、もっと早くワイルドウルフへとトドメを刺すか、あるいは上級者のプレイングスキルで強引に凌ぐこともできた。
が、そうしなかったのはアイネを次のステップへと導くため。
つまりは手加減。
彼らしくもないことだが、今日はその表情は晴れやか。
「遠慮はいらない。本気で倒しに来い!」
「はい! そろそろ次のカードを使います!」
アイネはピクシーを召喚し、ナハトへと突撃させた。
翅の生えた数センチのその妖精は、素早くナハトとの距離を縮める。
だが……。
「甘い!」
斬撃を浴びせられ、一撃で倒れてしまった。
「そ、そんな!」
ピクシーはタイムコスト3のモンスター。召喚するのに30秒間のチャージが必要な中級のカードだ。
にもかかわらず、ワイルドウルフよりもあっさりと倒されてしまった。
「どうして……?」
アイネは真っ青な顔で狼狽する。
「モンスターには長所、短縮がある。ピクシーはライフもガードも低く打たれ弱いが、オウラが高くなおかつ豊富な魔法を使用できる。その特性を最大限に生かす配置は、敵から離れた位置だ」
「配置……ですか?」
「このゲームでは、どこにどの味方を配置するかが重要となる。自分より前か後ろか。別な味方のそばか。それを考えるのもプレイヤーの役割だ」
「私がしっかりしないと、モンスターさんたちも上手く戦えなくて困るんですね……」
「さあ、次だ」
ナハトの厳しい指導は長く続いた。
モンスターの配置のコツ、それからタイミング。
接近戦への持ち込み方、時間稼ぎの方法など……。
どれも、適さない戦術には咎める形で容赦なく失敗例を突きつける。
そして、一通り教え終わり、ようやく練習戦が幕を閉じた。




