グレーゴル・ザムザ「だから見ててください!俺の、変身!!」
朝起きて鏡を見たら巨大な毒虫に変化していた。
まず焦る。誰お前。まんまムカデ。360度どこから見てもムカデ。どうせ変身するならもうちょっと格好いいのが良かった。
ヤバい。マジヤバい。俺は布地の販売員でもないし音楽学校に行きたがってる妹なんぞいないし両親は借金なんてしない人格者だし何よりここはドイツじゃない。
そもそもこんなこと現代日本にあるわけがないだろうし夢か何かだろうと頬をつねろうとしてみる。
けどまずその前に頬ってどこだか分からない。細い脚は無数にあるが一本動かして見たら全部動く。キモい。
てかマジヤバい。幸か不幸か俺は一人暮らしだから家族に見つかると言った心配は無いがまずドアノブが開けられない。
食糧とかそういう以前の問題。ヤバい。マジヤバい。
なんとなく気分で「変身」と言ってみる。
変わらない。悲しいくらい何も変わらな__!?
脚が二本増えた。死ね。
ともかく声が出せることが発覚したから良いとする。しかしキモい。喋れても所詮ムカデ。完全なるクリーチャーである。
ドアノブに巻きついてドアを開ける努力をしてみる。落ちた。かなり痛い。無いはずの背骨が痛む。ヤバいマジ痛い。
一旦ここから出るのは諦め、姿見で今の自分の姿の確認をしてみる。
黒く艶のある甲殻、対になった無数の脚。
頭部には何とも形容し難い形の触角が二本とこれまた私の神経を逆撫でするような気味の悪い口が付いている。
最早一点の曇りも無くムカデである。
よく見たら腹のあたりに小さい穴がいくつもみっともなく空いているのを見つけ、その中の一つに脚の一本を侵入させてみようと思い立った。
しかし、それに触れた途端私の体を冷たい戦慄が包み込んだのですぐに脚を引っ込めた。
てか俺これからどうなんのぶっちゃけあり得ないんすけど。大学も行けないじゃん。
ヤバいマジヤバい。外でたら完璧にこれ通報からの自衛隊に射殺か実験体コースじゃんパねえ。うっわ家出たくねえ。
まあ家どころか自分の部屋すら出られてないんだけど。うわマジヤバいじゃん俺。
家から出ても詰みだし、だからって出なかったら餓死だしパねえよマジ。
マジチェックメイトじゃん。ハリネズミだっけ?そんなやつのジレンマだわマジヤバい。
うっわテンション下がってきたよ。寝よう。寝たら多分夢オチで終わるだろ。
てか終わらなかったらマジヤバい。もうマジ無理。寝よ。
____________
グレーゴル「なんだ夢か」
グレーゴル「寝よ」
この後フランツ・カフカの「変身」に続いて行く形になると勝手に想像しています。\超変身/