ダブルフェイク
未だ状況を理解できていないワイゼン。マオに至っては何事かが起きたことにすらまだ気づいていない。
その様子があまりにもおかしく、笑いを噛み殺すナハト。
「お前……一体何をした? マオが吊られたのに人狼の勝利だと?」
その問いかけに、ただただナハトは頭を抱えて苦笑を漏らした。
マオもようやく異変に気づく。
「おい、何言ってるんだよワイゼン……? 人狼のお前が勝ちだろう?」
「俺は人狼じゃねえ。なのに……何で?」
「まだわからないのか? お前らは二人とも負けたんだよ。人狼の俺を吊ることができなかったからなあ……」
「なっ……!?」
何かを言おうにも、掠れて声にならないマオたち。
ただ口をパクパクとさせている二人に対し、ナハトは溜息を吐いた。
「人狼が役職を騙ることの何がおかしい?」
「で、でも……一旦占い師を名乗っておきながら……」
「人狼が同じ陣営の役職を騙るなんて……」
「だからお前たちは浅はかなんだよ。戦況に応じて役職を騙り直すのは当たり前だ。それに、人狼と狂人では立場が違う。俺を吊ろうとしなかったお前らならわかるだろう?」
「パワープレイに誘導したのも、人狼としての弁明をさせたのも、全部自分の隠れ蓑だったのか……!」
マオは悔しそうにナハトを睨んだ。
と、そこへ脱落者たちが戻ってくる。
「上手くやられちゃいましたね……。前回はおかげで勝てましたけど、やはり敵になると手強いです」
「完敗だ。あんたの勝ちを認めよう」
メヌエとミズカミはナハトへと歩み寄り、握手を交わした。
狂人だったジムは遠くから見つめているだけだが、少しだけ笑顔を浮かべている。
そして、同じく人狼だったアイネはナハトへと駆け寄った。
「ありがとうございます、ナハトさん! 私、どうすればいいかわからなくて困ってました……」
「まあ、それでいい。上手く村人に溶け込めていたからな」
マオたちはその様子を睨み、他のプレイヤーたちはただ俯いている。
と、その時……。
「人狼ゲーム、お疲れ様でした。勝者の皆様はおめでとうございます! 敗者の方も気を落とさずに次がんばりましょう。この後は会食となっておりますので、ごゆっくりどうぞ」
アナウンスと同時にプレイヤーたちは空間移転していた。
着いた先はカフェテリア。広々としており、テラス席もたくさん用意してある。
「カフェテリアや教室も満員になることはあり得ません。空間は複数存在しておりますし、拡張はいつでも可能です」
GMの案内と共に、カフェテリア内の空間がさらに広がった。
他のプレイヤーが目を輝かす中、ナハトは呆れて溜息を吐く。
「ああ、わかったわかった。食欲が失せるからそれくらいにしとけ」
「失礼しました。それでは存分にお楽しみください」
途切れるアナウンス。
戸惑うプレイヤーたちを置き去りにし、ナハトは一番近い席へと座った。
「何でも出るんだろう? なら試しに……」
直後、ナハトの目の前にはズラリとごちそうが並んだ。
それを見たプレイヤーたちは一斉にテーブルへと駆け込む。
「おい、本当に何でも食べていいのか!?」
「マジかよ!? 高級和牛は!? フレンチは!? 寿司は!?」
「負けた腹いせだ! やけ食いしてやる覚悟しろ!」
半狂乱。
もう収拾などつきようがない。
だが、そんな中まだ沈んだままの人物が一人。心の傷を負わされたカノンだ。
「あの……大丈夫?」
優しく話しかけるアイネ。
だが、その言葉の途中でカノンは走り去ってしまう。
慌てて追いかけるアイネ。
しかし……。
「来ないでよ!」
廊下に響く声。
涙がその頬を伝う。
「あなたは勝ててよかったわね! どうせ私のことなんて心の中で笑ってるんでしょう!?」
「そんな……」
「いいえ、わかるわ! あのナハトって男だってそう! 自分を裏切った報いを受けた私を、いい気味だと思ってるんだわ!」
「やめてください!」
叫び返すアイネ。
驚いて静まるカノン。
「私のことは、どう思ってくれても構いません。ですが、ナハトさんは私たちのために戦ってくれてるんですよ? せっかく全員で勝とうとしたナハトさんを困らせたのは誰ですか? ナハトさんはどんな思いだったか考えてみましたか!?」
「うるさい!」
再び叫び返すカノン。
「私が悪いんでしょう……? もういいわよ!」
「待って!」
引き留めようとするも、カノンはどこかへと消えてしまった。
仕方なくその場を後にし、カフェテリアへと戻るアイネ。
どうすることもできなかった己の無力さに絶望し、ナハトのそばへと向かった。
「……どうした? 食べないのか?」
暗い顔で俯くアイネへと声をかけるナハト。
「ナハトさん。私には何もできませんでした。ナハトさんのことを誰も何もわかっていないのが、とても悲しいんです、私。それで、カノンさんにもそれを伝えたかっただけなのに、つい強く言い過ぎてしまって……」
「俺のことをわかっていない、か……。それはお前も同じだろう?」
「え……?」
「お前とも今日会ったばかりだし、どう思われようと俺は気にしない」
「そんな……! そんなの、周り全員が敵になってしまいます!」
「上等だ。かかって来いよ」
「……嫌です。悲しすぎます! 私、あきらめませんから!」
「……好きにしろ」
ナハトはそっぽを向いて溜息を吐いた。
次回からはいよいよウィズダム&ブレイブ編です。
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