ちょっとだけ妖精に好かれすぎている。
なんでもあり。
子どもの頃から、妖精に好かれている自覚はあった。
「甘いものが食べたい」と呟いたら、王都の有名なお菓子屋のショーケースからスイーツが忽然と消えて、私の前にドカドカと降ってきちゃったり。
「家庭教師に怒鳴られて怖い」と呟いたら、部屋の中にいたはずの家庭教師が家の門まで飛ばされたり。
そんな感じで、私の些細なお願いを妖精が聞いてくれてしまうもので、自分の望みを口にするのに躊躇うようになった。
両親からも気をつけるようにと言われてきた。
何かを言う前に、一旦考えるという癖もついた。
人によっては、それにイライラされたりもしたが、婚約者はいつもニコニコしている。
「何か言おうとして、躊躇っている時の顔が可愛い」と、毎回言うのだ。
「……それを言われると、考えるのも躊躇われるんだけれど」
「リターシャは優しいからねぇ。妖精が好むのもわかるよ」
「お話しができないから、一方的な気がして申し訳ないけれどね」
「ふふ、そういうところが好かれているんじゃないかな」
「どうかしら」
首を傾げたけど、婚約者のザニックスは笑いながら肩を竦めた。
「でも、最近はなにも起こっていなんでしょう?」
「そうね。気をつけているから、望みみたいなものは口にしていないかも。何かあっても、筆談にして妖精さんにバレないようにしているし」
「それって、必要最低限のことだよね。僕へのお願いだって、手紙でくれるけどさ。もっとわがままくらい言ってくれてもいいのに」
「うーん、どれくらいのお願いならいいのか、もうよくわからなくなっちゃったのよねぇ」
私は頬に手を当てて、ますます首を傾げてしまう。
『言わない』ために気にしている時間が、ずいぶん長いこと経って、そのうちに『言えない』に変わっていったと自覚はある。
妖精に聞かれているかもしれないと思うと言えないし、それが人に対してもどう言っていいのかわからなくなってしまった。
「いつか、リターシャのわがままが聞けたらいいなあ」
そう言って、ザニックスは目を細めるのだった。
その日を境に、ザニックスは仕事で大忙しとなった。
私は私で、結婚式の準備なんかに追われて忙しい。
打ち合わせ、招待状の準備、ドレスの試着、やることがいっぱいで目まぐるしい。
ザニックスも仕事の合間を縫って書類の確認なんかはやってくれているので、一人でやっているという感覚はないのだが、全部手紙で報告となっているため、会えてはいなかった。
こんなに会えなかったのも、珍しいくらいだった。
手紙のやり取りなんて、今までと変わらないのに、なんでこんなに寂しいのかしら。
今だって、なんて返事を書こうかと悩んでいる。
忙しいザニックスに、端的に伝えるための言葉を綴っていく。
そこに自分の近況報告も書いていいのかと、思ってしまう。
いや、ザニックスなら、『君のことはなんで書いてくれないの?結婚式の準備以外は、何しているの?』と言いそうだとも思うのだけれど。
はあ、と息が零れた。
会ってしまった方がきっと早いんだろうな。
会えたからと言って、私は自分の気持ちを伝えるのは下手くそには変わらないけど。
目の前にいるザニックスなら、私が話すのを待ってくれるだろうから。
私って、ずいぶん彼に甘えていたのね。
ザニックスは、はじめて会った時からそうだった。
言いかけて、やめて、言い淀んで、やっと言葉にできる私のことを、「リターシャ嬢の頭の中ではどんな言葉が飛び交っているのか、気になりますね」と笑ってくれたのだ。
もう少し打ち解けてからは「リターシャの頭の中って、そんなにまずい言葉でも流れているの?」と冗談を言われて、「違うのよ…!」と必死に弁明する私に目を丸くしていた。
それから、やっぱり笑っていた。
「リターシャは、頭の中まで優しすぎるのかあ」って言ってくれたけど。
「違うのよ、意気地なしなだけよ…」
自分の独り言に苦笑いしながら、ザニックスの笑顔を思い出す。
今のだって、きっと笑ってくれるんだろうな。
「…ザニックスに、会いたい」
無意識に呟いていた。
あっ、と口に手を当てた時には、もう遅かった。
「──うわああっ」
開いていた窓から、部屋の中にザニックスが放り込まれていた。
「いてて…、なんだ?」
「ザニックス…!ごめ、ごめんなさい!私…!」
「あれ?リターシャが見える…、幻覚?会いたすぎて、夢にでも出た?」
「違うの、ザニックス」
慌てて駆け寄ると、尻餅をついたままのザニックスが私を見上げていた。
「ごめんね、ザニックスっ。私が呟いちゃったの、だから妖精さんが…!」
そこまで言うと惚けていたザニックスが立ち上がって、私の肩をガシッと掴んだ。
「妖精のしわざって言った!?」
「う、うん」
「僕、妖精に連れて来られたの?」
「そうなの、私が」
「つまり、リターシャが僕に関して何か望んでくれたってことだよね!?」
「う、うん」
「やった〜〜〜!!嬉しいっ!」
「きゃっ!」
気づいたら抱きしめられていて、しばらく浮かれた様子のザニックスがはしゃいでいる間、ずっとザニックスの腕の中にいることになったのだった。
落ち着いてからもう一度ちゃんと説明すると、「何それ、すっごく嬉しいんだけど!」を顔を赤くしながら、また抱きしめられるのだった。
妖精さんがお願いを聞いてくれてよかったと、こんなに思ったのは、これがはじめてだったかもしれないな、なんてね。
了
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(追記)誤字報告ありがとうございました!修正いたしました!(2026.7.26)




