浮気探偵(代理)は楽じゃない★1
久々の浮気探偵。
今回の主役はもっくんです。ゆぅちゃんもでます。
皆さん、こんにちは★
俺は浮気探偵カプチーノ☆こと、古河ゆぅ──ではなく、その幼なじみの安斎木です。
何故、俺がゆぅの物真似をしてるのか、そして何故、語尾に★がついているのか、それを一番先に説明させてもらいます。
では。あれは、今朝のことだった──。
★回想★
「もおっくーん☆ 暇ですかー?」
日曜の、しかも部活もない至福の朝に二度寝をしていたら、語尾の☆がチャームポイントな無作法な幼なじみが俺の部屋というプライベートスペースに侵入してきた。
「・・・・・・勝手に入ってくんな」
「もっくんママがいーよーって☆」
「母さん・・・・・・」
上半身を起こして顔を押さえる。
幼なじみの弊害とでもいうのだろうか・・・・・・幼い頃から互いの家を行き来していたせいで、今でもその感覚が残っている。とは言っても、ノックはしろよ。
「うーん、うん! 暇そーだね☆」
俺の格好を見たゆぅがそんなことを言って、次の瞬間、こう言った。
「もっくん、バイトしない?」
「バイト?」
「そ☆」
「なんの?」
「言うなれば、浮気探偵(代理)かな」
「(代理)?」
「オフコース☆」
その台詞に嫌な予感を覚え、逃げ出したい衝動に駆られたが、生憎と出口にはゆぅが仁王立ちしている。
俺は仕方なく話を訊くことにした。
「何かあったのか」
「うん、やらかした☆」
「は?」
「依頼がダブルブッキングしてもうた」
「なんで関西弁やねん」
こっちまで関西弁で突っ込んでしまった。ゆぅは「あはは、もっくんはノリいいねー」と、けらけら笑ってる。が、言ってることは笑い事じゃない。
「実はさ、とあるご婦人と、とある紳士に依頼されてね。それぞれ伴侶が浮気しているみたいだから、調べて欲しいって依頼が来たの。で、依頼日被った」
「マジでか」
「マジっす」
相も変わらず、軽いノリで説明するゆぅだが、このノー天気が空笑いしてるところを見ると、内心かなり焦っているようだった。
「つまり俺に片方の調査をしろと?」
「うん。もっくんしか頼れないんだよ~。仕事でヘマしたら、信用に関わるし」
「だろーな」
ゆぅは基本的にがさつで、なんとかなればいっか☆ という思考回路をしているが、仕事に対する意識だけは高い。一度引き受けた仕事を断るなんて本人にとっては有り得ないことだ。
仕方ない。ここは一肌脱いでやるか。
協力要請を受けると、ゆぅはぱぁっと笑った。
「ほんと? ありがとー☆ もっくん大好き☆」
「はいはい」
「じゃ、紳士さんの方の調査お願いね? エスプレッソ★」
「ん?」
今、コーヒーの名前がでたような?
「エスプレッソってなんだ?」
「何って──そりゃあ、もっくんの探偵名だよー」
「はぁああ!?」
俺は大声を上げた。
ゆぅが「あ、でももっくんの場合は浮気探偵(代理)エスプレッソ★か」とか言ってるが、そうじゃない!
「なんでんなもんつけんだよ」
「? カプチーノの代理なんだから当然でしょう?」
ゆぅの顔には何当たり前の事言ってんのと書いてある。
当たり前じゃねぇよ。相変わらず自分が基準だな。
呆れて閉口していると、ゆぅが提げていたショルダーバッグから手帳を取り出して、あるページを破って俺に差し出した。
「これ、紳士さんの住所ね。奥様の話によると、一時から出掛ける予定らしいから尾行して証拠掴んでね☆ もっくん、ガンバ☆」
あっさり言ってくれる。俺はあくまで協力者であって、探偵スキルはないんだけど・・・・・・。
メモに書かれていたのが、知らない町名だったから携帯の地図アプリで検索していると、ゆぅがまたもやとんでもないことを言い出した。
「あ、そうだ。もっくんは今日一日浮気探偵(代理)エスプレッソ★なんだから、語尾に★をつけてね☆」
「はぁっ!?」
「★!」
「わ、わかった・・・・・・★?」
ゆぅの気迫に押されて、了承してしまった。語尾に★を付けて。
前から思ってたけど、こいつのこの☆に対する執着はなんなんだろう?
「よろしい! じゃ、任せたよー☆」
ゆぅはやっぱり、☆を付けて部屋を出ていった。もう一人のターゲットのご婦人を尾行しに行ったのだろう。
改めて時計を確認すると、一時までそんなに余裕はなかった。
俺はすぐさま着替えると、人生初の探偵仕事をするべく、家を出たのだった。
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というわけで、俺は今日一日浮気探偵エスプレッソ★(ゆぅ命名)として、語尾に★をつけながら(ゆぅ指定)過ごすことになったのです。
もうすぐ礼の紳士の家です。
ああ、嫌な予感がする・・・・・・おっと、忘れてた。嫌な予感がします★
次話から尾行スタートです。