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高い城の男  作者: 白乾兒
1/7

1話 始まり

目を覚ますと、そこは海岸だった。



頬に触れる砂は冷たく、潮の匂いが鼻を刺す。

遠くで波の音がする。


――どうして俺は、こんなところにいる?


朦朧とする頭を振りながら、考える。


一昨日、軍学校を卒業した。

その足で地元に帰り、昨夜は昔の仲間たちと飲みに行った。


そこまでは覚えている。


だが、その後の記憶がない。


ゆっくりと体を起こした瞬間、

俺は思わず息を呑んだ。


数メートル先の砂浜に、人が倒れている。


うつ伏せの中年の男女に仰向けに倒れた若い男が二人



全員、血まみれだった。

かすかにうめき声が聞こえる。


だが奇妙なことに、争った形跡がほとんどない。


――何が起きた?


頭の奥が鈍く痛む。

だが思い出せない。


そのとき、俺の視線が一人の男に止まった。


……似ている。


いや、似ているどころではない。


顔。

体格。

髪型。


まるで鏡を見ているようだった。


双子――いや、それ以上だ。


俺と、同じ人間。


男は浅い呼吸をしていた。

まだ生きている。


なぜか分からないが、俺はそいつを担ぎ上げた。



驚いたことに、ほとんど重さを感じなかった。


そして、ふと中年の男女の方を振り返ってみる。

もしかしてという思いが頭をよぎったからだ。



そのときだった。


沖合の海が、不自然に盛り上がっているのが見えた。


――津波だ。ヤバいぜ。


本能的に理解した。


俺は男を背負ったまま走り出す。

砂浜を抜け、坂道を駆け上がる。



肺が焼ける。

だが止まれない。


体は、まだ余裕がある。


――まるで長距離行軍の訓練みたいだ。


ふと、そんな言葉が頭をよぎった。


やがて海岸を見下ろす小さな駅に辿り着いた。


妙に静かだ。

人の気配がまるでない。


とりあえずそこで男を降ろす。


だが――


男は、もう呼吸していなかった。


俺はしばらくその顔を見つめていた。


俺の顔をした死体。


奇妙な既視感が背筋を冷やす。


……ドッペルゲンガーを見た人間は死ぬ。


そんな話を思い出す。


冗談じゃない。


俺は自分の頬を触った。

確かに俺は生きている。



俺は男の上着を探り、財布を取り出した。


中には運転免許証。


そこに書かれていた名前を見て、

俺は凍りついた。


高城タカギ マン


――俺の名前だ。


だが、免許証には俺の知らない年号が記されていた。


そして、生年月日。


4月2日


俺は、4月1日生まれだ。


つまり、この男は――


俺ではない。


その瞬間、背後から轟音が響いた。


振り向く。


津波が、もうすぐそこまで来ていた。


俺は男の革ジャンを脱がせ、左手に持つ。


どういうわけか、それを置いていく気になれなかった。


奴の背負っていた黒いデイパックを外し、

自分の背に掛け直す。


走りながら、革ジャンのポケットの重みに気づく。


とりあえず、高台に避難してから


革ジャンのポケットを確認すると


出てきたのはオートマチックピストルだった。


ワルサーPPK、32口径。


俺は反射的にデコッキングし、弾倉を抜く。


装弾数を確認する。


八発。


まだ残っている。


遠くで防災サイレンが鳴り始めた。


津波警報か?


その瞬間、足元が小さく揺れた。

地震か?



振り返ると、

駅舎は巨大な黒い波に飲み込まれていた。



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