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高い城の男  作者: 白乾兒
8/10

8話 2年後


2年後――


俺は無事、東工大に入学し、

順調とも言える学生生活を送っていた。



科学というのは、本来シンプルだ。


嘘をつかない。

結果がすべてだ。


……少なくとも、そう習う。



だが、この世界では――

時々、その前提が揺らぐ。



例えば、広島。


原爆とされている、あの爆発。



資料を読み、数値を追い、

熱量を当てはめていくと――


どうにも、辻褄が合わない部分がある。



本当に“あれ”が同じものなのか。



まあ、いい。


今の俺には、確かめようのない話だ。



そんなある日。


夢の島の避難所で一緒だった

あの女の子と再会した。


当時は中学3年だった彼女も、

今では高校2年生になっていた。


ずっと俺に憧れていたらしい。


時間というのは、妙にあっさり人を変える。



「そういえば、今度ワクチン打つんだよね」


寝物語に、彼女は軽い調子でそう言った。


HPVワクチン――

子宮頸がん予防のためのものらしい。



俺は、少しだけ考えてから言った。


「……やめておいた方がいいかもしれない、



おまえの家業が二つ星のレストランでない限りは。」



「どうして?」



俺は少しだけ笑った。


「だいたい儲かるのは、医者とフランス料理だ」




向こうの世界では、

それは問題になっていた。


副作用の報告。

承認プロセスの曖昧さ。


そして――判断に関わる連中の動機。



「まあ、最終的に決めるのはお前だけどな」


そう付け加える。


ここは、あの世界じゃない。



ただ一つ、はっきりしていることがある。


どの世界でも――

「正しさ」は、案外単純じゃない。



医療も同じだ。


この世界の医療は、

やけに分業化されている。


症状を切り取り、

薬で抑え込む。


それ自体は合理的だ。


だが――

それだけでいいのか、という違和感が残る。



向こうの世界では、

もう少し違ったやり方があった。


軍事と隣り合わせだった分、

人体はもっと“全体”として扱われていた。


良い悪いではない。


ただ、方向が違う。



そして気づく。


この世界は、

何かが極端に偏っている。


——静かに管理されている、と言った方が正確か。



誰かが作ったゲームの中で、

うまく立ち回る者。


今だけ、金だけ、自分だけ。



それを「エリート」と呼ぶ社会。



……悪くはない。


だが、どこかで見た構造だ。



「まあ、いいか」


俺はそう呟いて、空を見た。


この世界で生きる以上、

このルールに付き合うしかない。



——この世界は、少し静かすぎるようだ。


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