パワープレイ
メヌエに続き、ジムまでも霊媒師として名乗り出た。
これにより、占い師を合わせてカミングアウトは四人。
「チャンスです! 僕やナハトさんを含めて全員吊れば、人狼サイドを二人も巻き込めます!」
メヌエが主張しているのはローラーという戦術。特定の役職を複数人が名乗った際、その全員を吊るというものだ。
今回の場合は、占い師と霊媒師のダブルローラー。二人の役職を失ってしまうが、確実に二人の敵陣営を巻き込める。
だが……。
「俺は反対だなあ」
ナハトは即座にそれを否定した。
「な、何故ですか!?」
驚きのあまり言葉がつっかえるメヌエ。
無理もない。四人もカミングアウトした場合、ローラーが定石化されているのだから。
「人狼を一人に追い詰めれば、勝利は目前なんですよ!?」
「その後、どうする?」
「え……」
ナハトの問いに、メヌエは固まった。
「四人をローラーするということは、騎士の護衛が失敗した場合八人が脱落するということだ。その時点で残っているのは三人。つまり、最終局面だ」
「で、でも……誰が人狼かわからない初期状態からすれば、自分を除いて二択にまで絞り込めますよね?」
「俺はそれで満足しない。対抗の偽占い師はおそらく狂人だろうから、誰が人狼かわかっていない。つまり、矛盾する可能性もあるわけだ」
「随分と自信があるようだな」
間髪入れずにミズカミが挑発に応じる。
「けれど、あんたがどれ程優れたプレイヤーでも、確実に人狼を見抜くことはできないはずだ。矛盾するのは狂人のあんたの方だ」
ナハトはさらに言い返すことはなく、ただ不敵に笑ってみせた。
「ええと……。ローラーは却下ということでよろしいでしょうか? それなら、占いの対象はどうしましょう? 先に指定して二人の占い先を合わせるという方法もありますが……」
「その手法のメリットは、占い師の識別がしやすいという点。デメリットは人狼が襲撃を被せやすいという点だな」
人狼がターゲットにできるのは人間だけ。あえて仲間を襲撃するというのはルール上不可能だ。
つまり、襲撃されたプレイヤーは人間だと確定する。
その情報を頼りにゲームを進めてゆくのだが、人狼が占い先を襲った場合に占いが無駄になってしまう。
「俺はなるべく情報を増やしたいから、占い先を合わせるのには反対だな」
「……妥協してくれそうにないですから、仕方ありませんね。では、吊り先を決めて次のターンに回しましょう」
その後、一日目のターンが終わりフーガが吊られた。夜のターンに襲撃されたのはカノン。
二日目からは占いと霊媒の情報が加わるも、これと言った進展はなく脱落者が増えてゆくのみ。
そうしている間に霊媒師を名乗っていたメヌエも襲撃を受け、仕方なく対抗者のジムもローラーの意味で吊る。
村人側が後手に回り続け、ついに最終日となった。
残っているのはナハト、マオ、ワイゼンの三人。
「最後か……。おい、とっとと占い結果を教えろ。それでゲーム終了だ」
それを聞き、ナハトは頭を抱えて笑いを噛み殺した。
「何がおかしい!?」
「本当はわかっているだろう? 俺が偽物だって」
「……やっぱりか、貴様! 片方だけが襲撃されたのは、本物の占い師がどっちなのか人狼が見破ったからだ!」
「喜ぶのはまだ早い。どうして俺が偽物だと名乗り出たのか、まだわからないのか?」
「は? それは……負けを認めたからか?」
ナハトは溜息と共に立ち上がり、椅子を持って中央へと出た。
そして、マオたちへと向かい合わせに腰かけ、足組をする。
「俺は狂人だ。今からパワープレイという手法で人狼を勝利に導いてやるよ」
パワープレイ。人狼と狂人が票を合わせ、村人を吊る戦術のこと。
狂人を含めた人狼陣営が村人陣営より人数が多い場合に成立する。
「たった今から、このゲームは人狼に紛れた村人を吊るゲームに変わった。お前らには人狼としてアピールしてもらう」
「人狼として……?」
「自分の怪しい行動を主張するもよし、俺を偽物だと見抜いた基準を説明するもよし」
「それじゃあ、こんなのはどうだ?」
今までほとんどしゃべってなかったワイゼンが口を開いた。
「確かマオは、お前が偽物だとわかった瞬間吊ろうとしていた。それって、自分が村人だからじゃないのか?」
「な!? 咄嗟に頭が回らなかっただけだろうが!」
「いいや、こいつは村人だね。俺は自分が人狼だと主張する材料はないけれど、マオが村人だと主張できるから消去法で俺が人狼だ」
悔しそうに歯を食いしばるマオ。
勝ち誇ったように笑うワイゼン。
そして、投票の時間となりマオが吊られた。
「ただいまを持ちまして、勝利チームが確定しました。人狼陣営の勝利です」
流れるアナウンス。
マオは悔しさのあまり呻き声を出している。
ワイゼンはキョトンとしたまま絶句。
ただ一人、ナハトだけが口元を歪めていた。
読者様への挑戦状です。
最後に残った三人の役職は何でしょうか?




