表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鈴の音の少女

作者: 藤白竜胆

prologue


―――また、取り込まれてしまったみたいね。


黒の少女は諦めに似た溜息を吐く。横に立つ青年は、無限ループの階段に混乱しているようだ。


さて、どうしましょうか。

少女は左手に握った鈴を、リン、と鳴らす。




いつも通り。ヘルパーとして勤務している病院から帰ろうとしていると、同僚でもある学生(実習生)の青年と鉢合わせた。

あまり仲の良いほうではない―と少女は思っている―人とだが、愛想の良い彼女のこと。おしゃべりをしながら、階段を下っていった。


『ねえ、その鈴は何?』

先程から青年が疑問に思っていた、少女の手のなかにある鈴のことだ。

「護身用。」

リーン、と涼やかな音色を響かせ、目の高さまでもってくる。鈴には複雑な紋様が細工されている。

『へえ?なんで鈴なんかが護身?』

「それは、秘密。」

にっこり笑いながら、これ以上は聞くなと目線で云う。


本館の二階に差し掛かった頃、張り詰めた糸に触れたような感覚で少女は立ち止まった。

『?どうしたの?』

バッと少女は手摺りから下を覗き込み、顔をしかめる。

「あちゃあ、やっぱ巣の中に取り込まれちゃったか。」

不思議そうに、青年も階下を覗き込む。瞬間、青年は凍てついた。


地下一階迄ある螺旋階段…それが、今や底の見えぬ延々と続く階段と化している。


『な、んだこりゃあ…』

唖然としたまま、目線を2階のフロアに移す。

『と、とりあえず他の階段を使おう!なんか気味悪い。』

タッと駈け下り、皮膚科受け付けの前に立つ青年。

「…無駄だと思うんだけど…。」

少女は溜息を吐きながら、青年の後を追う。その際、鈴の音を響かせることを忘れずに。


皮膚科を横切り、検査室の前の階段を下る。段々鈴が鈍く、耳障りな音色を奏で始める。


「…キタ。」

いつもの朗らかな少女とは到底思えない、けだるそうなうんざりした表情を浮かべる。巻き込まれた青年は、たまったもんじゃないだろう。


―ズッ、ズ、ザリッ…。


階下から響いてくる足音。職員なればいざ知らず。こんな這いずるような音は、職員である可能性は皆無に等しい。


『…っぇ…ぁ、キノ、さん?』

ふらふらと壁に手摺りに打ち当たりながら現れたのは、顔面蒼白の老婆。

「今朝、亡くなった人ね。」

焦点の合わない瞳で老婆は二人を見つめる。


「橋を、渡りなさい。さもなくば…わたしは…」


リーーン!強く強く響き渡る鈴の音。

その音に、老婆の躰が、怯えるように、びくり、と震える。


―ビキッ。


「…残留思念の強き者、気を持って人を殺めん、か。」

罅の入ったブレスレットの石を眺めながら、少女は呟く。


―早く、畢らせなければ。

この砕けた石は、わたしの身代わり。


「“トリニティ”」

砕けた石から光が現れ、白い死神をかたどる。白の鎌が舞踊ると、老婆の姿は消え失せた。

「“死”の呪縛の地に…眠りの音を。」

リーン。澄んだ涼しい音色の鈴が、舞う風に乗せて鳴り響いた。




「アレは自分の死を認めず、生きたい思いが強すぎて、察知・消去しようとした私に殺気を放ったようです。しかし、浅はかだった。地鎮めの末裔に叶うわけがないのに。」

《ほう、漸く一族の宿命を受け入れてくれるか。耀よ。で?一緒にいた青年は?》

「受け入れはしません。しかし、務めは果たす義務があります。あの人には、忘れて頂きました。」




『な、な、なんだアレ…き、君も一体…』


「地鎮めの鈴。」


リーン。

鈴の音と共に、青年の意識がなくなる。


「…申し訳、ありません…。」

彼の頭に手を置き、そして躯を揺さ振る。

「幹久さん、幹久さんてば。起きてください、風邪引きますよ?」

『…ぅ、ん?あれ、俺なんで…』

「どうしたんですか?踊り場なんかで蹲っちゃって。ビックリしましたよー。」

にっこり笑って云う少女に、彼は口を開く。

『なんか、変な夢見た気がするんだけど…なんだったんだろ…』

少女は更に笑顔を被せる。

「病院ですから。変な夢を見ても、頷けるんじゃないですか?」

そういって、立ち上がる。

「さ、帰りましょ?もう9時回りますよ。」


差し出された手を、青年が握ると、少女は唇の動きだけで“ごめんね”と呟いた。


星司耀(ほしづかよう)

黒の使者。地鎮めの一族の次期当主。普段は朗らかで、愛されキャラな介護士。


幹久悠(みきひさはるか)

自覚が無いようだが、霊媒体質。リハビリ科にインターンとしてお世話になっている模様。




準夜勤帰りに突発的に思いついた話。制作15分@電車内…。

ё06/11/23


以前、己のHPに載せていたものになります。

構想は出来ているけれど、次の話を仕上げるのがなかなか…時間が足りません…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ