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白いベールで顔を隠されたブス(※勘違い)令嬢ですが、婚約破棄されたら幼馴染の騎士に強奪されました

作者: 茗子
掲載日:2026/06/02


「せっかく異世界に生まれ変わったっていうのに……神様、これはあんまりじゃありませんこと?」


 最高級の絹のシーツの上で、私――侯爵令嬢リリー(三歳)は、手にした銀細工の鏡を見つめて静かに絶望していた。

 三日三晩続いた高熱の果てに蘇った『前世の記憶』。それは、過労で孤独死した社畜の記憶と、容姿に対する深いトラウマだった。


 重たい一重まぶたに、薄い唇。凹凸のないのっぺりとした顔立ち。前世の私はこの容姿をからかわれ続け、誰からも愛されない日陰者だった。


 金髪碧眼にぱっちり二重が当たり前のこのファンタジー世界で、前世とまったく同じ『極めて東洋的な顔』を持って生まれてしまったのだ。どれほどの異物として扱われるのか、想像しただけでトラウマが疼き、私はシーツを頭まで被った。


 そこへ、重厚な扉が勢いよく開かれた。


「ああ、リリー!」


「私の可愛い天使!」


 彫像のような美丈夫の父と、絶世の美女である母が涙を浮かべて駆け寄ってくる。


(……なんて可哀想なお父様とお母様)


 私は内心で深く申し訳なく思った。美男美女の間に生まれた、前世と同じ顔の娘に、罪悪感から愛情を注いでくれているのだろう。


 数日後、父は国家の存亡を懸けたような深刻な面持ちで木箱を差し出した。

 中には純白の極薄ベールが入っていた。


「リリー。お前も三歳になり、外に出る機会が増えるだろう。だから……家族や心から信頼できる侍女以外がいる場所では、必ずこのベールで顔を隠しなさい。何があっても、決して人前で外してはならない。いいね?」


 父の手は震え、母も必死の形相で頷いている。


「これはあなたを守るためよ。もしその顔が他国の目に留まれば……本当に戦争になるかもしれないわ」


 私は小さく首を傾げた。


「……私は、そんなに醜いのですか?」


 父が言葉に詰まった瞬間、母が素早く制した。


「まだ早いですわ。リリーは心が優しすぎる子です……」


 私は両親の愛情に胸を熱くし、凛として誓った。  


「この白いベールは、いかなる時も絶対に外しませんわ」


 こうして、私の『白いベール生活』が始まった。

 実のところ、私の顔はこの世界において、両親の言葉とは「真逆の意味」でとんでもないバグを引き起こす危険性を秘めていた。

 私が持って生まれた「一重まぶたの切れ長な瞳」と「薄く知的な唇」の東洋的なグラマラスさは、『神が奇跡のバランスで描き出した至高の東洋画』そのものだったのだ。直視した者の理性を一瞬で狂わせる、国宝級の魔性の美貌。侯爵夫妻が怯えたのは、ガチの国家安全保障上の危機感からだった。

 しかし、前世のトラウマに脳を焼かれている私は、自分の容姿を底辺だと信じて疑わない。


「いいわ。誰の目にも触れないよう、私はこのベールの中で、誰よりも優雅に生きてみせるわ!」


 白いベールで顔をすっぽりと隠した、謎の『隠蔽令嬢』。

 この致命的なすれ違いを抱えたまま、私は侯爵邸の奥深くで、すくすくと、そして非常に冷ややかに成長していくことになるのだった。


 私が『白いベール』を被るようになってから、七年の月日が流れた。

 十歳になった私は、侯爵令嬢として完璧な教養とマナーを身につけ、同時に「絶対に顔を見せない不気味な令嬢」としての立ち位置を社交界で確固たるものにしていた。



 ある日のこと。

 侯爵邸の庭園でお茶会をしていた私の元へ、隣地の伯爵家の次男、ギルベルトが挨拶に訪れた。同い年で騎士を目指す、快活な少年だ。


「ごきげんよう、ギルベルト様」


「あ、ああ。ごきげんよう、リリー嬢」


 顔を隠した私にも礼儀正しい彼に好感を持ち、紅茶を勧めた矢先――悲劇は起きた。


 ――ビュォォォンッ!


 突如吹き荒れた突風が、私の頭の白いベールを勢いよく吹き飛ばしてしまったのだ。


「あっ……!」


 咄嗟に顔を覆おうとしたが、一瞬早く、ギルベルトの視線が私の『素顔』を完全に捉えてしまっていた。

 時が、止まった。

 ギルベルトは目を見開き、口を半開きにしたまま完全にフリーズしていた。みるみるうちに顔が茹でダコのように赤く染まり、持っていたティーカップがカチャ、カチャと震えている。


(やってしまったわ……!!)


 私は内心で頭を抱えた。十歳の少年に、私の顔はあまりにもショッキングだったに違いない。


「……っ、申し訳ありません、ギルベルト様! すぐに隠しますわ!」


 這うようにベールを拾い上げ、バサッと被り直す。


「お見苦しいものをお見せしてしまいました。どうか忘れてくださいませ……っ」


 泣く泣く謝罪すると、ギルベルトは「ひゅっ」と奇妙な息を呑み、ガタッ!と椅子を倒して立ち上がった。


「お、おれ、今日はこれで帰る!!」


 顔を真っ赤にしたまま、彼は脱兎のごとく逃げ出してしまった。

 残された私は静かにハンカチを噛んだ。


(十歳の男の子に、一生のトラウマを植え付けてしまったわ……)


 その夜、侯爵夫妻はギルベルトの父親から一通の手紙を受け取っていた。


『息子が「リリー嬢に一生を捧げたい」と言い出して困っている。どういうことだ?』


 手紙を読んだ両親は顔を見合わせ、深い溜息をついた。


「……やはり、早すぎたか。これ以上隠し通すのは難しいかもしれないな……」


 猛ダッシュで逃げ帰ったギルベルトの脳内がまったく別の意味でショートし、極度の初恋をこじらせていたことなど、私は知る由もなかった。



 

 それからさらに五年。

 十五歳になった私は、王家からの勅命により、王太子殿下と正式に婚約を結ぶことになった。初めての顔合わせの日、輝くような金髪と碧眼を持つ王太子殿下は、ベールを被った私を見るなり露骨に顔をしかめた。


「君がリリー嬢か。……わざわざ顔を隠しているということは、噂通り、よほど見るに堪えない顔なのだろうな」


 護衛として控えていた近衛騎士たち(その中には見習い騎士として入団したギルベルトの姿もあった)の間に、ピリッとした緊張が走る。

 だが、当の私はベールの中で涼しい顔をしていた。


(ええ、おっしゃる通りですわ。殿下は美形ですから、私を見たらさぞかし目が腐ることでしょう)


「殿下のお言葉、重く受け止めますわ」


 私は完璧なカーテシーを披露した。


「私は自身の容姿が殿下の御心を害することへの配慮として、このベールを着用しております。私には王太子妃としての『事務的な公務』と『領地の帳簿管理』のみお申し付けくださいませ」


「ふん。自分の立場を弁えているなら、それでいい。私に愛を乞うような無様な真似だけはするなよ」


 王太子は私を冷たくあしらった。私にとっては最高の労働環境の確約である。「はい、喜んで」とノータイムで承諾し、私は「形だけの婚約者」となった。

 しかし、そんな私の背中をいつもギリギリと歯を食いしばって見つめている男がいた。

 近衛騎士となった、幼馴染のギルベルトである。




「……おい、リリー」

 ある日の図書室。

王太子の仕事を片付けていた私に、精悍に成長したギルベルトが声をかけてきた。


「お前、なんで殿下にあんな扱いを受けて平気なんだよ! お前が裏でどれだけ殿下の仕事を片付けてるか、俺は知ってるぞ!」


「おかしなことを言うのね。私が冷遇されるのは、当然のことですわ」


「当然……?」


「だって、私は殿下の隣を歩くのもおこがましい容姿でしょう? 私は仕事でその御恩をお返ししているだけですわ」


 私が事もなげに言うと、ギルベルトは「は……?」と頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。


「お、おい……お前、本気で言ってるのか?」


「ええ。昔、あなたにもショックを与えてトラウマを植え付けてしまったことも反省していますし……」


「トラウマじゃねえよ!!」


 ギルベルトが図書室に響くような大声を出した。


「こ、こいつ……マジで脳の病気か……!? なんで自分の顔のヤバさに気づいてないんだ!?」


「え? 何か仰いました?」


「いや、なんでもない……っ! くそっ、あの馬鹿殿下め……後で絶対に後悔させてやる……っ!」 


 ギルベルトはブツブツと呟きながら、拳を握りしめていた。その顔は、十歳のあの日と同じように真っ赤に染まっている。


(やっぱり、私の顔を思い出して具合が悪くなってしまったのね……)


 私は深く反省し、ベールの裾をきゅっと握りしめた。

 私が十八歳を迎え、王立魔術学院を卒業するその日。

 王城の大広間にて開かれた盛大なパーティーで、私は壁の花と化していた。壁際に立つ近衛騎士のギルベルトと視線が合うと、彼は心配そうに見つめ返してきた。

 その時だった。

 広間の扉が開き、広報官の声が響き渡った。


「王太子殿下、ならびにマリア男爵令嬢の入場です!」


 現れたのは、王太子殿下と、その腕に抱きつく小柄な令嬢。彼女こそ噂の『マリア男爵令嬢』。ぱっちりとした二重まぶたに明るい茶髪という、この世界における「絶対的な美少女」のテンプレだった。

 王太子は広間の中央に立ち、冷酷な声で私の名を呼んだ。


「リリー侯爵令嬢! そこへ直れ!」


 私は静かに歩み出ると、完璧なカーテシーを披露した。


「お呼びでしょうか、殿下」


「白々しい! 私は今日、この場で皆に宣言する! リリー侯爵令嬢、貴様との婚約は、本日ただいまをもって破棄させてもらう!」


 ざわっ、と広間がどよめきに包まれた。

 王太子は勝ち誇ったように、マリア令嬢の肩を抱き寄せる。


「貴様のように、顔すらまともに見せられぬ不気味な女など、我が国の王妃にはふさわしくない! マリアのような可憐で愛らしい娘こそが、私に相応しいのだ! 私は彼女と真実の愛に生きることを決めた!」


(殿下のおっしゃる通りだわ。私が王太子妃になるなんて、国家の損失だもの)


 私は一切の動揺を見せず、再び深く頭を下げた。


「殿下のお言葉、確かに承りました。私の至らなさゆえ、殿下には長年ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。お二人の末永いお幸せを、心よりお祈り申し上げますわ」


 未練など微塵もない、完璧な引き際。私が踵を返そうとした瞬間、マリア令嬢がヒステリックな声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! なによその態度! どうせそのベールの下は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃなんでしょうね! 皆に見せてみなさいよ!」


 マリア令嬢は憎悪に顔を歪め、あろうことか、私を十五年間隠し続けてきた純白のベールを、力任せに乱暴に引き剥がしたのだ。 



 ――バサァッ!!


 白い絹布が宙を舞い、床へと落ちた。

 隠すものを失い、私の『素顔』が、数百人の貴族たち、王太子、そしてマリア令嬢の目の前に完全に晒し出された。


 直後。


 大広間に、時間が完全に凍りついたかのような『絶対的な静寂』が降りた。


 音楽が不自然に途切れ、誰の話し声も聞こえない。数百人の貴族たちが、息を吸うことすら忘れたかのように、ただ一点――私を見つめたまま石像と化していた。

 彼らの網膜を焼き付けたのは、想像を絶する『美』だった。

 夜の闇をそのまま紡ぎ出したような、流麗で艶やかな黒髪。シャンデリアの光を弾く、陶器のように滑らかで透き通る白い肌。

 そして何より、見る者の魂を根こそぎ奪うような、涼しげで切れ長な瞳と、仄かな色気を帯びた薄い唇。

 誰も見たことがない、千年に一度の奇跡と呼ぶべき『究極の神の造形』。あまりの美しさに、人々の脳の理解が追いついていないのだ。


 しかし。

 そんな事実に1ミリも気づいていない私は、血の気が引く思いだった。


(あーあ……! やっちゃった……!!)

(……みんな、固まっている。声も出せないほど、気持ち悪くなったのね……)

 申し訳なさで胸が潰れそうになり、深く目を伏せた。

 だが……どうして誰も顔を背けないのだろう? なぜ、肌が焼け焦げそうなほどの熱い視線を感じるの?

 吐き気を堪えているはずの人たちの目が、なぜ輝いているのだろう?


 私の頭が混乱した、その時——


 パリンッ。


 誰かの手から滑り落ちたグラスが砕ける音が、静寂を破った。

 それを合図にしたかのように、張り詰めていた空気が一気に弾けた。


「な、なんという……なんという美しさだ……!」


「あのような神秘的な瞳、見たことがない! 美の女神が降臨されたのだ!」


 ドサッ、ドササッ! と、あちこちで貴族の男たちが、その圧倒的な美に耐えきれず、自ら膝をついて祈るように両手を組み始めた。感動のあまり涙を流す者すらいる。


「あ、あれが、リリーなのか……? あんな、国宝のような女を、私は……!」


 王太子がガクガクと震えながら、血走った目で私に手を伸ばそうと一歩踏み出した。


 ――その時だった。


「……っ、見るな!! 全員、目を閉じろ!!!」


 大広間に凄まじい怒号が響き渡った。

 壁際から猛烈な勢いで飛び出してきたギルベルトが、私の目の前に立ちはだかる。彼は自身の分厚い純白の騎士マントを乱暴に外すと、バサァッ!と私の頭から深く被せた。


「な、何をする、貴様! 彼女から離れろ!」


 我に返った王太子が手を伸ばしてくるが、ギルベルトは表情一つ変えず、剣の柄を右手で握った。


「殿下」


低く、静かな声だった。


「あなたは今しがた、ご自身の口でこの方との婚約を破棄されたはずだ」


「そ、それはそうだが――!」


「では、この方への一切の権利は、もはや殿下にはございません」


ギルベルトは剣の柄でガァン!と王太子の手を弾き飛ばした。金属質な衝撃音が広間に響き、群衆がどよめく。


「な――貴様、この私に剣を向けるか!? 不敬罪だぞ!!」


「不敬罪は喜んでお受けします」


ギルベルトは一切怯まなかった。その目には、十歳のあの日から八年間、ずっと燻り続けていた炎が、今ここで完全に燃え上がっていた。


「――この令嬢は、私が長年お慕いしていた方だ。命に代えても、もう誰にも渡しはしない」


ギルベルトは私をマントごと抱き寄せ、軽々と横抱きに持ち上げた。


「え、あの、ギルベルト様!?」


「黙ってろ」


「で、でも……!」


「黙れと言った」


断固とした声だった。有無を言わせない、騎士の声だった。

悲痛な叫びを上げる王太子を置き去りにして、ギルベルトは唖然とする数百人の群衆の中を、堂々と歩き出した。誰も止めようとしなかった。それどころか、道が割れた。まるで、こうなることが最初から決まっていたかのように。

その背中を、私はマントの隙間からぼんやりと見つめていた。


(……不敬罪は喜んでお受けします、って。この人、正気なのかしら)


私はそっと、ギルベルトの騎士服の胸元を握りしめた。




 ――その後、王都は大混乱に陥った。

 『国宝』を公衆の面前で罵倒した王太子は廃嫡が決定し、私を保護したギルベルトの伯爵家は、侯爵家との強固な結びつきを得て大出世を遂げることになった。

 しかし、そんな政治的な激動などつゆ知らず。

 ギルベルトの私室にある長椅子に下ろされた私は、心底申し訳なく思い眉を下げていた。


「ギルベルト様……あんな私の顔を隠すために、王太子殿下に刃向かって嘘まで吐かせてしまって本当にごめんなさい⋯」


 私が謝罪を口にした瞬間。ギルベルトがずるずるとその場に崩れ落ち、深ーく頭を抱え込んだ。


「…………嘘だろ。お前、あの大広間でのカオスを見て……本当に、自分の顔のヤバさに気づいてないのか……?」


「え?」


「え? じゃない! なんで『自分がブスだから周りが引いてる』って考えになるんだよ!」


 ギルベルトは顔を真っ赤にして私に詰め寄り、両手で私の肩をガシッと掴んだ。


「お・ま・え・は・絶・世・の・美・女・な・の!!」


 ギルベルトはほとんど叫ぶように言った。


「お前のベールが外された瞬間、広間が凍りついた。あの静寂は恐怖じゃねえ。圧倒されすぎて、息の仕方すら忘れたんだ。跪いて祈ってる奴ら、泣いてる奴……全部お前の顔に狂ったからだよ!」


「……えっと? つまり、どういうことでしょう?」


 私は、ポカンと口を開けた。

 絶世の美女。私が。前世で誰からも愛されなかった、この顔が。


「……嘘。だって、みんな二重まぶたで、華やかなお顔をしているじゃない。私なんて、ちっとも可愛げがなくて……」


 私が震える声で告げると、ギルベルトは少しだけ力を緩め、そのまま私の肩口に崩れ落ちるように額を押し付けてきた。


「いいか、リリー。お前は……俺の命を奪いそうなくらい、狂おしいほど綺麗な女だよ」


 ギルベルトの大きな手が、私の頬をそっと包み込む。


「十歳の時、初めてお前の素顔を見た日から、俺はずっとお前に狂わされてる。頼むから、もう誰の前でもその顔を見せるな。一生、俺だけのものになってくれ」


 それは、前世からずっと、私が心の底で欲しくてたまらなかった『そのままの自分を愛してくれる言葉』だった。私の胸の奥で固まっていた冷たいトラウマが、彼の体温でふわりと溶けていくのを感じた。


「……ギルベルト様が、そうおっしゃるなら。信じてみようかしら」


 私がポロポロと涙をこぼしながら微笑むと、彼は「っ……!」と言葉にならない声を漏らし、私を壊れるほど強く抱きしめた。




 ――それから、数ヶ月後。

 侯爵邸の美しい庭園で、私は優雅にお茶会を楽しんでいた。向かいの席には、近衛騎士団長の座に就き、私の正式な婚約者となったギルベルトが座っている。


「本当に私の顔、いいのかしら?」


「馬鹿言え。今朝も俺はお前の寝顔を見て、三回くらい心臓が止まりかけたんだぞ」


「……心臓が弱いのなら、お医者様に診てもらった方がいいのでは?」


「そういう意味じゃねえ!!」


 相変わらず自分の美貌にはピンときていない私だが、彼のその不器用な溺愛の言葉は素直に心地よかった。

 私が紅茶を一口飲み微笑むと、ギルベルトが立ち上がり、私の頭にふわりと純白の布を乗せた。以前のものよりもさらに刺繍が美しい、特注の上質なベールだ。


「俺が被せてやる。……もう、二度と外すなよ。俺以外の男に見せるな」


「あら。今度は隠したいのはギルベルト様の方なのですね」


「……悪いか」


 全く悪びれていない。

 ギルベルトはそう言いながら、まるで世界で一番大切な宝物に触れるような手つきで、優しくベールを私の頭に被せ、そっと整えた。


「ふふっ。承知いたしましたわ、私の過保護で、独占欲の強い騎士様。……でも、たまには外して、あなたに顔を見せてあげますわね?」


 かつては自分の容姿を隠すための呪いだったベールは、今では彼からの、重たくて甘い『溺愛の証』へと変わっていた。

 自分の顔を呪い、一生孤独に日陰で生きるはずだった私は――今世では、最強で不器用な騎士様に死ぬまで甘やかされる、世界一幸せな隠蔽令嬢となったのである。


少し加筆しました

読んで頂きありがとうございます

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