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ゲームハイスクール ~遊びの牢獄~  作者: 愛守
Chapter1‐1 入学式
1/17

さよなら現実

 ナハトは終わる戦いを眺めていた。


 パソコン画面の向こう側に広がる仮想空間。

 黒いローブを着たアバターが杖を天へとかざし、先端の赤い宝石が妖しく輝いた。

 同時に、兵士の姿をした敵は睡魔に負け膝から崩れ落ちてゆく。


 上空からは、敵プレイヤーがあらかじ召喚しょうかんしていたわし獅子ししの合体魔獣グリフォンが、強力な羽ばたきにより黒ローブを吹き飛ばそうと試みる。

 しかし、ナハトは一瞥いちべつすると慌てる様子もなく手札のウォールを選択し、カーソルを黒ローブの背後に持っていきクリックした。途端に岩でできた壁が現れ、黒ローブを支える。


 これにより予定が狂い完全に冷静さを失った敵プレイヤーは、グリフォンをナハトの操作する黒ローブへと突撃させる。

 だが、ナハトはこれに対しても焦らず、前もって召喚してあった全身白骨化した鳥の魔物ネクベトを対応に回した。

 二体のモンスターはぶつかり合い、けたたましい鳴き声を上げる。両者共に闘志充分とも見て取れたが、実力の差は如実に現れた。グリフォンは牙を突き立てるも、骨の体には響かない。対するネクベトは骨のくちばしでグリフォンの首を捕らえると、そのまま一瞬で食いちぎった。


 そして、ナハトはトドメとばかりにスキル欄のサンダーと手札にあるルシファーを使用する。そして、その杖を高く掲げるモーションと現れた強大なモンスターを見て、敵プレイヤーは降参した。



 新感覚の大人気ゲーム、ウィズダム&ブレイブ。

 TCGトレーディングカードゲーム+アクションRPGロールプレイングゲームという斬新な組み合わせは話題と流行をさらい、今や社会現象を引き起こしている。

 そのゲームではプレイヤーは天の声となり、自分の設定したアバターへ知恵ウィズダム勇気ブレイブを与えることにより進めてゆく。

 知恵ウィズダムとはカードによって与えられる魔法や味方や武器であり、勇気ブレイブとはコマンドによって与えられるスキルや撤退などの具体的な動きのことである。

 それらを駆使し、ソロプレイをこなしながらレベルを上げ、カードを集める。そして、今ナハトがそうしていたように、対人戦モードへと飛び込み、ゲーム世界の頂点を目指すのが目的だ。


 だが、ナハトにとってそれは容易すぎることであり、そのことは彼へ退屈を与えていた。

 気怠けだるそうに溜息を吐き、ログアウト処理を行うナハト。そして、おもむろに時計を見た。


「……っと」


 思わず声を漏らす。その理由は、オールジャンル対応の新作『ゲームハイスクール』の発売開始が迫っていたからだ。

 ナハトはすぐさま出かける支度を済ませ、近くのゲームショップへと向かった。

 当然店の前には行列ができていたが、ナハトは何食わぬ顔で裏手へと回る。そこには会員限定のコミュニティ入口があり、新作を並ばずに購入することができるのだ。会費は無料だが、その代わりプレイヤーとしての知名度がなければ入会できない。

 ナハトは周りの目を確認してから、その裏口よりゲームショップへと入る。

 すると……。


「へえ、お父さんの誕生日か。ワシからもおめでとう言っとくよ」

「ありがとうございます」


 常連客が女性店員と話していた。


「こんなかわいい娘さんが祝ってくれるんだ、幸せだろうなあ」

「そんな……」


 女性店員は顔を赤く染める。


「お、ナハト君。ゲームハイスクール、買いに来たんだね?」

「ああ。おじさんも?」

「もちろん。まだまだ現役トップゲーマーだからね」

「ところで、そちらの方は?」

「新入りの店員さん。アイネちゃんっていうんだってさ」


 常連客の紹介を受け、アイネは軽くお辞儀をした。


「おっと、そろそろワシは行かないと。それじゃ、アイネちゃん、お兄さんも誕生会には来てくれることを祈ってるよ」

「はい! ありがとうございます!」


 そう言って常連客は手を振り、その場を後にした。

 残されたナハトは特にそれ以上会話をすることはなく、目的のものを購入しそのまま帰った。

 そして帰宅後、ナハトは早速そのゲームを開始する。画面を見つめながら、片手をコーラへと伸ばし……。


「……は?」


 その手が空を切った。

 何事かと顔を上げると、視界に広がる光景は部屋のそれではなかった。目の前に大きな建物があり、周りは花壇と翡翠ひすいの道により美しく彩られている。

 そして次の瞬間、大勢の人が不意にそこへ現れた。皆、辺りを見回し困惑している。

 と、その時。


「プレイヤーの皆様、ゲームハイスクールへようこそ」


 りんとした女性の声が、空から響き渡った。だが、見上げたナハトたちの目には、ただ青空が広がっているのしか見えない。


「す、すごい……! これ、VRバーチャルリアリティだよ! ほら、少し前に商品化したあの!」


 誰かが感動の声を上げた。


「うそだろ……? ここまで完成度が高くなったのか!?」

「現実と見分けがつかないわ!」


 皆が口々に感嘆を示す中……。


「待てよ? でもこれ、どうやってログアウトするんだ?」


 誰かが疑問を投げかけ、一斉に静まり返った。

 しばらくして……。


「……お、おい。まさか、出られなくなったわけじゃないよな?」

「そ、そうよ! 何をバカなことを……」


 反論の声が上がったが、その言葉は消え入るようにかすれてゆく。

 そうして、十数秒の沈黙が流れた後……。


「皆様、ゲーム説明を開始してもよろしいでしょうか?」


 天の声が響き渡り、皆一斉に空を見上げた。


「まず始めに……」


 声は数秒の間を取り、皆が息をんだ。


「皆様には、この世界で過ごしていただきます」

「……はああ!?」

「ちょっと待て! そんなことしてどうなるかわかってるんだろうな!? 犯罪だぞ!」


 突如告げられた日常との別れに対し、不平が飛び交う。

 だが、天の声が咳払いをすると一斉に静まり返った。


「何を不満に感じておられるのですか? 皆様はここにいる間、永遠に生きることができるのです」

「え、永遠……!?」


 皆どう対応していいのかわからずにいる。

 危害を加えるつもりかと身構えていた者は、予想の斜め上を行く答えに怒りの矛先をどこへ向けてよいのかわからなくなったのだ。


「このゲームハイスクールの世界は、現実世界から時間も空間も閉ざされた位置に存在します。あらゆる病気の心配はなく、怪我もなければ痛みもありません。もっとも、それには痛覚をオンにするという例外的措置もありますが……」

「……本当に、本当に永遠に生きられるのか!?」

「はい。皆様には永遠にこちらで遊んでいただくことになりました」


 その言葉に皆は呆然ぼうぜんとし、やがてそれぞれに反応を示した。

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