crow's show
フールがリオを見失ったころ、リオは競技場のど真ん中にある学校のシンボルが作り出す影の中にいた。
今回、リオは何を盗むかは明記しなかった。しかし、運動会を中止されると困るため、脅しは書いておいた。
「運動会を中止したら学園を爆破する」
と。
ちょっと卑怯かと思ったが、これで運動会が中止にならないのだからいいだろう。
俺は観客がほしい。大勢の観客が。それも、宣伝力のある。そうなると、やはりこの運動会に来る大物ははずせない。名前を全世界に売らなければならないのだ。
「ここに集まった全員、俺のために大騒ぎしてくれよ」
クロウの衣装を身に纏い、時間を確かめる。
予告時間は、12時ちょうど。学園側に送った予告上にはそう書いたが、クロウが来るという情報のみが広まり時間などは知らされていないようだ。
「となると、出方を考えないとね」
12時ぴったりに、念話を競技場全体に向けて発した。
『皆さんこんにちは、怪盗クロウです。どうやら運動会も午前の部が無事に終わったようですね』
声ではない振動が、学園内にいるすべての人間の頭に伝わった。
ざわめきが、広がる。
言い終わってから、クロウは競技場の中央の陰から徐々に徐々に姿を現す。すぐにそれに気づき、指さして「あそこだ!」と叫ぶ者が現れる。そうして、次々にあちこちからの視線がクロウに集まりだす。
今まで夜の暗闇でしか姿を現さなかったクロウが、白昼堂々大衆の前に姿を現した。報道陣がここぞとばかりにカメラを向ける。
『皆さんは、この伝統ある学園の運動会に私が何を盗みに来たのか、気になっていることでしょう』
警備していた警察たちも続々集まってきた。手に手に拘束用の魔法封じの鎖を持っている。それを見て、仮面の中でにやりと笑った。
『私が今日盗みに来たもの、それは・・・』
会場が鎮まる。
『この、学園のシンボル、巨大クリスタルです!』
言うと同時に学園長の顔を見ると、鯉か何かのように口をぱくぱくさせた。
「それをどうやって盗むというのだね!?」
観客席の誰かが問いかけた。
クリスタルの高さは約30メートル。幅は5メートルほどもある。そう思うのも無理はない。
『さあ、どうやって盗むでしょうねぇ、それは後のお楽しみ、です。では、午後の部が終わったころにまた会いましょう』
言うとすぐに影の中に戻った。直後、会場のざわめきが聞こえる。
「くそっ、あの影の中に消える魔法、なんとかならないのか!」
「あの念話もだ!人間が念話なんて使えるわけないのに!」
警官の悔しそうな声も聞こえてくる。これは愉快。
そして何食わぬ顔で、モニターにくぎ付けになっている控室へと戻った。
「クロウ、本当に来たな」
フールの耳元でつぶやくと、フールは心底驚いたように振り返った。
「リオ!いつ戻ってたんだ!?」
「クロウが念話始めたあたり」
「気づかなかった!それよりすごいな、クロウはどうやってあのクリスタルを盗むんだろう!」
誰も、俺がクロウが消えてからここに戻ってきたことに気が付いていない。
「さあ、粉々に砕くとか?」
「だとしても、その砕いた大量のクリスタルはどうやって運ぶんだよ!」
「知るかよ、クロウじゃないんだから」
いかにも知らないことを装ってフールと話していると、リリアンが目を輝かせて近づいてきた。
「リオ聞いて!クロウ様かっこよすぎるわ!!」
「よ、よかったね・・・?」
目が尋常じゃない熱を帯びていて、さすがに怖い。
「ああ、早く現れないかしら。何なら私クロウ様の僕になりたいわ」
まてまてまて、話が飛びすぎだ。エルフなんだからもう少し種族としての誇りをだな・・・。
「君の契約精霊たちがなんだか可愛そうになってきたよ」
「何か言ったかしら?」
俺はため息まじりに首を振った。
+ + + + +
リリアンがクロウが来るのを今か今かと待ち望む中、午後の部の最終競技、「下剋上」までが無事終わった。その結果はBクラスとして出場したリオがSクラスのトップに僅差で負けるという異例の事態に終わったが。
そのせいで、普通ならば他クラスを寄せ付けない圧倒的な強さを見せ、他国のお偉いさんやら国際的な機関やらものすごい注目を浴びるはずのSクラスの生徒たちよりも、超普通レベルにいながらそのトップに迫ったリオにその焦点が当てられて学校側としても他国にしてもなにかと混乱してしまっていた。
「クロウ様はまだなのかしら」
午後の部の最終競技が終わってしまい、リリアンの落ち着きのなさはより一層激しさを増した。色んな生徒にクロウ様はまだかと聞きまわっている始末だ。そんなことリオ以外は知るはずもないのに。
そうして特別競技が始まろうとしたとき・・・。
パンッ!!
乾いた破裂音がグラウンドに響いた。
全員が音の出どころを探す。
『ここですよ』
現れたのはクリスタルの上。途端、ファンからの歓声が鳴り、グラウンドが何かのライブ会場のような盛り上がりをみせた。
しかしこのときほとんどの生徒が特別競技、使い魔合戦のために自分の使い魔を召還していた。
Sクラスの生徒たちはつい先ほどの汚名をはらそうとクロウに向けて使い魔を放とうとしていた。
『珍しく、警察の方以外からの敵意を感じますね』
クロウはクリスタルの上で腕を組み、その様子を楽しむかのように見渡した。
『いいことを思いつきました。次の競技は使い魔合戦でしたね?では皆さんの使い魔で私を見事捕まえてみてください。悪くない提案でしょう?』
校長はそれを聞いてニヤリと笑った。使い魔合戦はクラス対抗で使い魔を合戦させる競技だったが、これはこれで合戦だ。それに生徒たちが団結してクロウを捕まえることができれば学校側としてはとてもいいPRになる。
「いいだろう、のった。生徒諸君!遠慮はいらぬ。どんな手を使ってもよい!あのコソ泥を捕まえてみせよ!」
主にS,Aクラスの生徒が張り切って返事をし、それと同時に一斉に使い魔を放った。
何百もの大小さまざまな使い魔がクロウに襲い掛かる。しかしクロウは避けようともせずにそのまま使い魔の波にのまれた。
「ああっ、クロウ様!!」
リリアンが悲鳴を上げる。グラウンドからも悲鳴やら歓声やらが上がった。
しかし、使い魔たちがクロウに飛びかかってから全く動いていないことに気が付くと、徐々にその声は小さくなっていった。
『・・・この程度ですか?』
嘲笑を含んだ念話が響いた。それとともに、クロウに群がっていた使い魔たちがクロウから離れ、主人の元に戻った。クロウはというと、傷一つ負っていない。
「なっ!?」
校長は愕然とした表情を見せた。
『面白くないですねぇ。これほど素晴らしい使い魔たちがそろってるのに、主人がなっていませんよ』
クロウは仮面の下でククッと笑った。




