黒い影
遅れましたー!
一ヶ月以上もすみません^^;
会場中の刺さるのではないかというほどの視線が俺を貫いていた。誰も何も言わずにただ俺を見ている。その表情は様々で、驚きを隠せない顔や興味津々といった顔、恐怖する顔。報道陣はここぞとばかりにカメラを俺に向けている。
「さて、どうしたものかね…」
呟いた俺はしかし、口元に笑みを浮かべた。
その頃、控え室では。
「おいおいおいおい…。マジか?これ…」
誰が言ったのか、その言葉に皆頷いた。Bクラスの人間が、リミッターをはずしたSクラスの人間の魔力を超える…。あってはならない前代未聞の事態だった。
「リオ、何者だ?」
同じチームのフールでさえ、リオのその規格外さには若干の恐怖を覚えていた。
俺は痛いほどの視線の中で口元のにやつきを必死で押さえながらスッと右手を上げた。
「ちょっといいですか?」
そして皆にぎりぎり聞こえるぐらいの声を出すと、放送委員が慌てた様子で俺に音声拡大魔法をかけた。俺は魔法をかけてくれた生徒に軽く会釈すると、あげていた手を下ろした。
「これはちょっとしたミスです。俺には実際にはこれほどの魔力はありません」
辺りからざわめきが広がりだした。
『と、いうと?』
放送委員が問いかける。俺はその問いに頷き、再び口を開いた。
「測定が始まる前に、俺と俺の隣のAクラスの彼が口論になっているところを見ていた人も多いと思います」
俺のその言葉にかなりの人間が頷いたのを確認した。
「俺も人間ですので、Bクラスが勝てるわけないだろという言葉にカチンときてしまいまして…。まあ、ちょっとSクラスの生徒の魔力の一部を俺の測量器に流れるように細工させていただきました。この馬鹿げた数値はそのためです。ご迷惑をおかけしました」
一気にしゃべって頭を下げる。またしばらく沈黙があったが、その中で放送委員が俺に問いかけてきた。
『…では、リオ選手本人の魔力量を今ここでもう一度測定してもかまいませんか?』
俺は頷く。次は失敗しない。上手いことやってやる。
リセットされた測量器で、皆が見守る中での再測定。目立ちすぎるとこの後の俺の活動に響くため、14000MPあたりにしておいた。まあこの数値もBクラスではありえない数値だが、弱いと思われたくないプライドもあってこのくらいにしたのだ。20000MPを出すよりはありえる数値だろう。
先程の20000MPを見た後だからか、Bクラスの俺が3位に入る成績を出したというのに、驚いている人は少ない。
『…Bクラスで10000MP越え…というのも聞いたことがありませんが…きっと入学時に間違えたんですね。さて、お騒がせしましたが、1位はSクラスのテイラー選手!』
何とか危機は乗り越えた。俺はほっとして控え室に戻ったのだった。
もちろん控え室でもあれこれ聞かれたが、全てに先程と同じように答えた。リリアンだけは何故かその答えに不服そうだったが、他のみんなは何とか納得してくれた。
(…次からは絶対しっかり加減をしよう…)
がしかし、負けるつもりはない!
+ + + + +
会場の大多数の人は、先程のBクラスの青年が10000越えを出したことで盛り上がっているが、何人かはほっとした様子で帰っていくその青年の背中を面白そうに、あるいは不敵な笑みをうかべて見ていた。
「フン…。まったく、これだけ各国から有力者が集まっているというのに、彼の本当の力に気付いているものはほとんどいない。こんなんだから、あのコソ泥に目をつけられるんですよ。ねえ?」
「確かにそれは言えてるわね。一体この中に、彼の嘘を見破った者はどれだけいるのやら…」
「キヒヒヒヒッ!そンなの数えるほどしかいねーヨ!あいつ魔法なンてこれっぽっちも使いやがらねーで、しかもかなり魔力の出力を抑えてあの数値叩き出しやがっタ!!オモシレー!キヒッ!」
「…僕とどっちが強いかな…」
観客席のある一角。四人の男女が青年が帰った控え室の入り口を見ながら口々に言った。
一人は灰色のストレートな髪を背中までのばしたの男。一人はグラビアモデルのような美しい曲線を持つ、金色の髪を肩の下で揺らしている女。一人は背が高く細いが、その身体は引き締まっている男。一人はまだ小学生くらいの少年。
いずれも舞踏会に付けていくような仮面をつけており、その顔は分からない。そして彼らは皆一様に黒い服を見につけている。
こんな者たちが普段街中を歩いていたら間違いなく通報されるだろうが、今日は運動会。それもこの学園の。
各国からお偉い様方が集まるこの会場には、素性をばらしたくない為か彼らのように仮面をつけているものは案外多い。だから別段、彼らは目立っていなかったし、むしろ溶け込んでいた。
またある一角では。
「あのリオとか言う青年…」
「お前も気付いていたか…。あれは間違いなくSクラス以上の大物だ。何故こんなところにあんな化け物級の人間がいる?あんな子供がいるなんて情報入って来てないぞ…」
どこかの王と、その従者。彼らもまた、リオの異常性に気付いた者だった。
「…底知れぬ。なんだあやつは…!あれではまるで…あいつのようではないか…」
観客席のどこかで何人かが、確実にリオに目をつけた。
+ + + + +
500m魔走は魔力の瞬発力を競うものだ。これは滞りなく終わった。
俺はフールもリリアンも出るわけではなかったために、疲れている風を装って仮眠を取っていた。
「しっかしリオ、お前やっぱすげーよ。10000MP超えるとは思ってなかった」
誰かが言ったそれに、皆反応して頷いた。仕方なく目を開けて、「ヤケクソだよ」と笑った。まあ普通、魔力量はヤケクソ云々でどうこうなる競技ではないのだが。
そうして、やっとリリアンの出番が来た。プログラム③、精霊対決だ。
さて、次はいよいよリリアンの活躍!




