屋根のうえ
足元を見上げると、お日様が沈みかけて紫色が混ざり始めた空が見えた。白い雲も浮かんでいる。あ、あれ丸パンに似てる。あっちの雲はお向かいのジョン。夕焼けの方には雲が少ないから、明日は晴れかな。夏になりかけの空気が気持ちいい。
そんな風につま先と空を見上げていたら、頭の向こうから誰かが呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、カリン!」
首をぐぅっと伸ばしてみると、屋根の下で幼馴染のアルがこっちに手を振っているのが見えた。眼鏡が夕焼け色に赤く光ってる。おーう、と返事をしてから、えいやっと足を下す。屋根の上で逆立ちしていた私は、そのまま横に生えているプラムの木に飛びついて、枝を渡りながらアルのところまで下りていく。
アルは、隣の家の次男坊。同い年の私たちは、昔から何をするのも一緒で、まるで本当のきょうだいのようだと父さんやお隣のおじさん、おばさんによく言われる。誕生日は、アルの方が2カ月早いけど、背は私の方が少し高い。背比べをすると、アルはいつも悔しそうな顔をする。勉強するときの席は隣だし、川に行くにも、原っぱでかけっこするのも、アルと一緒が一番楽しい。
そんなアルが、今日はなんだか真面目な顔をして立っていた。眼鏡が光って目がよく見えなくて、どんな表情なのかちゃんとはわからないけど、すごくすごく真剣そうに見える。
「なあ、明日の夕方、森の方に行こう」
「いいよ」
なにかと思えば。拍子抜けしてしまった。すぐにうなづく。
アルとこんな風に前の日から約束するのは、珍しい。いっつも一緒に遊んでるから、約束なんかしたことがない。森に行くときは、大人に聞いてからじゃないといけないけど、前の日から約束なんてしたことない。いつもは、お昼ご飯のときとか、畑にいる大人をつかまえて聞くんだ。でも、私が答えるとアルがほっとしたように笑ったから、なんで、は聞かないことにした。
「じゃあ、また明日な!」
そういってニコニコして手を振ると、たたっと走ってアルは家に入っていった。
私も、そろそろ家に入ろう。晩御飯のいい匂いがする。今日はきっと、父さんが得意なじゃがいもと干し肉のスープだ。