3話 夢の島
五月。
ゴールデンウィーク明け。
俺は江東区夢の島にある
都立体育館に身を置いていた。
研修施設を兼ねたその体育館には
・宿泊施設
・大型浴場
・プール
・スポーツジム
などが併設されている。
平時なら、市民の憩いの場として
賑わっているらしい。
だが今は違う。
何らかの事情で親と離れ、
震災から逃れてきた中高生たちの
避難所として使われていた。
今日から俺は、
都内の工業高校三年生として生活する。
震災特例として、
福島から東京へ移った高校生は少なくない。
編入試験の面接で
俺の成績を見た受け入れ先の教員は言った。
「これなら東工大附属でもいいんじゃないか」
結局、転入先は
水道橋にある都立工科芸術高校――
略して「都工芸」になった。
向こうでは土木や人間工学を学んでいたが、
“福島の高校では建築科に在籍していた”
ということになっている。
そのため、こちらでも
建築科に転入することになった。
避難所で過ごした一か月のあいだ、
俺は急ピッチで建築を学び直していた。
同時に、
日中は自動車学校に通いながら
毎日のように街へ出て情報を集めていた。
記憶喪失を装っていたせいで、
少し変わった奴だと思われていたが、
生活に困ることはなかった。
こちらの世界の高城萬が持っていたスマホは
かなり役に立った。
こういう機器は向こうにもあった。
ジャズやロックも普通に普及していた。
だが、スマホで音楽を聴いたり
映画を観たりする文化はなかった。
これも――
「日本が敗戦した世界」ならではの文化なのだろう。
少し複雑な気分だった。
ただ誤算もあった。
夢の島公園は、
夜になると妙な連中の溜まり場になるらしい。
ある晩、
体育館へ戻る途中だった。
暗い遊歩道で、
三人組が立っていた。
俺を見ると、
一人がニヤつく。
「兄ちゃん、ちょっといい?」
距離は五メートル。
声。
足運び。
視線。
――素人だ。
映画で観た
不良番長カポネ団みたいな連中だろう。
逃げる理由はない。
男が肩に手を伸ばした瞬間、
俺は一歩だけ前に出た。
手首を掴む。
ひねる。
骨が鳴る音。
男がその場に崩れ落ちた。
二人目が反応するより早く、
俺の膝が腹に入った。
呼吸が止まる音。
三人目は、
何が起きたのか理解できていない顔をしていた。
俺はそいつの襟を掴み、
静かに言った。
「帰れ」
男は青い顔でうなずいた。
三人は
逃げるように暗闇へ消えた。
後ろで、
誰かが小さく声を上げた。
振り返ると、
避難所の高校生たちが
数人こちらを見ていた。
ざわついた空気。
俺は何事もなかったように
体育館へ戻った。
――別に、大したことじゃない。
向こうの
“海軍予備士官学校”でも
よくあったことだ。
後から知ったのだが、
連中はハードゲイで
俺を仲間に引き入れたかったらしい。
……少し悪いことをした。
それから
二百五十ccの中古バイクを買った。
俺のいた世界にも
ヤマハとカワサキはあったが
ホンダは存在しなかった。
結局、
こちらの自衛隊で採用されているという理由で
カワサキKLX250を選んだ。




