流転
さて、私の最期についてである。
ヌキアはあのお方の希望ではなかった。彼は勇猛な王だった。決断力に富んでいて、そして慈愛に満ちていた。しかし人の王であった。彼の意思は人のために存在した。では、あのお方の意思は誰の元へと行ったのだろうか。それはまったく後の時代になってから発露した。
活力を失った私は体を極限まで苛み、破滅の刹那に一つの果実を世界に落とした。種もなく、ただ肉と皮とがあるだけの果実を。それを誰が持っていったのか。ヌキアでないことは確かだ。まだあのお方の意思を辛うじて有する者が、私の体からこぼれ落ちた実を拾い上げ、どこかへと運び去った。ヌキアもそれを欲したが、けれども終生手に入れることはなかった。
そして力を失った私の体に偉大なる雷電が降り注いだ。その光と衝撃と、もしくは熱気を浴びて、私の体を炎の鞭が強かに打ち据えた。人々はその光景に息をのんだ。その轟音と閃耀に怯えていた。
いつの頃からだろうか。人が雷を恐れるようになったのは。
激しい衝撃に焼かれても、不思議と痛みはなかった。血を浴びた時の悶えるような悲嘆や、人が死にゆく時の戦慄する怖気は無かった。私が死にゆく時、人は何を思っただろうか。少なくとも、ヌキアとその民は、燃え盛る閃火を浴びて、陰影の中で佇立していた。口をぽかんと開けて、燃え落ちる私を見つめていた。
やがて、私の体は灰となった。私の意思は体から離れ、紫電となって空を駆け抜けた。私は初めて世界の概観を見聞し、そして天へと昇った。
蒼穹を越え、その間に広がるヴェールを抜け、そして上天へと至る。
紫電となった私は、一目散に偉大なるお方の御元へと向かった。あのお方は私を優しく抱擁し、辛く険しい時間をねぎらってくれた。それから私を右手に乗せ、私の見た最期の時をくまなく見つめられた。その瞳が悲しみに揺れた頃になって、私は彼を包む七色の光の一部と同化した。
「休むが良い。今ひと時は」
まろび出た言葉は優しく、それでいて甘美だ。また一つ、光が強まったことを嘆きながら溜息をついた。
私は静かに、他の者達の意識と混ざり合いながら、かつて私がいた世界を見つめた。
どれほどの時が経っただろうか。あのお方が願っても止まない子は、私がいなくなって、しばらくしてから世界に現れた。人はそれを、神の御子と呼んだ。




